女神様の絵本箱

「涼宮ハルヒの憂鬱」の二次創作小説ブログです♪ 基本甘々ハルキョンキョンハルメインです(^▽^)/ 先ずはSSリストよりどうぞなのです

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そして、夢見る少女は大人の階段を昇る……⑦(大人キョン君視点)

そして、夢見る少女は大人の階段を昇る……


・粗筋:キョン君は再び……その名前を口にします。それは何を引き起こすのでしょうか?

*****

「続きを読む」からは ……

 大人キョン君視点⑦:
【……そう、全てはお前の奇天烈自己紹介から始まったのさ(ジョン……スミス)】


……になりまーす(^▽^)/



*****

 周囲が夕焼けに染まる中、無言で見詰め合ったまま立ち尽くしている俺とハルヒ。
 その雰囲気に合わせでもしたのか辺りは奇妙な静寂に包み込まれ、それはまるでアニメか何かの演出を髣髴とさせる。
 それに伴い何とも表現し辛い———呼吸する事さえも躊躇われる程の———妙な緊張感が2人の間に満ちていった。
 それを察知でもしたのか、鳥や虫達は気遣うが如く沈黙を守り続け、川のせせらぎすらじっと息を潜めて俺達を伺っている様であった。

 全世界が固唾を呑んで2人の反応を見守っている……気がするのは俺の錯覚だろうか?

等と自問をしながらも、俺は愕然と驚愕と吃驚をミックスした心境なまま、飽きる事無くハルヒの頬を伝う涙に視線を固定させていた。
「…………」
 只でさえ、女の涙は男を動揺させるものなのだが、いやいや、それ以上に……これまでどれだけ激しく言い争い喧嘩をしようと1度たりとも俺の前で、「女の武器」を使った事の無い誇り高いSOS団団長様が人知れず泣いている姿———言うなれば初めて目の当たりにしたハルヒの慟哭シーン———は滅茶苦茶衝撃的な光景だった。
 それにも況して、ハルヒが高校時代にこれ程までに悲歌慷慨していた事を、全く察していない己自身の鈍感ぶりに対し怒髪衝冠せざるを得ない。
 このやり場の無い怒りに身を任せ、今直ぐ当時の俺を探し出し、正座をさせた上で小一時間は説教をしてやりたい気分だった。
 ……とまぁ、そんな感じの支離滅裂な感情やら思考やらが一切合財合算された結果、自分自身でも何に驚き何に苛つき何に怒っているのか判らない程度に俺は絶賛混乱中だったのだが、———そこは伊達にSOS団の雑用を長年勤めている訳ではないと胸を張らして頂こう———微かに残っていた理性が所有者を無視し自動制御で状況分析を開始する。

*****

 ふぅぅ……。
 いやいや待て待て。
 落ち着け、俺よ。
 俺とハルヒは———相思相愛恋人関係だってのを除いても———将に一心同体と言っても過言では無い関係だろ?
 日頃ハルヒだって「お互いに隠し事は無しなんだからねっ」と満面の笑顔で言い放ち、俺は「やれやれ」と苦笑しつつもそれを是としているんだぜ?
 その俺がこの事実を知らないだと?
 あのハルヒがこの事実を俺に隠し続けているだと?
 有り得ん。
 って事は……此処は俺が数刻前までいた時間軸と繋がりが無い、詰まりは異時間軸ではないだろうか? 
某藤原と朝比奈さん(大)との会話を思い返せば、数多の時間軸が存在する事は確定事項であるからして、その可能性も捨て切れないな。
 いや、きっとそうだ。
 此処は異時間軸に違いない!!

*****

 ……とまぁ、満腔の自信を持って断言したにも係わらず、だが、その甘ったるい分析結果を盲信するには奇妙な事件に遭遇し過ぎたらしい、悲しい事に発案者自身でさえ即座に疑念を感じてしまい、寧ろそれが冷静さを取り戻す切っ掛けとなったってのは皮肉以外の何者でもない。
 と言う訳で、その現実逃避を試みるが如き余りにも都合のイイ解釈に対し、
「やれやれ……んな訳あるかい」
とひっそり突っ込みを入れてしまう位には己を取り戻しつつ、俺はその薔薇色的思考結果を遥か彼方に放り投げ、即座に再度情報整理を試みた。

*****

 ここが異なる時間軸だと?
 それこそ「冷静になれ、俺!!」って所だな。
 何故なら……。
 見習い状態だった高校時代ならイザ知らず、正式なエージェントになって久しい朝比奈さんが今更そんな初歩的ミスをするとは到底思えず、況してや、長門さんが「今回の時間跳躍を観測していた」と明言していた事実を鑑みても、その異時間軸理論自体が自己保身を目的にした責任転嫁でしかない事は明白だぞ、俺よ。
 そう、信頼すべき仲間であるあの2人を疑う位なら俺は自分自身を疑うさ。
 それが筋ってモンだろ?
 ん?
 って事は、そうなると、やはり此処は俺が過ごして来た時間軸的過去確定な訳なんだが……いやいや待て待てちょっと待て。
 …………。
 ……おいおい。
 だとすると、そうだとするとだ……さっきちょろんと頭を過ぎった実に嬉しくない推論が正しいって事になってだな、それを纏めると、そう、それは詰まり……、

『周囲には「ハルヒの事をこの世で一番理解している判っている」と豪語し、更に加えるならば、この時期には恋人的地位を獲得し親密な関係になっていたにも係わらず、当時の俺は大切な団長様が嘆き悲しみ苦しんでいた事を、その原因も含めて全く認識出来なかった鈍感愚者である』

 ……って事になるんじゃなかろうか?

 それでいいのか、俺?

*****

「…………」

 イイも悪いも関係無く、マジで即座に否定したくなるその問い掛けは、動揺し脆くなっていた俺の心を容赦無くグリグリと抉ってくれ、そして、俺が呻き声を上げる間も無く、それは疾風怒涛一気に収束圧縮され脳内で言語化し、程無くそれは「罪悪感」と言う単語へと変化、瞬時に心の奥で蠢いていた鈍痛が先鋭化した。

 俺が感じた罪悪感、それは……。

 ぶっちゃけ、それは今まで経験した事が無い程の巨大で濃厚だった。
 マジで、それは「精神崩壊しちまうんじゃなかろうか?」と疑わざるを得ない程の重圧を伴っていた。
 冗談抜きで、信仰心の欠片も無いくせに、即教会に駆け込んで跪き神父様に懺悔したくなる程巨大だった。

 そして、その強烈激烈未体験な精神的圧力に俺の柔な心が持ち堪えられる筈も無く、何も手を打たなければ粉々に砕け散り、結果、俺は突発的発狂状態にでも陥っていたかもしれない。

 若し……この場に俺が1人だけで佇み、そして、ハルヒが居なかったならば。
 更に付け加えると……ハルヒが俺の意識を惹き付ける行動を起こさなかったならば。

 そう、それはSOS団団長と出会ってからこっち、嫌に成る程繰り返されてきたテンプレート的事象で、今更断言するのも恥ずかしい事だが、俺の周辺を引っ掻き回すのがハルヒならば、平穏平和を与えてくれるのも決まってハルヒなのである。

 今回も同じだった。

 罪悪感に拠る激しい痛みに耐え切れなくなる寸前、その強大な精神的圧力が消滅したのは、偏に眼下に佇む女子高生ハルヒの仕草のお陰だったのだ。
 助かっただの何だのと言う前に、俺が抱いた正直な感想をハルヒ本人が耳にすればきっと柳眉を逆立て、
「何ですって、バカキョン!! ちょっと、其処に正座しなさいっ。あんたには団長に対する尊敬の念を、徹底的に叩き込んで挙げなきゃいけないわね!!」
と説教される事は確実なんだが、まぁ、それはさて置き、団長様のお怒りを恐れずに忌憚無く心情を開陳すれば、それは将に「天真爛漫なハルヒらしい」と断言出来る仕草だったのである。
 だからだと思う、それを目にするや否や、瞬時に自責の念で強張っていた魂がフッと弛緩したのは。
 そして、その開放感が齎す至福たるや表現する術も無い程で、自然、俺の頬に淡い微笑が浮かぶ。
 「我ながら柔らかい微笑みだな」と心の中で呟きつつ、———微笑ましいとすら感じてしまった———往年のハルヒらしいその一連の仕草を、俺は脳内でリピートする事にした。

*****

 俺の記憶中枢は正確にその場面を再現する。

「…………」
 突如遊歩道に現れた不審人物———詰まりは俺の事だが———を呆気に取られた表情で見返したのは一瞬だけの事であり、俺の視線が流れ落ちる涙に集中しているのを察したのだろう、ハルヒはハッと我を取り戻したかと思うと慌てて顔を背け、まるで反抗期を迎えている幼子の様に手の甲で目元から流れていた雫をグシグシと乱暴に拭ったのである。
 その頬が真っ赤なのは夕日に照らされているからだけでは無いだろう……。
 そして、涙を拭き終わったと判断したのかどうか、岸壁へと顔を戻し滅茶苦茶不機嫌そうな表情を浮かべながら、ハルヒは物理的圧力すら感じさせるキッツイ視線で俺を射抜きつつ、
「よくもあたしの恥ずかしい姿を見てくれたわねっ……コイツ、一体全体どんな刑に処してやろうかしら?」
と何やら物騒な事を考えている様に感じられたのだが、しかし、俺がたじろぐよりも先に微笑ましさを感じたのは先に説明した通りである。
 何故なら、高校卒業以後のハルヒは———一体全体何が原因なのやら、何やら憑き物が落ちた様に———大和撫子的なお淑やかさを獲得し、その結果、高校時代の様な積極的活動的言動を見せなくなって久しく、詰まりこの様な元気っ娘的仕草を目にするのは実に何年ぶりかな訳で、故にだ、妙に懐かしくなって俺が歓天喜地したのも無理は無いと思わないか?
 とまぁ、一体全体誰に対して言い訳しているのか俺にも判らんのだが、まぁ、それはさて置き……既に述べた様に、その懐古の情によって呼び起こされた強烈な歓喜の波動は重苦しい罪悪感を一気に消し去ってくれ、それにより俺は、
「この事実関係は還ってから長門や朝比奈さんにでも聞けばいいさ……」
と前向きに考える余裕が出来たのだ。
 そして、俺はそのお礼だと言わんばかりに、高校生ハルヒが確実に感じているであろう羞恥心やら何やらを慮り、独り慟哭していた事実を華麗にスルーしながら、まるで近所に住み着いている顔見知りの野良猫に挨拶する様に微笑みを浮かべヤンワリと声を掛ける事にしたのだが、この気遣い、将に団長専属雑用の面目躍如だと自画自賛させて頂こう。

*****

「よう、何やってるんだ?」

 何やら以前も同じ様なシチュエーションで同様の問い掛けをしていた事を思い出し、これまた懐かしさを感じつつ、何と無くハルヒの返答を予想しながら、頭を掻き掻きゆったりとした心境でそれを待つ俺。
 そして、当のハルヒは俺の問い掛けを全く予想していなかったのか、一瞬虚を突かれた様に口篭り、だが、次の瞬間には、それを悔しいとでも思ったらしい、まるで初めてネコジャラシを見た子猫が条件反射的に毛を逆立て威嚇する様な雰囲気を纏わり付かせつつ、勢い良く身体毎振り返り傲然と胸を張って返答してくれた。

「見れば判るでしょ? 不法侵入よっ」
「…………」

 いやいや、川岸に設置されている「危険ですので川の中に入らないで下さい。違法行為は法律により罰せられます」と書かれた役所謹製看板を目にするまでも無く、まぁ、日本的常識で考えれば「河川に入る行為そのもの」が宜しくない事なのは明白な訳であり、あー、だからな、そんな非合法行為を絶対的善行の如く自慢げに言われても……俺の様な常識人的一般人は困るんだがなぁ。
 呆れ返る反面、「何ともハルヒらしい返事だな」と内心納得していたのだが、しかし、冷静になって考えると、俺から見れば昔懐かしの団長様だとしても、反対に高校生ハルヒから見れば、未来人的属性を持つこの俺は、出会った事も無い怪しげな小父さんでしかない。
 故に俺を睨め付けるその表情はと言うと、接敵直後に軍事常識上有り得ない近距離敵前回頭を突如試み始めた日本艦隊を眺めるバルチック艦隊司令長官ロジェストヴェンスキーの様であり、その内面の不審感はその口から放たれた質問にも色濃く現れていた。

「で、あんた、誰? 変態? 誘拐犯?」

*****

 時刻は暫くすれば日も沈もうかと言う夕刻、そして、付近に人気は無く人家も近いとは言い難い。
 そんなシチュエーションで見知らぬ男に声を掛けられれば、ハルヒでなくとも警戒するだろうと思う。
 だからと言って、この場を去ると言う選択肢が咄嗟に浮かぶ筈も無く、では、会話を続けるに最良の内容はと考えると……正直に打ち明けよう、何も思い付かない俺であった。
 慟哭する団長様を心配して声を掛けたまでは良かったが、その後の事を何も考えていなかった俺は、ハルヒの誰何に対し的確に返答する事が出来なかったのだ。
 そして、ハルヒはと言うと問い掛けをしたにも係わらず、返答を返す事無く押し黙った俺への興味をあっさりと失ったらしい、
「……別にあんたが何者でも構わないんだけどさ、あたし、こう見えても忙しいの。だから邪魔しないで頂戴」
と冷たく言い捨てて、スッ……とソッポを向いた。
 瞬時に無表情になるハルヒ。
 それはまるで「貴重な時間を無駄にしたわ」とでも言いたげな態度であり、高校入学当初の拒絶感を思い起こさせる表情と口調でもあり、そして、周囲全てを敵視したハリネズミが針を立てて丸まっているが如き雰囲気だったのだが、しかし、それらを認識した瞬間、懐かしさ故に感じていたホンワカとした温かなモノが俺の中から消滅し、それに取って代わったのは何故か強烈な危機感だった。

 ハルヒの言動の何に刺激されたのか判らない。

 だが、身震いする程の焦燥感を覚えたのは紛れも無い事実で、今までの雑用的経験則から導き出されたのは、
「ハルヒは何か良からぬ事を企んでいるのではないか?」
「古泉や長門や朝比奈さんが血相を変えて奔走せざるを得ない出来事を発生させる心算なんじゃなかろうか?」
と言う推測だった。
 そして、俺はそれを否定する材料を何ら持ち合わせておらず、更にハルヒの持つ非常識的情報操作能力の存在が推論の正当性を強めてくれる。

 まさか……情報改変!?

 その非日常を象徴する単語が激しく脳内で瞬き、その結果、俺は……俺が此処にこの時点に遡行して来た意味を理由も無く悟った。

 若しや、悲しみの余り全てを拒絶し、今にも自らの殻に閉じこもろうとしている高校生ハルヒを、どうにかしないといけないのではないか?
 何かトンデモナイ事を仕出かす前に。
 機関が幾度も企画した旅行イベントの様に先手を打って。

 それは本来ならこの時代にいる俺の役目なのだろうが、何らかの理由で気が付いていないのだ、過去の俺は。
 だから、この場に居ないのだ、この時代の俺は。
 故に、ハルヒを止められないのだ、高校生の俺は。
 ……恐らくで多分で推測なのだが、しかし、九分九厘間違いないだろう。

 それならば判る、朝比奈さんが俺に正確&詳細な情報を渡せなかった理由が。
 そう、当事者に開示出来る訳がないのだ、彼らの厳格なルールからすると。

「…………」
 そこまで推論した結果、俺は自らが重要な局面に立たされている事に気が付かされた。
 全てが推論でしかないので実感が湧かない事この上ないが、だが、きっと世界的に重大な分岐点に違い無いと言う確信は小揺るぎもしない。

 何故なら、悲しいかな、今まで俺の勘がこの手の事で外れた事は皆無だからだ。
  
 そして、その経験に照らし合わせると、どうやら現時点が所謂「歴史的分岐点」って奴のようで、結果、周囲を漂う空気に独特な重苦しさが混ざったように感じられた。
 それは……あの冬の部室で長門から提示された「エンターキー」に関する設問に接した時と類似した感覚だと言えば判り易いかも知れない。

 注意しろよ? 
 その選択次第で何かが変わっちまうぞ?

 誰かの意味深な忠告が脳裏で反響した瞬間、ドクン……と心臓が大きな音を立てた。
 一気に心と身体が緊張する。

 一体全体何が起こっているのか、何が起ころうとしているのか、さっぱり判らないまま、しかし、このまま沈黙し続けるのはヤバイ!!……そんな焦燥感に駆られつつ徐に口を開いた俺なのだが、実はこの時点で、己が何を口走ろうとしているのか理解していた訳では無いと断言しておこう。

*****

「やれやれ、怪しいのは否定せんがな……」
「じゃあ、さっさとどっかに……」
「まぁ、待てよ……そういうお前も、傍から見れば怪しさ大爆発何だが?」
「むっ!? あたしのどこが怪しいって言うのよ? 言い掛かりも甚だしいわね!!」
「いやまぁ、何と言うか……お前、思いっきり前科があるじゃねぇか」
「は……?」
「こんな所で1人っきりって事はだ、又、以前の様に人知れず悪巧みを企んでるんだろ?」
「……以前? 何よそれ、バッカじゃないの、あんた?」

 その一連の遣り取りの結果、困惑の度合いを深めると同時に警戒心をも強めたらしいハルヒなのだが、その反面、失っていた俺への興味を持ち直してくれたらしい、曲がりなりにも会話の相手をしてくれてはいるのだが、だからと言って、団長様の機嫌が回復した訳でも、俺が抱く焦燥感が消えた訳ではない。
 天上天下唯我独尊を絵に描いた様なハルヒの事だ、興味を完全に無くした瞬間から、俺がどれだけ語り掛けたとしても決して聞く耳を持たず無反応を貫き通すだろう。
 そして、それは多分、取り返しが付かない事象を呼び起こすに違いないのだ。

 故に俺は口を動かし続けた。
 ハルヒの注意を惹き付け続けるために。
 そう、思い悩んでいる暇は無いのだ。

「やれやれ。久しぶりだってのに連れない奴だな」
「ちょっと、あんた……本っ気で馴れ馴れしいわね!! 何、若しかしてナンパ? なら……」
「おいおい、忘れたのか? 以前、同じ様なシチュエーションで、俺は無理矢理希代な図面をライン引きで描かされたんだぜ……そう、お前に監督されてな」
「……お断り……え?」
「確かあれは東中だったよな? そう、深夜の事だった。人気の無い東中の校庭に一緒に忍び込んで……覚えてないのか、お前は?」
「…………」
「俺は忘れようにも忘れられ無いんだがなぁ」

 その苦笑気味の感想を耳にしたハルヒは文句を口にする事無く、今まで見た事も無い程唖然とした表情を浮かべ呆然と俺を見詰めていた。
 その稀有な表情を眺めつつ、会話の流れ的にだ、知らず知らずの内にルビコン川を渡り始めてしまっている事に気が付いてしまったのだが、事情が事情だ、今更止められる訳も無く、
「なるようになれだ。毒を喰らわば皿までって言うしな」
と諦観した様な、それでいて何故か高揚していく様な気分のまま、下手糞なウィンク一回、俺は先程と変わらぬ口調で話し続けるのであった。

「あの図形は宇宙人向けで、その意味は、恐らく“私は此処に居る”……だろ?」
「…………」
「あー、まぁ、何だ、そんな訳で。もう一度尋ねさせてくれるか?」
「…………」
「ゴホン、それで……今度はどんな悪巧みをしているんだ?」

*****

 俺が口を噤んでからも、まるで街中で他界した筈の祖父にバッタリ遭遇した孫娘の如くハルヒは茫然自失し呆けたままで、無音の時間がゆっくりと経過していく。
 咄嗟に「ヤバイ……若しかして何か失敗したか?」と言う嫌な自問が脳裏を過ぎり、焦った俺が再度会話を再開しようとした矢先、ハルヒはいきなり勢い良く俯いたかと思うと、顔を伏せたまま微かに肩を震わせた。
 その表情は髪の毛の影に隠され窺い知る事が出来ず、その行動の意味を図りかねて俺が眉を顰めていると、ハルヒさんはその足元を見詰める様な体勢を保持しつつ、ザブザブと豪快に水を掻き分けながら、川岸……と言うか俺目掛けてズンズン歩き出したのだ。
 何やら殺気漂うその雰囲気に俺が思わず逃げ腰になる中、ハルヒは顔を伏せ無言のまま護岸を一気に登り俺の傍まで一直線、そして、眼前で急停車する。
 団長様が何を考えているのかさっぱり判らないが故に、肉食獣に狙われた草食動物の如く怯えつつも、どうにか俺はハルヒに声を掛けたのだが、そんな事をお構い無しに女子高生の手は光の速さで以って、俺の襟首をむんずと掴みやがった。
「お、おい? 一体どうした……ぐえっ!?」
 そして、俺に目を白黒させる暇すら与えず、ハルヒは顔を上げつつ手に力を込め俺をグイッと引き寄せる。
 一気に首が絞まると共に、俺の額とハルヒの額が鉢合わせになり、「ゴンッ!!」と豪く鈍い音が川辺に響く。
 激しい衝撃のため目の前で火花が散った。
 身体の芯にまで響く激痛。
 一瞬意識が飛び掛け視界が暗くなる。
 だが、どうにか精神を心の中に押し留めつつ、俺は反射的にハルヒへと文句を叩き付けようと口を開き、そして、不覚にも絶句させられた。
「…………」
 それは決して視界一杯に広がるハルヒの美貌のせいでも、額のタンコブが痛かったからでも首が絞まり過ぎたからでもない。

 理由は単純明快。

 俺を見詰めるハルヒの瞳の色……と言うより、その中で渦巻く無言の訴え掛けを正確に解読してしまったせいであった。
 目は口ほどにモノを言う。
 それは確かに真実だった。
 では、俺はそこから何を読み取ったかと言うと……それは、不安であり不満であり諦観であり絶望と言った意気消沈的感情群だったのだ。  
 それはあの冬の出会いの際にロングヘアハルヒが見せたのと同様、いやそれ以上に深く濃厚な感情だった。
 だが、俺は反応を返す事無く無言で至近距離にあるハルヒの美しい顔をジッと見詰め、しかし、そのハルヒはと言うと自信無さ気に視線を上下左右に泳がせつつ、恐れ戦いた様な独り言を漏らす。
 その声は老婆の如く掠れていた。

「な、何で、その事を知ってるの? うそ……いえ、あたしは、それ、誰にも言ってない、今の今まで誰にも……皆にだって、いえ、キョンにも……作業を手伝ってくれた人の事も、あの文字の意味も……だから、それを知ってるのは……あたしと、そう、あたしと……もう1人だけ……え?……う、うそ……でしょ?」

 ハルヒの自分自身へ確認する様な小さな呟きを耳にしつつ、俺は次にハルヒが発するであろう質問を、以前の体験に照らし合わせつつ予想し、覚悟を決める意味で深く静かに深呼吸。
 一気に肝が据わる。
 「エンターキー」を押す直前の覚悟を思い出した。
 それに敏感に悟ったのか、ハルヒの喉もゴクリと鳴る。
 その音を契機に大きく揺れていたハルヒの瞳が俺へと焦点を合わた。
 ハルヒの大きく綺麗な瞳から負の要素が消えつつあるのを確認すると同時に、俺も団長様を静かに見詰め返す。
 だが、その表情の中に未だ浮かんでいたのは、ハルヒらしからぬ縋る様な、そして、不安と悲しみと期待を同時に我慢し耐えている様な複雑な色だった。
 それを悟った俺は視線に想いを込めてハルヒに送り届ける。

 心配するな。俺はお前の味方だ。何時でも何処でも何があっても。例えこの命が尽きようとも、魂だけになろうとも、そう……永遠に。
 だから、何も、心配するな。
 
 それが届いたのかどうか、ハルヒの身体からこわばりが解ける雰囲気が伝わってきた。
 俺の襟首を締め上げる力も弱まる。
 そして、ハルヒが俺へと言葉を投げ掛けてきたのは、しかし、それでも数瞬躊躇い口を開閉した後の事であった。

「……あ、あんた、名前は?」

 その予想通りの問い掛けに対する答えなど1つしかなく、今更迷う程俺は愚かではない。
 だから、俺は少しも躊躇う事無く口にした。
 ハルヒへの切り札になるであろうと推測され続けていた名前を。
 表現出来ない程複雑過ぎる様々な想いと感情を込めて。


「ジョン……スミス」


 ……その瞬間、世界が震撼したのを俺ははっきりと認識した。

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  1. 2013/10/16(水) 14:46:23|
  2.  そして、夢見る少女は大人の階段を昇る……。
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
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