女神様の絵本箱

「涼宮ハルヒの憂鬱」の二次創作小説ブログです♪ 基本甘々ハルキョンキョンハルメインです(^▽^)/ 先ずはSSリストよりどうぞなのです

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そして、夢見る少女は大人の階段を昇る……⑧(大人キョン君視点)

そして、夢見る少女は大人の階段を昇る……


・粗筋:高校生ハルヒさんと束の間の邂逅を果たすキョン君……その意味は?

*****

「続きを読む」からは ……

 大人キョン君視点⑧:
【……そう、全てはお前の奇天烈自己紹介から始まったのさ(最初から最後まで仔細漏らさず教えてやるよ)】


……になりまーす(^▽^)/


*****

「あははっ、まさかジョンがこんなに年上だったなんて♪」

「小父さんで悪かったな」

 雲1つ無い澄んだ夕暮れの空の下、ハルヒの朗らかな声と俺の不貞腐れた様な声が交差する。

 だが、その不満気な口調とは裏腹に、俺は心の中で密かに胸を撫で下ろしていた。

 何と為れば、この世の全てを呪詛しそうな程ささくれ立っていた団長様の精神は有りがたい事に「例の偽名」を耳にした直後に落ち着きを取り戻し、その結果、———その特徴でもある天真爛漫さを完全復活させたらしい———鼻歌の1つでも奏でそうな明るい雰囲気を醸し出していたからである。それを横目に見つつ自らの判断が間違っていなかったと確信し、「切り札を切るべきタイミングで実行出来たに違いない」と自画自賛しながら俺は無意識の内に安堵の溜息を吐き出した。そして、「一応……危機を乗り切ったらしい」と言う安心感に包まれつつ俺達の置かれている状況に対して客観的なる考察を試みたんだが、とは言っても特別な事をしている訳では無い訳で、

「お前達は一体何をしているのか?」

と問われたならば、

「色々と疲れたんでな、2人して川辺に設えてある木製のベンチでゆったり休憩中さ」

と俺は素直に回答するだろう。
 だが、その説明文を変えてみると……、

「ムード溢れる夕暮れの中、妻子ある身で愛くるしい女子高生と2人っきり」

と言える状況でもある訳で、それを耳にした妻が引き攣った笑顔を浮かべ、

「実家に帰らせて頂きます」

とでも言い出しそうな予感に苛まれた俺は、冷や汗掻き掻き心の中で弁明を開始した。

*****

 一応、相手は昔のお前だし、俺はお前だけを愛してるし、それに何よりも俺と高校生ハルヒの間には———その心理的親密さを表す様に———1人分の空間がきちんと空いているから、ゴホン、何も心配は要らないぞ? 
 ……いや、マジでマジだって!! 
 そう、如何な惚れた女房の愛くるしい高校時代の姿だとは言え、いやまぁ、確かに可愛いとは思うし、好きになったのも仕方が無いと納得しちまうし、んで、心の奥深くがモヤモヤするのは確かなんだが、しかし、あー、まぁ何だ……えー、俺は決して疚しい気持ちで団長様の相手をしている訳では無く、曲がりなりにも俺は妻子持ちだし、このハルヒはこのハルヒで高校時代の俺と言う恋人も居るし……って誰に対して同じ様な言い訳を二度も三度もしているのだろう、俺は?

 ゴホン。
 詰まり、何が言いたいかと言うとだ、ぶっちゃけ俺は純粋ピュアな気持ちで高校生ハルヒを助けただけなのであって、その点は神に誓い嘘偽りは無いのだと断言するし、マジで、ハルヒ、お前にだけは信じて欲しいんだが?

 ……一体全体何故に、愛人との密会現場を見つかり土下座する勢いで妻に弁明する浮気男的行動をしているのか、自分自身ですら皆目見当も付かないのだが、あー、これ以上言い訳をするとマジで妻から疑いの目で射抜かれそうな気がするので、俺の身は完全無欠に晴天白日であると力強く宣言しつつ、ゴホン、本編を進めさせて頂こうと思う。


*****

 頬で感じる風の冷たさや周囲の明るさから推測するに、日が沈むまでもう少しだけ間があるようだった。
 如何なヤスミが傍に居るとは言っても、日没後の暗闇の中で幼い迷子を捜すのは困難を伴うってのは簡単に予想出来る事であり、故に一刻も早く捜索再開といきたいのだが、しかし、俺には高校生ハルヒを放置して出立すると言う選択肢を選ぶ事も出来なかった。
 何故なら———明確な理由がある訳ではなく、ぶっちゃけ俺の勘なのだが———未だハルヒの精神的安定度に一抹の不安感を覚えていたからである。
 せっかくこの子の気分が上向いているのだ、「この状態を保持しつつ自然に別れる事」……それがトゥルーエンドの条件であるのは明白で、って事はだ、俺にはハルヒを満足納得させる高度な話術が求められると言う厳しい状況なのだが、しかし、その障害を乗り越え目的を達成出来れば———些細な事に拘らないハルヒの事だ———例の七夕事件の如く「じゃね」と短い離別の言葉を残し、この場をあっさり後にするに違いない。

「やれやれ……」

 何と言うか普遍的一般人が背負うには重過ぎる任務の様な気もするが、まぁ、此処を無難に乗り切る事が明日の我が家の平和にも直結するとなると、一家の大黒柱としては気合を入れるしかない。そんな決心をしつつ、しかし、諦観気味に何時もの口癖を呟きながら、俺は手に持っていたペットボトルのキャップを開き、一区切り付ける為に口を付けた。中身はミネラルウォーターである。その冷たい液体が喉を通過する感覚が心地良い上に、どうやら思いの外喉が渇いていたらしい、一気にペットボトルの半分程が空になった。

 それに釣られたのか、俺の不貞腐れた様な返答を華麗にスルーしながらハルヒもペットボトルを傾け、美味しそうにコクリコクリと喉を鳴らす。

 因みに2人が手にしているペットボトルは、気を利かせて俺が率先して近くの自販機で購入してきた物なのだが、まぁ、奢りだ何だと命令されなくとも、こうやって団長様のために雑用が齷齪するのは現在過去未来に関係無く普遍的規定事項だって事なんだろうさ。
 そんな嬉しいやら哀しいやら何とも表現し辛い感想を抱きつつ、「ふぅ……」と溜息を吐き出すハルヒの様子を横目で見ながら、「普段のハルヒに戻ったらしい」と判断した俺は川面に視線を戻した直後、時候の挨拶をするが如くゆったりと団長様に声を掛けた。

「どうやら、大丈夫そうだな」

「うん、ちょっと驚いただけだし……大袈裟に騒ぐまでも無いんだからね」
 ぶっきら棒な返事を口にしながらハルヒはソッポを向いた。その雰囲気から察するに、「泣いたり倒れたりしたのが気恥ずかしいんだろうな」と類推すると同時に俺は先程の遣り取りを思い返す。

*****


 それは俺が「ジョンスミス」と名乗った瞬間の事だった。
 血相を変え俺の襟首を掴んでいたハルヒなのだが、それを耳にした途端、貧血でも起こした様にクタリと地面に崩れ落ち、以前の経験からそれあるを予想していた俺でなければ途中で支える事は出来なかったであろう。
 咄嗟に小柄な体をキャッチし、ショックの余り半分気を失った状態でグッタリ脱力しているハルヒをお姫様抱っこにて付近のベンチまで運搬、ポケットから取り出した渋い焦げ茶色のハンカチを枕にそっと横たえてから、急いで気付け様にと水を購入しに駆け出せたのは、ぶっちゃけ人生経験の成せる業だろう。

 そして、目を覚ましたハルヒに介護職員宜しくそっと水を飲ませ、

「家に帰るにしても、少し休んでからの方がいいぞ?」

とアドバイスしたのが、ホンの数分前の事である。
 それに対し、即座に反撃されるだろうと身構えたのが馬鹿らしくなる程、先程までの激しい拒絶反発は何だったのか、ハルヒはあっさりと頷きつつ、上半身を起こし素直にベンチに腰掛けたのだった。
 拍子抜けしながら俺もその横に腰を下ろし、二言三言ほど他愛も無い遣り取りを交わした結果、それで緊張が解けたのか、ハルヒは冒頭の様な遣る瀬無い感想を遠慮無く宣ってくれたって訳なのである。

 ……まぁ、俺は別にいいんだけどな、団長様の機嫌が良ければさ。


*****


 そして、水分補給中に形成された無言世界を変革したのは、やはりハルヒであった。
「……ねぇ、ジョン?」

「あん? 何だ?」

「んとさ、ジョンって、やっぱり北高の卒業生なの?」

と質問を飛ばしつつチラチラと俺を横目で見ているハルヒの視線を意識しながら、俺は極僅かだけ考え込み、次の瞬間には正直半分韜晦半分の回答を口にした。

「あぁ、北高に居たのは事実だ。一応、お前の先輩様になるんだから、それなりに敬意を払ってだな……」

とまぁ人生の先達としての当然の希求を、

「ふーん、そーなんだ」

とあっさりと聞き流し、俺の台詞の何処に引っ掛かったのか、ハルヒは腕組みしつつ何故か考え込む。

「??? ……何だ、どうした?」

「それじゃあ、若しもよ? やっぱり教師とかに聞いたらジョンの事、教えてくれたのかしら?」

「……そんな聞き方をするって事は確認してないのか?」

と尋ねながらも、ハルヒが否定的回答をするであろうと俺は予想していた。何故ならハルヒがその件について校内で聞いて回っていたにしては、それに関する話を聞いた記憶が皆無だからである。何せ入学直後から校内一の有名人に成りおせたハルヒの一挙手一投足には常に好奇の視線が集まり,何だかんだと言いながら話題の中心に君臨し続けた訳だし、それプラス、妙にその手の情報収集に長け且つ口が軽い自称親友が3年もの間傍に居た事を斟酌すれば———そう、あの愛すべきバカ谷口の事だ———そんな噂話を聞いていたなら絶対に我慢出来ず、為たり顔で「おい、キョンよ、聞いた事あるか?」とでも自慢しに来た筈だからな。

 そして、案の定と言うべきか、ハルヒの答えは俺の推測を裏付けるものであった。

「んと、入学したばっかの時ってさ、校内探索やクラブ調査に忙しかったし、あ、でも、職員室にはイの一番に行ったんだからっ」

「ほう?」

「でもね、いざ聞こうと思ったら、何でか、ジョンの事を知ってる人が誰もいないんじゃないかしら?って……」

「…………」
 「……説明するのが難しいんだが、確かにその時点では、ジョン・スミスは存在しているが誕生はしてないな」等と禅問答じみた事を言える筈も無く俺は無言を貫き、だが、それを気にせずハルヒは口を動かし続けた。

「それにね……」

「それに、何だ?」

「うん、それにね、ずっと他の人に黙って秘密にしてきたのにイイのかしら?って不安になったのよ、何て言うのかしら、大切な思い出は今まで通り自分の胸の内に……って感じになったの」
 その素直なハルヒの言い様に触れた瞬間、何と言うか酷く妙な気分に陥った俺は某か声を掛けるべきだと思いつつ、しかし、天を見上げながら「……そうか」と小さく呟く事しか出来なかった。相変わらず自分のボキャブラリーの貧困さが恨めしい。

 だが、ハルヒはそんな空気を嫌ったのかどうか、それを吹き飛ばす勢いで身体毎俺へと向き直り、突然、
「それよりもっ、ジョン、聞いて頂戴!!」
と晴れ晴れ笑顔で絶叫した。
 真夏の太陽を髣髴とさせるキラキラと光輝く瞳が眩しく、将に俺の記憶と合致する元気っ娘ハルヒの仕草と口調だった。
 俺は柔らかい笑みを浮かべつつハルヒへと顔を向け、

「何だ、どうした? 何か思い出したのか?」

とその先を静かに促し、一体全体何が原因なのか、妙に高揚しながらハルヒは自慢げに楽しげに鼻高々に言い放った。

「うんっ、あたしねっ、北高でSOS団ってクラブを作ったの!! 勿論っ、宇宙人や未来人や超能力者を探し出すためにねっ」

*****

 
それからのハルヒは堰を切った様に、身振り手振りを交えてSOS団の各種大活躍シーンを結成時点から順に解説してくれた。
 まるで溜まりに溜まった思いを吐き出すかの様に。
 長期出張から帰って来た父親に学校での出来事を全て報告しようとする娘の如く。

 みくるちゃんがね……。

 有希がさ……。
 古泉君ったら……。

 親しい友人達の名前を枕詞に語られるSOS団の活動内容を耳にする度にその情景がふっと蘇り、それに釣られて浮かぶ自然な笑みをそのままに俺は頷き続け、そして、一番ハルヒが言及したのは「キョン」と言う希代な渾名を持つ同級生との遣り取りだった。恐らくは話の半分以上を占めていたに違いない。当然の事ながら、本人に話しているとは露程も思っていないハルヒは素直に真情を吐露しまくり、それはそれで滅茶苦茶面映かった。その赤面確実的公開処刑がどれほど続いたのか俺には判らない。だが、強烈な羞恥心が精神的防波堤を超え全身に波及するに及び、俺は堪らず聞き役を返上しつつ適当な質問を飛ばしてハルヒの回述を遮る事にし、
「あー、まぁ、何だ……その、キョン、って奴と仲が良いんだな?」

と深く考えず声に出した訳なのだが、しかし、それに対する団長様の反応はと言うと、正直なところ俺の予想外の物だったのである。
 照れるか否定されるか……そんなところだろうと俺は安易に考えていたのだが、豈図らんや、ハルヒは行き成り絶句したかと思うと、スカートの裾を両手でキツク握り締めると同時に哀しげに俯き、突然啜り泣き出したのだ。


*****

 「折角泣き止んでくれたハルヒを又泣かしてしまった」と悟った俺の動揺を察して欲しい。しかもその理由が皆目判らんときてはな……。

 
先程ハルヒの枕に使用されたハンカチを慌てて取り出し、ハルヒに手渡しつつ、
「あ、いや、済まん。何か不味い事を言ったらしいな、俺は。マジで済まん」

と滝の様な冷たい汗を掻き掻き謝罪する俺。そして、当のハルヒはと言うと、差し出されたハンカチを受け取り目元を拭いつつ、泣き出した理由をしゃくり上げながら素直に説明してくれた。
 つっかえつっかえ聞こえてくるその説明を纏めると以下の様な内容になるのだが、それは俺にとって豪く衝撃的なものであった……。

 先ず大前提でハルヒさんはキョンって同級生と恋人関係にあるんだと。それはそれは校内でも有名なイチャラブカップルなんだそうだ。

 ゴホン。
 んでだ、ここから肝なんだが……近頃のソイツは何やら重大な悩みを1人抱え込んでいるらしく、それがどれだけ深刻かと言うと、そのせいで団活はおろか学校生活にも支障が出る程なんだと。
 だが、恋人の苦悩っぷりに心痛め心底心配したハルヒが優しく相談を持ち掛けても、何故かけんもほろろに拒絶されちまうんだとさ。その冷たい反応にショックを受けながら、挫ける事無くハルヒが幾度か助力を申し出たにも係わらず、ソイツは意地にでもなったのか、それを頑として聞き入れず、挙句の果てには激しい口調で「放っておいてくれ!!」と怒鳴り散らしたんだと。

 ……ハルヒの厚意を無にするとはっ。
 許せん!!
 何て酷い奴なんだ、そのキョンって男はっ。

 ……ふぅぅ。

 
そして、それが発生したのがホンの数時間前、詰まり今日の放課後の事で、それは常識が木っ端微塵に吹き飛び天地が引っくり返る程の衝撃をハルヒに与えたらしい。
「だからね……何かもぅ、全てが嫌になっちゃて……こんな楽しくない世界なんて消えちゃえ!!って思ってたら、ジョンが……」
と言うハルヒの〆の台詞を聞きつつ、その横で俺は無意識の内に頭を抱えていたのだが、何を隠そう、幾多の感情やら想いやらが心の中で渦を巻きマジで大混乱状態であった。傍に居るハルヒの事を失念する程に。
 だが、それは決してハルヒの言を信じられなかった訳ではなく、その告白に思い当たる節があったからだってのが情けない限りだ。
 そう、ハルヒの回述を切っ掛けにして、何時の間にやら忘却の彼方へと追い遣っていた「当時の事」を、俺ははっきりと思い出してしまったのである。

 
「当時の事」と言っても……事は至極単純で、いや、まぁ、何時もの如く非日常的事件に巻き込まれ右往左往したとかそう言うんじゃないってのが何とも情けないんだが、あー、うーん、ぶっちゃけ家庭内外でゴタゴタがこれでもかと集中的に発生していて———本気で思い出したくも無いんだが———家族揃って精神的に余裕が無くギスギスしてた時期だった。

 
人間とは嫌な事実は記憶から消し去る生物である……とは良く言われる事ではあるが、だが、マジで今の今まですっかり忘れてたってのは恥ずべき事だぞ、俺よ?

*****

「…………」
 何時ぞやの様に精神世界にて自分自身の頭を踏みつけつつ叱責すべきところではあるが、しかし、俺は自己非難を封印し、先ずはハルヒを慰めるべきであるとの判断を下した。何故なら、ここは本来ならば俺がいるべき時間軸ではないため何時まで留まっていられるのか皆目見当が付かない上に、今のハルヒの告白を聞くに付け、恐らくこの女子高生を慰め切る事が出来るのは「ジョン・スミス」を於いて他に無いと推測出来るからだ。
 そう、検証反証反省するのは後で1人になった時にでも遣る事にするさ。1時間でも2時間でも掛けてじっくりとな。
 と言う訳で、俺は止め処も無く湧き上がる罪悪感や後悔や自己嫌悪を気合と使命感で押し潰しながら、表面上は善意の第三者が同情している体でハルヒへと語り掛けようとした。原因が自分にある事を十二分に理解しつつ……。
 だが、先程聞かされた当時の俺との軋轢のせいだろう、水を向けるまでも無くハルヒは自発的に口を開き、身振り手振りを交えて速射砲の様に言葉を吐き出し始め、どうやら団長様は「ジョン・スミス」相手に溜まりに溜まっていた鬱憤を晴らす事に決めた様で俺が口を挟む暇何ぞは皆無であった。
 まぁ、ハルヒの不平不満を解消する心算であった俺からすれば願ったり敵ったりではあるんだが、だが、それまでのハルヒの落ち込み具合から推測するに、実の所、「当時の俺」が激しく口汚く罵られる事も覚悟してはいたのだ。

 バカキョンだのヘタレキョンだので済めば御の字だな……。

 
心の片隅でそんな事を考え身構えていた俺なのだが、だが、しかし、即座に己の卑屈で卑しい性根に絶句しちまう羽目になった。そして、ハルヒの事を全く理解していなかったと言う事実も認識させられる事となる。
 何故なら、ハルヒは一言も「当時の俺」を詰らなかったのである……そう、根本的原因である俺の事を。
 反対にハルヒの口から溢れてくるのは俺を気遣い心配する台詞ばかりであった。


 どれだけキョンが大切な人なのか。
 どれだけキョンの事が心配で堪らないのか。
 どれだけキョンに頼りにされたいのか。
 どれだけキョンに救われ、そして、その恩返しをしたいと思い続けているのか。

 

 それをハルヒはこの短い「逢瀬」で理解して欲しいと言わんばかりに熱心に訴え続け、その純粋無垢な想いは俺の捻くれ精神的フィルターをアッサリと突破し、直後、心の奥深くを貫くと同時に深い感動を与えてくれた。


 俺は何て素晴らしい女性に出会ったのだろう。

 俺は何て素敵な女性を愛し、そして、愛されたのだろう。

 たった二行。


 俺が抱いた感情と想いを文章化するとたった二行に収まるのである……と言うか、俺の文才ではそれを上手く表現出来ないってのが実情であった。故にこの短い言葉から、俺が今まで以上にハルヒの事を愛おしく思い大切にしようと心に誓った事を察して欲しいと思う。


 そして、そんな赤面モノの無言の決意表明が聞こえる筈も無いのだが、気が付けば、何故かハルヒは回述そのものを停止していた。
「…………」
 チラリとハルヒを窺うと、呆気に取られた様な表情がその整った顔立ちの中に浮かんでいる。それをとても微笑ましいものに感じつつ、理由を尋ねようと口を開き掛けた俺の機先を制する形で、団長様が先に質問を発したのだが、伝達されたその内容と言うと、俺の意表を突いたものであった。
 何故なら、それは俺にはこう聞こえたのである。

「……ねぇ、ジョン? ……どーして泣いているの?」

*****

「……泣いてる? ……俺が?」

 反問しつつハルヒの視線を頼りにそっと指で頬を拭ってみると、確かに指の背に水滴が付着しやがり、それを確かめている最中にも落涙していくあの独特の感覚が肌を刺激する。それらを拭き取る余裕すらないまま、指の背に乗っている涙を俺は呆然と眺めていたのだが、
「……ジョン?」
と遠慮がちにハルヒに再度呼び掛けられた瞬間、激しい羞恥心に襲われた。
 当たり前だ、大の男が年下の女の子の眼前で涙を流す何ざ「日本男子の風上にも置けない軟弱者だ」と後ろ指を指されても可笑しくはないだろうし、しかも、その理由が妻の……いや、高校時代ハルヒの心情吐露に感動しちまったからだと言える訳が無いだろ?

 俺は咄嗟に顔を両手で乱暴にゴシゴシと擦り、そして、ハルヒから顔を背け天を振り仰ぎつつ、不貞腐れた様に両足を放り出しベンチにだらしなく体を預け、そして、大きな吐息を一回吐き出してから口を開いた。

「あ、いや、済まん……何と言うか、あー、素直に感動した」

「え?」

「そこまで想われているキョンって奴が羨ましいぜ、いや、マジで」

 俺は天空に浮かぶ上弦の月を眺めつつ本気の本気でハルヒに告げる。だが、ハルヒは俺の意図を理解出来なかったらしい、何やら寂しげな口調で「でも、キョンにはウザい女だと思われたかも、疎ましいって思われたかも」と呟いた。

「滅多に怒らないキョンが、しかも自分の事に無頓着なキョンがあそこまで声を荒げたんだもん、きっと……」

と俯き加減に小さく悲しげな声で囁いたハルヒに、俺は声を静かに掛ける。勿論、そんな心配は全くの「無用の長物」であると伝えるためであった。

「あぁ、大丈夫だ。絶対にそれは無い。天地が引っくり返っても有り得ん」

 きっぱりと断言するその声は自信に満ち溢れていた。そりゃそうだろう、自分自身の事だからな。「
…………」

 その気負う事無く淡々としてるくせに妙に力強い口調をどの様に解釈したのか、口を噤んで黙り込み不思議そうな顔付きで此方を見詰めるハルヒ。その問い掛ける様な純粋なる視線を意識した結果、俺は顔を赤らめつつ先程の台詞の補完作業に入ったのだが、決して恥かしさを感じた訳では無いと強弁しておこう。

「あー、まぁ、そのキョンって奴だけじゃない。大抵の男ってのはそう言う生き物なのさ」

「え?」

「プライドが高く視野が狭い上に意地っ張りで負けず嫌い、そして、人の手を借りる事を潔しとしない」

「…………」

「只でさえ妙な特性を持ってる上にだ、そんな情けない姿を惚れた女に見せるなんざ御免蒙るって奴は多いんだ」

「……何それ、良く判んないわ」


 ハルヒは素直な感想を漏らす。だが、その憑き物が落ちた様な柔らかい口調を耳にした事で、俺は漸く顔をハルヒに向ける事が出来た。そして、視線が交わるや否や、下手なウィンクを投げ掛けつつ、

「大丈夫だ。お前ももっと大人になれば判るさ、どれだけ俺、いや男って存在が愛すべき単純バカかって事をな」

と確定している事実を予言めいた台詞に包みハルヒに届ける俺であった。

「だから……お前が心配してくれるのを十分に理解した上で頼む。今回の件、暫く静かに見守ってやってくれないか? そいつが抱えている心配事も直ぐに解決するし、そうすれば、俺……キョンって奴も平常モードに復帰してだ、そう、何も無かった様にお前の傍に戻ってくるから……そう、絶対にだ」

 九分九厘「規定事項」を暴露するに等しい俺の懇願をどう解釈したのか、暫く沈黙を続けてから、「ふふっ、ジョンがそーゆーなら信じてあげてもいいかな? ……うん、信じてあげる」
 満面の笑顔で呟きハルヒは肩の力を抜いた。そして、楽しげに「クスクス」と笑い出したかと思うと、

「そーよね、あたしが信じてあげないとキョンの立つ瀬が無いわよねっ。うんっ、あたしは団長だし、雑用……団員は信じてあげないと!!」

と言いながら勢い良く立ち上がりつつ大きく息を吸い込む。「一体何をする心算なのやら?」と興味深々で見詰める俺の眼前で、何の断りも無くハルヒは夕日に赤く染まる川面に向かって行き成り絶叫しやがったのだ。……此処に居ない誰かに向かって。まるで山彦に呼び掛ける様に。吸い込んだ空気を全て吐き出す勢いで。
 そこに有りと有らゆる全ての想いが篭っている様に感じられたのは俺の錯覚であろうか?


「聞こえてるかしら、バカキョン!! 信じて待っててあげるからっ、早く問題を解決しなさーい!! これ、団長命令なんだからねーっ」

 そのハルヒらしい元気一杯で力強い宣言を確認した途端、心地良い達成感と強烈な安堵感に俺は包まれた。何故なら、この時間軸に俺が……いや、「ジョンスミス」が呼ばれた理由が———将に快刀乱麻で一刀両断———綺麗に解決し消滅した事を理性ではなく本能的能力で悟ったからである。

*****

「やれやれ……」

 
定番である口癖を口の端に昇らせつつ俺も立ち上がり、その横でハルヒは満足気に「うーん」と思いっ切り伸びをする。何と言うか、そのハルヒの様子が、

「遊び疲れたし、もう今日はここいら辺でお開きにしましょう。又明日、部室でね!!」

と不思議探索終了を告げる直前の団長様にそっくりであり、それは再度俺に「エンディングが近いな」と思わせてくれた。そして、そんな印象を裏付けるかの様に、

「何だか安心したら、あは、お腹空いちゃった」

とか言い出しやがるハルヒなんだが、見慣れた天真爛漫を絵に描いた様なその晴れ晴れ笑顔を認識した瞬間、あれやこれやと心配し狼狽していた自分が余りにも滑稽に思えて、いやはや、本気で苦笑せざるを得ない。

「やれやれ、現金な奴だな……」

と苦笑いを浮かべたまま短い感想を述べる事しか出来なかった俺なのだが、何やら悪戯っ子じみた表情を浮かべたハルヒに、

「何よ、心配しなくたってキョンなら絶対何とかするって断言したの、ジョンでしょ?」

と己の発言を根拠とする反撃を受け潔く全面降伏。

「……判ったよ。確かに太鼓判を押したのは俺だし、全てが丸く収まるのは規定事項だしな」

 だが、その台詞が終わる前に、ハルヒはスカートに付いた埃をパンパンと払い除けソッポを向きつつ、

「でさ、ジョンは、んと、今何遣ってるとか、何処に住んでるとか、は……教えてくれないんでしょ?」

と明日の天気を確認するかの如く、妙にあっさりとした口調で割り込んできたのだが、反対にそのせいで、それを無視し黙殺する事が俺には出来なかった。これは長年の付き合いで培った雑用力の賜物だろう、ハルヒがどれだけの勇気を振り絞りこの質問を放ったのか、それを即座に理解したからである。

 聞いちゃいけない、でも、これが最後の機会かも!! だったら……。

 そんなハルヒの願望と自制心の間で発生した葛藤の齎す問い掛けだと直感し、だが、おいそれと真実を伝える訳にはいかないのは言うまでも無く、故に俺は無言のまま、しかし、明確且つ強烈な変化球を投げ返す事にした。
 「ゴホン」と咳を一回、ハルヒの注意を惹きつつ、ゆっくりと左手を持ち上げていくと、流石は女の子である、俺の薬指に嵌っている質素なプラチナリングにその視線が突き刺さった。そして、それで直ぐに全てを悟ったのだろう、一瞬だけ息を呑み込みつつもニッコリと微笑み、

「あはっ、やっぱり結婚してたんだ……ジョンってば。そーよね、いい歳だもんね、ジョンは」

と感想を述べてくれ、俺が反応を返す前に「奥さんってどんな人、綺麗?優しい?」と質問を重ねるハルヒは豪く楽しそうである。

 これまた「未来のお前だよ」と告げる訳にもいかず、だが、誤魔化す事無く俺は誇らしげに答える。

「最高の奥さんだ。言葉に出来ない位にな」

「へぇ」

「あいつに出会えた事は俺にとって幸運、いや、運命だな……そう、若し輪廻転生って奴が本当に存在するなら、何度生まれ変わっても俺はあいつを探し出して求婚するだろうさ」


 本心を衒いも無く言い放つ俺を眩しそうに満足そうに見詰めていたハルヒは、

「羨ましいわ、その人……そこまで想われてるなんて」

と感極まった様に静かに一言。だが、その口調に勢いを得て更なる説明をと口を開き掛けた矢先、「ね、ジョン? 又会えるかしら?」とハルヒさんに話題を劇的変換され俺困惑。だが、困惑しつつも俺は正直に答えた。

「……あー、どうだろうな? その辺は未来人にでも確認しないと判らん」

「あはは、未来人っ。じゃあ、宇宙人とか超能力者とかにも?」

「まぁな、独断専行したりして怒らせると怖いんだよ、あいつら」
 先程まで一緒だった団員仲間の顔を思い浮かべながら苦笑する俺なのだが、それはそれでツボを突いた話題だったのか、ハルヒは満面の笑顔を浮かべて言い放つ。

「未来人に宇宙人に超能力者と知り合いかぁ!! ……うん、他の人が言ったなら鼻先で笑っちゃうところなんだけど、ジョンが口にすると説得力があるわねっ」

「なんだ、そりゃ?」

「ふふっ、その人達が、どんな人だとか何処で知り合ったとか色々と聞きたいけどさ……でも、多分、詳しい説明はしてくれないんでしょ、ジョン?」

 それについては何も悩む必要は無い俺であり、即答するのも吝かではなかった。

「済まんな……まぁ、何だ、世間ってのは、多種多様に亘る柵が複雑に絡み付く事で構成されていてだ、ゴホン、だから……色々とあるんだよ、無敵のジョンスミスにもさ」

 これまたその言い草が御気に召したらしい、ハルヒは楽しげに微笑み、俺を見上げながら「じゃあさ……」と可愛く小首を傾げた。愛くるしい団長様の仕草に俺はドキリと心臓を一跳ねさせつつ「何だ?」とその先を促す。

「じゃあさ……若し……何時か、もう一度会えたら、質問に答えてくれる? あたし、色々と知りたいな、ジョンの事をさ」

「…………」

 思わず押し黙ってしまった俺なのだが、「やっぱり、ダメ?」と呟くハルヒの瞳の中に哀しげな光が瞬くのを目にした瞬間、条件反射的に返答していた。

「そうだな……全て、そう、全てが無事に終わった後にお前と出会えたなら……約束しよう、最初から最後まで仔細漏らさず教えてやるよ」

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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/11/09(土) 23:48:16|
  2.  そして、夢見る少女は大人の階段を昇る……。
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

ハルヒさんは、やはり女神様

宇奈月さん、こんにちはー。

今回の話の中でキョンいやジョンが、ハルヒさんの涙と悩みを見事解決してくれたので、とても嬉しく清々しいです(^^♪
ハルヒさんがいつもの団長様に戻って、アクティブな動きをするのが目に浮かんでこっちまで元気になりました。
更には、可愛すぎて気絶してしまいそうな行動がもう堪りません\(◎o◎)/!
そして、ハルヒさんがキョンを思う気持ちがもう、女神にしか思えない。キョンがとても羨ましいです。

あと、コハルちゃんとヤスミちゃんの行方を掴むのみ。
あと少しだ、頑張れーとキョンを応援したくなります。
集いに行ってるハルヒさんを悲しまさせるなよー。

また、続きを楽しみにしてまーす!

あまてつ てした(^O^)
  1. 2013/12/01(日) 22:26:47 |
  2. URL |
  3. あまてつ #-
  4. [ 編集 ]

Re: ハルヒさんは、やはり女神様

 あまてつさん、こんばんわー。

 何時も何時もコメント多謝ですっ。
 ハルにゃんが徐々に元気になっていく過程を楽しんで頂ければ、マジ書いた甲斐があったってもんですよー。
いやぁ、ホントSSに目を通して頂いているってだけで、執筆頑張ろうって気合が入りますですよ!!(笑) 

因みに、えー、今の執筆地点はどこら辺かと言うと……あー、「現代に帰る直前」とだけ明言しておくにょろ(^▽^)/

 うん、あまてつさんのためにも一日、いや、一分一秒でも早く書き上げる所存ですのでっ、お見捨て無きよう……宜しくお願い致します!!

2013/12/03 宇奈月悠里 拝
  1. 2013/12/03(火) 00:07:47 |
  2. URL |
  3. 宇奈月悠里 #-
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