女神様の絵本箱

「涼宮ハルヒの憂鬱」の二次創作小説ブログです♪ 基本甘々ハルキョンキョンハルメインです(^▽^)/ 先ずはSSリストよりどうぞなのです

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うんうん、笑顔って重要だよね!!⑤(導入部)

うんうん、笑顔って重要だよね!!


粗筋:本性を剥き出しにした朝比奈さんは一体何を語ろうと言うのでしょうか?

*****

「続きを読む」からは ……

 導入部⑤: 【Page:5】

……になりまーす(^▽^)/


*****


 中庭に降り注ぐ月光はあくまでも淡く清らかだった。だが、その清らかさを愛でる余裕が今の俺には無い。その理由は言うまでも無いだろう。全く……光り輝く今宵の名月に平謝りしたい気分だ、そうだな……俺が冷静であったならば土下座でもしているところだぜ。
 だが……。
 心底そう思いながら俺は身動ぎ1つ出来なかった。
 そう……。
 生まれて此の方経験した事も無い程の激情に耐えつつ、俺は口を真一文字に結び続けていたのだった。

 
その一方で俺の周囲はと言うと……。
 中庭のあちらこちらには———まるで空爆された直後の様に———爆砕されたコンクリの破片や樹木の残骸が散乱していた。未だに湯気を立てている濃厚な血痕がそれらを悍ましく彩る。その上、異能者達の繰り広げた戦闘の余波で地面は当たり構わず抉られているわ、惨殺された国木田の遺体が横たわっているわと、此処が平和な現代日本とは到底思えない地獄絵図の如き光景が広がっていた。
 そして、他界したばかりである谷口の遺骸を抱き締めていると言う哀しい事実が俺を更に打ちのめしてくれる。
「…………」
 それら全てを淡々と受け入れつつ、しかし実の所、その理不尽極まりない現実に対し怒り心頭のまま俺は奥歯を噛み締めていたのだ。
 心の奥底で煮え滾る何かを押さえつけながら。
 だが、一体全体何に対して憤怒しているのか、何故それを我慢しているのか、自分自身でも判らないままで。


 そして、俺が彫像の如く無言で座り込むその傍らでは……。


*****


 谷口がひっそりと息を引き取ったにも係わらず……奴らの会話が途切れる事無く続いていた。


 人一人の命が尽きた事すら毛程も気にする事無く互いの秘匿情報を奪い取ろうと丁々発止、その仕事熱心な様子は「これぞ裏社会に属するプロの仕事って奴だな」……と褒めてやってもイイのかも知れん。勿論、「最大限に好意的な解釈をしてやれば」と言う———今の俺の立場では———天変地異が起こったとしても有り得ない条件下に於いてだがな。

 だが、そんな敵意に満ちた皮肉を口にする事も無く、俺は一度大きく息を吸い込み気を落ち着けてから、そっと手を伸ばし谷口のカッと見開かれた瞼を優しく閉じてやった。序に口元に付いている血を拭ってやる。砕け散った生命の残滓が微かな温かみと共に指先に残った。
「…………」
 死者の目を閉じてやるその行為、ドラマなんかで良く見かける状況だが、まさか自分が実行する機会に出会っちまう等とは考えた事も無く、更に言えば、映像上の演出だと思っていたこの動作が、死者の眠りを安んじるための無意識的反射的行為だと俺は初めて知ったのだ。理解出来たからと言って少しも嬉しい訳でもなく、寧ろ、出来れば知らずに居たかった知識ではあるがな。
 そんな苦い思いから逃れる様に改めて友人の顔を俺は無言で窺った。
 瞼を閉じた谷口は———表情だけを見ると———まるで昼一番の授業中に転寝している様に思え、そう言えば本当にこいつは授業中に寝てばっかりだったなと自分の事を棚に上げて振り返り、しかし、その何気無い追想が俺の悲しみを増大させてくれる。何故ならば、谷口は2度と平穏な日常を送れないどころか、その目を開く事すら無いのだと言う冷酷な現実に気が付いてしまったからだ……。
 途端に胸の奥がキリリと締め付けられる。
 自然と目頭が熱くなった。
「…………」
 俺はそれらをグッと飲み込みつつ最大限の敬意を以って谷口を地面にそっと横たえた。その両手を胸の前で組み合わせ、自分のハンカチを取り出し谷口の顔に掛けてやる。と同時に俺は目を閉じ、運命に翻弄された挙句、理不尽にもその生命を奪われてしまった友人の冥福を祈った。そして、俺は耳にするのだった。無意識の内に口にしたらしい妙に平坦な自分自身の声を。
「悪かったな、谷口……不平不満はソッチに逝った時にたっぷりと聞いてやるからさ……少し待っていてくれないか?」
 宣誓とも取れるその一言を言い終えた俺は目を開きながら徐に立ち上がる。そして、足下に横たわる谷口と、少し離れた場所で絶命した時と変わらぬ無残な姿を晒したままになっている国木田とを順番に見遣り、再度大きく深呼吸しながら……新たに覚悟を固めた。

 
何の覚悟か?……だと?
 言うまでも無い、これ程酷い扱いを受けた友人達の無念を僅かなりとも晴らしてやらねば男が廃るってモンだろ? 
 不条理に対して抗議し抵抗する、それが人間って奴じゃないのか?
 ……例え俺が普遍的一般人で、その敵相手が尋常ならざる希代な異能の所有者であってもだ。
例え敵わぬまでも、せめて一太刀なりとも浴びせてやら無きゃ気が済まん……。

 
悲壮なまでの覚悟を胸に秘め、未だに会話を続けている3人へと視線を飛ばした。
 ほんの数分前までは満腔の自信を持って「頼れる仲間」「大切な友人」と断言出来た3人が淡い月明かりに照らされている。その様子は某かの話題を肴に盛り上がっている様に見えた。パッと見には、ハルヒが産み出した騒動への対処を相談している何時ものSOS団であった。が、それが俺の抱いた淡い幻想にしか過ぎないと言うのは、漏れ聞こえてくる会話でも明らかだった。

*****

「……成る程、中々に興味深い話ですね」
「お役に立てたようで、くふふ、何よりだよ」
「しかし、宜しいのですか? かなりの機密事項とお見受け致しますが?」
「この程度の情報……現時人に喋ったところで大した影響は無いからねぇ」
「……おやおや。藤原と自称していた彼もそうでしたが、未来人と言うのは総じて敵を軽んじる傾向があるようですね……忠告させて頂きましょうか? くっくっく、我々を過去人と侮り甘く見ていると足元を救われますよ? あの無様な彼の様にね」
「ふふふふふ、あははっ。そりゃあ、楽しみだねぇ……くく、口だけの男は嫌われるよぉ、古泉、君?」
「ご心配には及びませんよ? どうです? 前もって始末書でも書かれては如何ですか……未来人、さん?」


*****


 表面的には和やかに笑顔で言葉を交わしつつ、だが、その目だけは笑ってはいない。相手が親の敵だとでも言いた気に一時たりとも油断していない古泉と朝比奈さんであった。互いを射抜く視線は将に敵対者に向けるそれであり、温かみの一欠片も含んでいない様子が背筋を震わせてくれる。
 そして、もう1人の異能者はと言うと……その傍で長門は大きく欠伸をしながら目を擦ってやがるのだが、どうやら2人の会話に全く興味が沸かないらしく、何と無く、嬉々として親の仕事場に付いて行ったはいいが、思っていた程楽しめず暇を持て余し気味の幼子って雰囲気である。
 それらを認識した上で、連中の注意を引くため声を掛けようと息を吸い込んだ瞬間、目敏く長門がそれを察知したようであった。「暇潰しの玩具発見!!」とでも言いたげな雰囲気で勢い良く俺へと身体毎向き直るや否や、満面の笑みを浮かべて、
「あっ、キョン君!!」
と呼び掛ける長門さん。
 その邪気を感じさせない笑顔と朗らかな口調が場にそぐわないせいだろう、見事にタイミングを外され思わず俺は言葉を飲み込んでしまった。その直後、長門の声に釣られる様に他の2人も会話を停止しつつ俺へと視線を向ける。異能者3人に注目され自然と緊張する俺。
 それが伝播したのかどうか、瞬時に重い沈黙が周囲を覆った。
「…………」
 俺達の位置関係は———上空から俯瞰すれば———それぞれを頂点に正方形を形成していると言えるだろう。一辺が3m弱程度の正方形……その微妙な距離が今の俺達の関係を示している様に思われ、心の奥底に沈めようとしていた悲嘆が浮かび上がりそうになった。
 だが、俺は気力を総動員してそれを封殺無視する。
 そうなのだ。
 此処に居るのは……仲間じゃない、谷口や国木田の敵なのだ。今、俺が感じなければならないのは憤怒以外有り得ない。そう思わなければこれだけの戦力差だ、連中に立ち向かう事等不可能だろう。
 俺は自分自身を騙しつつ異能者達を睨み付けたのだが、その鋭い視線を楽しげな笑み浮かべたままで受け流し、長門は嬉しそうに宣いやがる。
「ふふ、イイ表情だね、キョン君!!」
「何?」
 虚を衝かれた俺は眉を顰めて、何故か朗らかな長門の様子を窺った。古泉と朝比奈さんは興味深そうに俺達2人を交互に見遣る。どうやら事の成り行きを静観する心算のようだ。だが、そんな周囲の様子を全く気にする事無く、長門さんは腕組みをしながら為たり顔で頷くのだった。
「親友を殺された悲しみを胸に秘め、その敵を討つ覚悟を固める男……うんうん、絵になるね!!」
「は? ……済まん、何だって?」
「そして、そんなキョン君を冷酷無比に返り討ちにしちゃうユキリン……あぁ、何て悲劇的結末!!」
「…………」
 今までの凄惨な流れをぶった切る心算なのかどうか、何やら自分に酔い痴れているらしい長門のポワポワした雰囲気のお陰で一気に毒気を抜かれたようであった。こめかみ付近にズキズキとした鈍痛を感じ、思わず目を閉じ目頭を揉み解す俺。希代な計画を嬉々とした表情で叫ぶ団長様を諌める際に感じるのと同質のそれに俺は顔を顰めつつ、「やれやれ」と言いそうになった口をどうにか閉ざす。
 そして、毒気を抜かれた精神に活を入れるため、何やらワクワクしている長門から目を逸らし、「せめて武器の代わりになる物を」と付近を見渡すと、偶然にも古ぼけたT字箒が校舎の壁に立て掛けられているのを発見した。誰かが置きっ放しにしていったのだろうが、この際そんな事はどうでも良い事である。俺はゆっくりとそれに近付き箒を手に取った。勿論、こんな棒切れ一本でどうにかなる戦力差ではない。だが、その感触は俺の心を少しだけ落ち着かせてくれた。
「…………」
 片手で握り締めブンブンと素振りをし、何と無く満足感を覚えつつ俺は再度連中へと踵を返した。連中はその場を動く事無く律儀にも俺を待ってくれている。
 俺が元居た位置で立ち止まり長門と相対するや否や、それを待ちかねていたかの如く宇宙人娘はニコニコとした笑みを消す事無くあっけらかんと言い放った。
「うん、武器も手にしたし準備万端だねっ、キョン君!! ……それじゃ死んじゃおうねっ」
「やれやれ……悪いな、長門、そう簡単に殺されてやる訳にはイカン」
と嘯きつつ悲壮な覚悟を胸に俺は両手で箒を構えた。
 そして、その切っ先を長門に向けると同時に、「掛かって来なさいな!!」とでも言いた気に宇宙人端末も両手をゆっくりと広げる。
 俺と長門の間で敵意が交差した。
 直後、俺の敵意をあっさりと貫通霧散させ、俺を直撃する長門の殺意。
 途端、凄まじい恐怖が俺を包み込む。
 背筋が凍り脚が震えた。
 あの朝倉と対峙した時ですら恐怖を感じなかった俺がだ。
 しかし、俺は気圧されまいと奥歯を噛み締め、棒切れを千切らんばかりに握り締めた。

 
端から敵わないのは判ってるしな、このまま待っていても埒は明かない……。
 ならばっ。死中に活を!!


と俺が決死の覚悟で長門に突撃しようとした矢先、長門で占められていた俺の視界に新たな人物がすいっと割り込んできた。
「!?」
 唐突に長門がその陰に隠れる。突撃目標を見失い咄嗟に動きを止める俺。蹈鞴を踏みつつも辛うじてその場に留まった。瞬きする事数回、まるで俺を庇うかの如く長門に相対したそいつの後ろ姿を凝視する。理性がそいつの正体を即座に喝破し「古泉一樹である」と通告してくれた。予想外の出来事に俺は驚愕した声を上げる。
「古泉!? お前、一体!?」


*****

 
そう、その叫び声が示す通り……。

 俺と長門の決闘に———まるで「散歩の途中です」とでも言いたげな雰囲気を漂わせつつ———淡々と割り込んできたのは、先程まで傍観者の立場を貫いていた超能力者だった。
 古泉がその身を俺達の間に割り込ませた結果、俺の代わりに奴が長門と対峙する形となった訳だが、それを判っているのかどうか、まるで世間話でもするかの様に飄々と言葉を発する超能力者だった。
「長門さん……先程も申し上げたと思います。彼を排除されては我々が困ると」
「……そだっけ? で、だから何? 何をする心算なの、古泉一樹は?」
「不本意ではありますが、くくく、守らざるを得ないでしょうね。彼を。貴女の魔の手から」
 その淡々とした呟きの中に何を感じ取ったのか……長門の顔からすぅぅぅっと笑みが消えた。そして、それに呼応するが如く古泉の体も赤い光に包まれていく。
「あはっ、勘違いしているみたいだから教えてあげる。……今度はさっきみたいに遊んであげないよ?」
「貴女こそ勘違いなさってますね。僕も本気を出してませんが?」
 2人の間で表面上淡々とした遣り取りが交わされたと思った次の瞬間、間髪入れず2人が周囲に発散した殺意の圧力と言ったら、先程俺が感じ取ったものとは比較にならない位に激しく鋭く、そして、濃密で暴力的だった。
 それが2人の間に充満していく。
 息をする事すら憚られる緊迫感。
 今にも開始されそうな激闘。
「…………」
 当事者の筈なのにあっさりと部外者となってしまった俺の眼前で、異能者と異能者が本気で激突する事は確実で、だが、それがどの様な結果を齎すのか皆目見当が付かない。しかし、だからと言って傍観している訳にもいくまい。
 なけなしの勇気を振り絞りつつ俺は箒の柄を幾度か握り直しながら、必死で現状を打破するための方策を模索した。だが、こんな状況に慣れている訳でも無い一介の高校生が臨機応変的対応策を編み出せる訳もなく、その上、致命的な一撃を叩き込もうと互いに隙を窺っている2人に戦闘開始の切っ掛けを与えそうで下手な言動も選択出来ない。
「畜生……どうすれば?」
 気ばかり焦り焦燥感だけが強まっていく中、額に浮かんだ汗を手の甲で拭っていると、何やら面白そうに此方を伺っている朝比奈さんと偶然にも視線が合わさった。
「???」
 眼前で常識外の戦いが今にも始まろうとしているにも係わらず、朝比奈さんに緊張の色は見えない。奴らが本気で戦えば、この辺り一体がどの様な状態になるのか明白で、それに巻き込まれる恐れが俺や朝比奈さんにもある筈なのにだ。

 
若しかして未来的秘密道具があるから平然としているのだろうか? 

 そんな素朴な疑念に背中を押され、
「あ、朝比奈さん?」
と思わず呼び掛けた俺なのだが、朝比奈さんは人を嘲笑うかの様な厭らしい笑みを俺に向け、そして、その表情を崩す事無く次なる行動に出てくれた。
 それは俺が全く予想しなかった類の物で、何と……今にも異能を行使して死闘を始めるべく集中する長門と古泉に対し、状況にそぐわない如何にも楽しげな様子で声を掛けたのだ。

「くく……2人とも、そんなに殺気立たないで、ちょっとばかり時間を頂けないかねぇ?」

*****

 その間延びした声掛けに対して、長門はと言うと昔ながらの無反応だった訳だが、古泉の奴は戦闘体勢を保持したままで返事をし、何と言うか、相変わらず律儀な奴であった。
「申し訳ありませんが、朝比奈さん……ご覧の通り色々と立て込んでいますので後にして頂ければ」
「ふふ……それは残念だよ、くくっ、イイ話なんだけどねぇ」
 そう嘯く朝比奈さんの口調、それは皆が知らない重要な秘密を密かに握っている人間特有の優越感を滲ませている様に感じられ、そして、それは他の奴らも同様だったらしい、視殺戦を繰り広げていた長門と古泉のそれが同時に逸れ、ニヤニヤと笑っている未来人へと突き刺さった。
 途端に膨張していた暴力的雰囲気が霧散する。
 そして、その訝しげな視線を怯む事無く受け止める未来人に、
「…………」
「ほぅ、良い話ですか? それは未来人にとってでしょうか? それとも……?」
と長門は無言で、古泉は少なからず興味を惹かれた様子で問い質し、対する朝比奈さんの返答は簡潔明瞭だった。
「勿論、わたし達3人にとってさ……さっきも言っただろ? わたしは未来がどうなろうと知ったこっちゃ無い、いや、寧ろ壊してやりたいってさ」
「確かに先程窺いましたが……自分を産み出した社会システムそのものに復讐したいと。俄かには信じ難い話ではありますがね」
 古泉はあからさまに朝比奈さんの話を完璧に信用してないって表情を浮かべ返答したのだが、それに応える事無く未来人は笑みを浮かべたままゆっくりと左手を掲げた。皆の視線がそこに集中する。その華奢な手首には妙な光沢を放つ金属製のシンプルなブレスレットが装着されている事に俺は初めて気が付いた。朝比奈さんの細腕には似つかわしくないゴツイ装飾品だ。月明かりを受けてそれはメタリックな輝きを放ち、そして、奇妙な事に反射角度によって時には紫、時には若草色と目まぐるしく色彩を変化させ続ける。将に未来的色彩で、見詰め続けていると目が回りそうだ。
 そして、その朝比奈さんはと言うと、皆の反応に満足したのか重々しく頷き、再度全員が注目している事を確認したかと思うと、モゴモゴと口の中で何かを呟きながら、それごと腕を軽く一振りした。
 その直後、朝比奈さんの姿が一瞬で掻き消える。
「!?」
 閉鎖空間やら何やらで非日常的現象に慣れていると自負していた俺なのだが、まさか朝比奈さんまでもが目の前で妙ちくりんな現象を産み出してくれるとは予想だにせず、ははは……まだまだ世間は広い。
 思わず俺は己の目を疑い反射的に周囲を見渡してみたが、朝比奈さんの姿は何処にも無い。所謂未来的テクノロジジーって奴なのかも知れんのだが、俺は兎も角、あの古泉ですら驚愕しているところを見ると、朝比奈さんの姿が消失したのは紛れも無い事実らしい。更に驚くべき事にだ、万能無敵娘である長門さんまでもが警戒する表情を浮かべ周囲に気を配っているとなると、この現象が尋常ならざるものである事は明白だった。
 一体全体この後どの様な展開が待ち受けているのか、普遍的高校生である俺では想像する事すら不可能であり、出来れば穏便に済まして頂きたいものだ。
 だが、そんな俺の心配も何のその。
 次の瞬間、朝比奈さんは何事も無かったかの如く元居た位置に出現する。ニヤニヤとした笑みを浮かべたままで。
 暫し誰も口を開かない緊迫した状況が続き、そして、それを破ったのは好奇心旺盛な超能力者だった。
「……一体今の現象は何でしょうか? 差し支えなければ御教授頂きたいものです」
 己の知的探究心に負けた事を隠そうともせず古泉が問い掛け、朝比奈さんは肩を竦めつつあっさりと回答を述べる。
「……現時的表現を借りれば光学迷彩って奴だね。でもまぁ、有りと有らゆる知覚情報を遮断しちゃうって代物だから、くく……厳密に言えば違うんだけどねぇ」
「…………」
「あはは……そんなに怖い顔をしないでおくれよ、古泉君? それよりも、くく、わたしがコレを使っている最中、読めなかっただろ、わたしの思考が?」
 揶揄する様な朝比奈さんの口調がお気に召さなかったのかどうか、古泉は益々表情を硬いものにし、だが、それを全く気にする事無く未来人さんは長門へと話を振る。
「長門さんはどうだい? わたしの位置情報すら感知出来なかっただろ?」
「……周囲の位相空間を変異させ時空列に介入、一時的にそれを乱数表示しちゃてるってとこかなぁ?」
「くくく、流石だねぇ……一回見ただけでそこまで推測するなんてさ」
と言う掛け値無しの賛辞を聞き流し、長門は挑む様な口調で「でも、欠点もあるよね?」と指摘する。しかし、朝比奈さんは面白そうな表情を浮かべたまま無言でその先を促し、それを挑発と取ったのか、負けず嫌いの宇宙人っ娘は相手を論破する勢いでズバリと言い切った。
「変異位相空間は固定されている、つまり、その場を動けない……でしょ?」
「くく、御名答。これは防御専用機材で偵察や潜入工作時に使うのさ。最も今のは最高出力……通常なら光学情報の遮断目的に使うんだよ……実の所、色々と身体に悪いのさ、これはね」
と言いながらぞんざいな感じで手を振る朝比奈さんに、怪訝な様子を隠す事無く古泉が問い掛ける。
「失礼ですが……朝比奈さんの意図が判りかねるのですが? 先程から一体何を伝えようとされています?」
「あはは、素直な男の子には好意を抱いちゃうねぇ、古泉君」
 ざっくばらんに言い放ちながらも、突如として真面目な表情を浮かべた朝比奈さんは妙に固い声を出した。
「正直に言えばねぇ……今からわたしが告げる事を事実として認識して貰いたいのさ」
「事実……ですか?」
「そうさ、紛う事無き事実って奴さね……わたし達の、いやさ、未来人だけじゃない、この時空間に生きる全ての存在にとっての、ね。そして、掛け値無しの最上位特級クラスの禁則事項……時間管制局どころか正統政府の要人でも殆どの人物が知りえない機密事項って奴だよ」
と月を眺めながら朝比奈さんは歌う様に口遊む。そして、何故か大きく頷いた後、両手を大きく広げて振り返りながら、にこやかに朝比奈さんは長門と古泉に告げた。
「今も見た通り、コレを作動させなきゃ、わたしは普遍的人類と一緒さ……例え作り出された紛い物だとしても」
「…………」
「だから、今は古泉君は私の思考を読めるだろ? 長門さんだってオーラやバイタル観測で嘘を吐いているかどうか判別出来る筈さね」
 清らかな月光を浴びつつ、そう告げる朝比奈さんはその美貌も相俟って、俺には女神の様に見えた。
 それ程神々しく、そして、誇らしげであったのだ。
 今この瞬間、この場を支配しているのは朝比奈さんである事に疑いを挟む余地は無い。
 それは残りの異能者も同じだったのかも知れない、口を挟む事も無く未来人の次なる言葉を待ち受ける。

「くくく、この事実を掴むまでにどれだけの仲間が犠牲になった事か、苦しんだ事か……やっと、やっと……その敵を討てる、あの社会を破壊出来る。そして、呪われた……この、朝比奈みくる……と言う悍ましい存在を消し去れる」

 今にも感涙に咽び泣きそうな雰囲気を身に纏ったままの朝比奈さんの口から淡々と紡がれたその言葉に、俺は少なからず衝撃を受けた。


 朝比奈みくるを消し去れる……だと?
 呪われた……だと?
 ……一体全体何を言っているんだ、朝比奈さんは?

 
脳裏で朝比奈さんの言葉を反芻しつつ、だが、それを問い質す機会も深く思考する暇も俺には与えられなかった。
 何故なら、次の瞬間、朝比奈さんが大きく深呼吸してから言い放った言葉が余りにも意味不明過ぎたからだ。
 一瞬、時間の流れそのものが停止した様に感じられた。
 古泉や長門に俺だけじゃなく、世界中が息を潜めたのを俺は感じ取る。

 
そう。
 俺の聞き間違いでなければ、朝比奈さんはこう告げたのだ。



「先ずは皆が認識している大前提が違うのさ。……この現時時間上で唯一“皇帝因子”を発現させている人物……判り易く言えば、“願望実現能力を行使している只1人の人間”はね……くくく、涼宮さん、そう、涼宮ハルヒじゃないんだよ……」



Page:5

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  1. 2014/11/09(日) 23:54:44|
  2.  うんうん、笑顔って重要だよね!!
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