女神様の絵本箱

「涼宮ハルヒの憂鬱」の二次創作小説ブログです♪ 基本甘々ハルキョンキョンハルメインです(^▽^)/ 先ずはSSリストよりどうぞなのです

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そして、夢見る少女は大人の会談を昇る……②(大人キョン君視点)

そして、夢見る少女は大人の階段を昇る……

・粗筋:キョン君一家の日常生活!!

*****

「続きを読む」からは ……

 大人キョン君視点②:
【……そう、全てはお前の奇天烈自己紹介から始まったのさ
(団長様にとって雑用は信用するに能わざる程度の詰まらない男か?)】


……になりまーす(^▽^)/



*****

 一頻り“高い高い”で子供達と朗らかな親子の交わりを堪能しつつ、その愛くるしい2つの笑顔に接し父親としての幸福感にどっぷりと浸り切ってから、俺は我が空腹中枢を満足させるべく行動を開始した。
 とは言っても別段変わった事をする訳ではなく、単に着替えて手洗い嗽を済ますだけの事である。
 だが、この手の躾の範疇となると、何故か子供達が大人の真似をすると言う事実を身を以って体感しているので、お手本となる様に手を抜く事無くしっかりこなす事を日々心掛ける俺は、うむ、自分で言うのも恥ずかしい限りだが、立派に父親を演じていると思う。
 いやマジで子供を持ってみると納得する事なんだがな、
「子供は親の背中を見て育つ」
「子供を見れば、親の顔が判る」
と言う格言……あれは絶対的真理であり、且つ、子供はしっかりきっかり親の遣る事なす事一挙手一投足を観察し模倣実践する存在であるからして、我が子の将来を憂えるならば、親自身が己の理想とする大人像を自己投影しなきゃイカン訳で、いやぁ、子育ってのは楽しい反面、責任重大なんである。

 閑話休題。

 俺が手洗いと嗽を済ませ、私服に着替え脱ぎ捨てたYシャツやら靴下を洗濯籠に畳んで仕舞っている間に、ハルヒは子供達を上手に誘導し、床に散らばっていた小道具類を綺麗に片付けさせたらしく、リビングは子供の遊び場から見事に食事する場所へと変貌していた。
 俺がリビングに入ると、愛娘はハルヒが料理を盛り付けたお皿をテーブルにえっちらおっちら甲斐甲斐しく並べ、愛息はその後をちょこちょこ付いて回り一生懸命箸を用意していて、その度に母親から「偉いわね」とか「有難う」と声を掛けられては、2人してニヘラと笑み崩れているのが微笑ましい限りだ。
 そんな感じでコハルもキョン太も家事を手伝う事を厭わないのだが、その辺はハルヒの教育の賜物だろうと思う。
 人の役に立ってると理解出来れば自尊心もイイ方向に育つだろうし、何よりも褒められる事が嫌いな人間は居ないのさ、老若男女関係無くな。

*****

 そんなこんなで家族がそれぞれの指定席に着席した。
 俺とハルヒが斜向かいに座り、コハルが俺の、そして、キョン太がハルヒの隣と言う図柄である。
 それをキョロキョロと確認してから、コハルはパンッと元気に手を合わせると同時に「パパッ、早く!!」と俺を促し、キョン太も姉の振る舞いを真似てニコニコ笑いながら手を合わせ、「はやくはやく」と父に催促。
 俺は子供達の可愛らしい仕草に微笑みつつ、徐に手を合わせ静かに頭を下げながら、先陣を切って「頂きます」と告げた。
 ハルヒは勿論、子供達も素直に手を合わせて食事前の挨拶を口にする。
「頂きます」
 食事をする前、自分自身が生き続けるために、その命を「頂きます」と感謝の思いを込め挨拶する事、それを子供達が率先して実践するようになったのは何時の事からだろうか?
 コハルにその行為の意味を耳元で教え諭したのは1年程前の事だ。
 その時のコハルは意味も判らずキョトンとしていた筈で、その時見せてくれた愛くるしい表情と、手を合わせ静かに目を閉じている現在のそれを密かに比べ、何時の間にやら大きくなったんだなとシミジミしつつ、それはそれだけ子供達が大人に近付いている事の証左であると言える訳であり、我ながら単純な事に、たったそれだけの事で俺の心は震えたのさ、感動の余りにな。
 ……まぁ、親バカであるってのは自分自身でも自覚しているんでな、一々指摘しなくてもいいぞ?

*****

 子供の成長振りに涙を流しそうになっている俺の眼前に用意されている料理は、出来立てである事を主張するかの如く温かな湯気を立てつつ、周囲に火を通したソース特有の香ばしい香りを振り撒いていた。
 それは焼きソバの様でいて、実は麺の代わりに木耳と白滝を使ってあるんだが、いやいや、これがマジでソース味と絶妙なまでにマッチするんだ。
 勿論、これは厳格厳正なカロリー計算に基づいたハルヒの独自アイデア料理であり、細切りされた人参や玉葱も程好く火が通され歯応え十分で、見た目以上に満腹感を覚えさせてくれる料理でな、俺、いや、俺だけじゃないな、子供達も好んで食べる将に我が家の味お袋の味ってヤツだと言っても過言ではない。
 昼飯には遅く夕飯には早い時間にも係わらず、出来るだけ一緒に食卓に付く事が我が家のモットーとなっている事もあり、俺の当直明けにはこの様な食事風景が繰り広げられる事が多く、生きてて良かったと実感出来る一家団欒光景でもある。
 ハルヒの手作り料理を口にしつつ、それぞれが今日の出来事を報告するこの時間を俺は結構気に入っていて、子供達が大きくなり自分の生活スタイルを確立するまでは継続していきたい思っているし、出来ればそれが長く続いて欲しいと密かに願っているんだが、多分、ハルヒも同じ想いだと思う……敢えて確認した事も無いがな。

*****

 俺がハルヒ特製料理に舌鼓を打ちつつ、勤務中にあった出来事を愚痴る様になって久しく、そして、それをハルヒが相槌打ちながら熱心に聴いてくれるのも見慣れた光景である。
 不平不満ってヤツは、誰かに聞いて貰う事で体外に放出した方が精神衛生上好ましく、ハルヒも「溜め込むと精神に悪いんだからね!!」と公言し、自らの日常での不平不満を俺に対し遠慮無くマシンガントークに化学変化させ叩き付けて来るので、まぁ、お互い様ってヤツだと言わせて頂きたく、そして、それは本日も同じで、いや、久しぶりにムカが入る出来事が有ったお陰で———多分、色々と精進が足らないんだろうさ———何時も以上に饒舌な俺だった。

「……ってな訳でな、仕方が無いんで、別れ際に“昼間に来院して下さい”と俺は笑顔で告げたのさ」
「それって当たり前じゃないの? んー、それでソイツは何て言ったのかしら? 素直に判りましたって言いそうに無いんだけど?」
「それがな……、
“昼間は忙しくて来れねぇよ!! 何せ行き付けのパチ屋が新装開店続きでな、行かなきゃ損じゃねぇか?”
……だとさ。凄いだろ?」
 俺が呆れ返った口調で言い終え肩を竦めると同時に、その心情に同調してくれたのか、ハルヒはプンスカと怒り出した。
「はぁ!? 何で生活保護を受けてる人間が真昼間からパチンコ行ってるのよ!? それに行き付けって何? 馬鹿にしてるんじゃないの、それ!?」
「ってな事を常日頃から医事課の女の子達も言ってる。真面目に働いてるのに、生保よりも月収が低けりゃ……な」
と何故か愚痴っていた俺よりも怒り心頭に来たらしいハルヒの顔を眺めつつ、その時を思い返してみたんだが、何と言うか、まぁ、ぶっちゃければ、良くあるモンスターペイシェントってヤツに分類してもいいのかも知れん。
 話はそう複雑な事では無く、だがしかし、一般的日本人的感覚からすれば眉を顰めざるを得ない程度の出来事だ。

 事件の概要を簡単に纏めると……。

 日付が変わり数時間が経過、小児急の問い合わせが少なくなるにつれ、電話が沈黙を保つ時間が長くなり、「本日の当直業務も一段落したらしいな」とホッと一息吐いた時に事件は発生した。
 そうなのだ、「ゆっくりと腰掛けて、温かい紅茶を一杯頂いても罰は当たらないよな?」と心の中で自らに許可を出し、実行しようとした矢先に、その平穏な時間をぶち壊すが如く、オッサンが1人———問い合わせをする事も無く直接来院し———受付で濁声を張り上げてくれたんだが……。
 「恐らく急患だろうな」と思いながら対応した俺を嘲笑うが如く、その目的は診察等ではなくてだ、「薬が切れたから四週間分出せ」っつう我が侭な事を———しかも当然の権利と言わんばかりに———横柄な態度で言い放ちやがるオッサン。
 その高飛車且つ横柄な言い草に、何と無く予感めいたモノを抱きつつカルテを調べると———こう言う言い方はどうかとは、正直どうかと思わなくもないが———案の定、公的保護を受けているお方で、俺はそっと嘆息。
 勿論、薬を出すにしても、診察を受け医師が必要と判断しない事には処方出来る訳も無く、更に救急夜間外来ってのは応急処置的なモノであり、昼間の通常診察時間までの繋ぎでしかなく、故に大量の薬を渡す何ざ無理なのだ……。
 ってな事を丁寧に説明してもオッサンは納得せず、しかもその欲しがってる薬が鎮痛剤系のもので、
「待合室でお待ち頂けますか? 医師に確認して来ます」
と男に断りを入れてから、ひっそりと診察室で医師や看護師と相談し、
「自分で使わずに横流しするパターンだね、これは」
と全員が苦笑したのはいいが、だからと言って状況が好転する訳でもなく、仕方が無いとばかりに男が待ち受ける待合室に出向き、俺だけじゃなく当直医師や看護師に薬剤師総出で説得するも、件の人物は頭に血を昇らせ、
「俺は患者だぞ!? そうか、お前ら、俺が生保だからバカにしてるんだろ!?」
と激高し喚き出す始末。
 意味不明な理由で暴れ始めたオッサンを宥め賺しつつ周囲を確認すると、その大声に刺激されたらしい、未だ待合室に残っていた赤ちゃんやお子様が愚図り始め、付き添いの母親やら祖父母やらがそれをあやしながら非難めいた視線でチラチラとこちらを見ていてだ、病院職員として居た堪れなくなった俺達が結局折れ、その結果として薬を2週間分処方する事で男に納得して頂き、そして、それを手渡しつつ、俺が別れ際に交わしたのが冒頭の会話って訳だ。

「バッカじゃないの? パチンコ行く暇があるなら働きなさいよっ、税金の無駄だわっ。 何でキョンもビシッと言わないのよ?」
「ま、ぶっちゃけるとだ、こんな深夜に来て我が侭言いやがって……と思わなくも無かったぞ?」

 我が事の様に怒り出したハルヒと、一頻り生活保護の問題点を挙げつつ———実現する手段も無いのに———システム改善方策をあれやこれやと出し合う俺達なのだが、しかし、「何を堅苦しい話をしてやがるんだ?」と突っ込む無かれ。
 俺もハルヒも結婚出産育児を経験してからは、自分達は勿論、何より子供達の将来に係わるってんで、以前にも増して社会情勢を身近に感じる様になっていてだ、故に政治や経済に外交問題等に関する夫婦談義が食卓で繰り広げられるのは、多分、何処の家庭でも同じだと思うのだが、どうだろう?

*****

 だが、俺達はそれ以上———日本の将来を憂える幕末志士の如く———話し込む事は出来なかった。
 何故なら話に夢中になった俺が、無意識の内に口に残っていた咀嚼物をお茶で流し込んだ瞬間、それを目敏く見つけたコハルに舌鋒鋭く指摘されたからである。
「あっ、パパ!? ちゃんと30回噛まないと身体に悪いんだからね!!」
 そして、それに返事を返すよりも先に、姉の口調を真似たキョン太からも「悪いんだからね」と注意されるに及び、俺は全面降伏。
「あぁ、済まんな……話に夢中になってたよ。しっかり噛むから許してくれないか?」
と少々ご機嫌斜めな我が娘に俺は笑顔を向け、ハルヒも仲を取り持つ様に「パパを許してあげてね、コハル?」とニッコリ。
「……判ったわ、許してあげる。でもね、パパ?」
「うん、何だ?」
「難しい話はおしまいにして。じゃないと、あたし、詰まんない。せっかく、一緒に食事してるのにさ……」
 握り締めていたフォークをテーブルに置きながら、コハルは俺を見上げ口を尖らせつつ寂しそうに呟いた。
 何時も元気一杯なコハルの寂しげな表情、それを浮かばせたのは俺の言動である事は明白で、何やらめがっさ鋭いナイフで抉られ身体が引き攣るが如き激しい痛みを魂魄レベルで感じちまい、俺は罪悪感に促され咄嗟に愛娘の小さな頭を胸に掻き抱いていた。
「あぁ、済まない。だが、コハルの事を忘れてた訳じゃないからな?」
 大人しく胸に抱かれているコハルの形の良い頭をポンポンと叩きつつ、言い訳めいた言葉を口にしていると、その様子を見ていたキョン太までもが、何故か「ずるい、僕も僕も」と手足をバタバタさせて大騒ぎしだし、「いやいや、君達、今は食事中ですよ?」……と思いながらも、我が子に甘えられていると言う多幸感に促され、
「キョン太も、ほら、おいで」
とニヘラとした笑顔で手招きした俺を余所に、我が愛妻はニッコリと微笑を浮かべ、しかし、ばっさりと全ての流れを切り捨てるべく淡々と言葉を発した。
「それは、食事が、終わってからに、しなさい」
 その無味無色の迫力に圧倒された俺達は居住まいを正しながら「はいっ」と返事をした訳だが、それが物の見事にハモった事等自明之理であり今更説明するまでも無いだろう。
 何故か……だと?
 あのな? 我が家で最強の戦闘力を誇るハルヒを怒らせる訳にはいかないだろ? 万が一怒らせた暁にはどうなるか、それを俺も子供達も心の底から理解しているのさ。

*****

 そして、三時のオヤツ的食事が済んでからの事である。
 心身共々徹夜明けで疲れている所に、愛妻の超絶手料理でお腹を膨らした俺にとっての次なる敵は睡魔であった。
 何と言うか当直中は脳内麻薬のお陰で気にもならなかった疲労が———帰宅して一息吐き緊張が解けた瞬間———ドッと溢れ出してきやがり、その濃厚エキスに身体&精神を蹂躙されていく過程を、只ボンヤリと眺めているだけ……っつう何とも表現し辛い独特の感覚なんだが、んー、学生時代に貫徹したまま朝一の講義に出席したはいいが、その真っ最中、我慢出来ずにウツラウツラした経験のある人ならば、「あぁ、アレね」とでも即座に納得して頂けるものと確信している。
 だから、判るだろ?
 このヒュプノスによる呪いの強さを。
 ここでその御手に魂を委ねる事の素晴らしさを。
 だがな、ここで寝入ってしまうと……これがなぁ、驚愕する程アッサリ即落ち出来る上に深く濃密な睡眠のお陰で、モノの数時間で感動しちまいそうになる位素晴らしい目覚めを得る事は出来るんだが、———その反動で睡眠欲求が満足してしまうのか———マジで夜に寝付けなくなってだ、確実に生活リズムが崩れてしまい、下手をすると体調までもが可笑しくなってしまう事を俺は実体験から学ばされていて、故にだ、通常の就寝時間まで起き続ける事は至上命題であり、普段ならサイクリングやら水泳やらに繰り出し、睡魔に抵抗する所なのだが、今日は食事が終わるや否やコハルにとっ捕まるや否や、「パパー、絵本を読んで」とせがまれ、俺はその愛くるしさから後先考えずに快諾し、リビングのソファに腰掛けている訳なのだが……。

「だめっ、コハルが先なの!!」
「やだやだ、キョン太も読んでもらうの!!」

 ……あー、何やら俺の眼前では我が子同士が絵本を片手に言い争っていて、何時もなら姉を立てるキョン太と、何かと弟に優しいコハルの間で突如勃発したのは、どうやら俺に絵本を読んで貰う権利&順番争奪戦らしい。
 「さぁ、久しぶりに絵本を読んであげるか!!」と気合を入れた俺を余所に、2人は俺を挟んで元気一杯に大きな声を上げ続け、はっはっは、今日のお父さんは当直明けで疲れてるんでな、いい加減にしなさい、2人とも。

「ゴホン……あー、まぁ、何だ。喧嘩するなら絵本は無しにするぞ?」
「えー、やだー」
「僕もやだぁ」

 苦笑しながら俺が正直に要望を告げると、その口調から何かを察したらしく、瞬時に喧嘩を中断し子供達は頬を膨らましながら仲良く父親に不平不満の声を上げ、その様子から「この騒動も暫く続きそうだな、さて、どうやって宥め賺すのが最上の方法だろうか?」……と俺が思案投首していると、その苦境を察したのだろう、美しい平和の使者が絶妙のタイミングでフワリと舞い降りた。
 今この場面には俺達四人しか居ない訳で暈す必要も無いのだが、言うまでも無くそれはハルヒさんでだ、台所で洗い物をしながら背中で会話を聞いていたらしく、微笑んだ顔付きが目に浮かぶような優し気な声で子供達に呼び掛けてくれる。
「なら、仲良く一緒に絵本を読んで貰いなさい。2人ともイイ子だもんね? だから、パパにお願い出来るわよね?」
 ハルヒのさり気無い介入により———両親から窘められた子供達は不満気な顔付きながらも———このままでは絵本タイムが消滅する可能性に思い至ったらしく、イソイソとソファに可愛らしく座り直しながら、休戦の意思を込めたアイコタクトを互いに送りつつ、
「パパ、絵本を読んで下さい」
と声を揃え、その可愛らしい要求を受けた親としては、例え親馬鹿と言われようとも拒絶的単語が口を吐く筈も無く、コハルとキョン太に左右を挟まれた格好のまま、笑み崩れつつ「それじゃ読むぞ?」と一言断りを入れてから、俺は受け取った絵本を膝の上に広げ深呼吸を一回、そして、ゆっくりと朗読を開始した。

*****

「ふぁぁぁ……」
と耐え切れずに俺の口から欠伸が漏れる。
 疾うの昔に夜は更け、一日の終わりが刻一刻と近付いて来ていた。
 子供達を早々に寝かし付けるべく夕食にお風呂歯磨きと一日を〆る的恒例行事を慌しく済ました後、リビングで暫し平和な家族団欒を満喫していた俺は、蓄積された疲労のため既に入眠一歩手前状態だった。
 そんな俺を気遣いつつ、遊び疲れてミニカー片手に寝入ってしまったキョン太を抱きかかえながら、「ねぇ、キョン?」とそっと呼び掛けるハルヒ。
「ん? ……あぁ、キョン太は寝たか。コハルを布団に運んでから、ふぁぁぁ、俺も寝るさ」
 俺の膝の上で静かに絵本を読んでいたコハルは、何時の間にやらウツラウツラと舟を漕ぎ、コクンとなっては慌てて起き直すっつう可愛らしい行為を何度も繰り返していた。
 娘に甘えられる機会ってのはだ、父親としての我が身の幸福を実感出来る得がたい時間なのだが、まぁ、状況が状況である、俺はコハルの頭を撫でつつ声を掛ける。
「コハル、眠いだろ? ベッドに行こうか?」
「まだ、ねむくないもん……まだぱぱといるのー」
「ん、そうか……あー、じゃあパパも少ししたらベッドに行くから先に寝てなさい。コハルが寝てくれないとパパも安心して寝れないからさ」
「……じゃあ、むにゅー、ねるぅ」
 コハルは大きな欠伸を天に向かって遣らかした後、コテンとその小さな身体を俺に預け、即座に「スゥスゥ……」と安らかな寝息を立て始めた。

「あらあら、コハルも寝ちゃったのね?」
「相変わらず限界まで起きてるよな、コハルは。全く誰に似たのやら」
「くすくす、誰かしらねぇ? 少なくともあたしじゃないわよ?」
「やれやれ……だったら俺って事になるんだが?」

とハルヒの軽口に肩を竦めつつ俺は愛娘を抱き上げ、寝入ったキョン太を抱えたままリビングを後にした妻の後を追う。
 キョン太を気遣いつつゆっくりと階段を上がっていたハルヒは、チラリと俺に目を遣りながら楽しそうに頬を緩め、からかう様な口調で囁いた。

「あら、自覚が無いのかしら?」
「何? 何の事だ?」
「この前、お義母さんから伺ったわよ? 小さい頃のキョンは寝かし付けようとしても全然寝てくれなくて、何が不満なのかピィピィ泣きじゃくって毎日大騒ぎ……何時も今日はちゃんと寝てくれるかしら?って心配ばかりしていたわって」
「…………」

 自分が記憶していない幼少の頃を間近で見続けていた人物———それも母親の証言である———弁明するだけ無駄であろう事は明々白々であり、故に俺の反応が苦笑するに留まったのは止むを得ない事であろう。
 しかし、ハルヒは何時の間にそんな情報を収集していたのだろうか? と疑問を覚えつつ、しかし、俺は無言で愛娘ベッド移送計画を実行し続けた。
 何となれば、己自身が覚えても居ない恥ずかしい過去を、これ以上妻から聞かされ、しかもそれを否定出来ない何ざ……赤面モノの屈辱であり、いやはや御免蒙りたいと思うのは、男として至極当たり前だと思うのだが、どうだろう?

*****

「……でね、今回はどーしようかなぁって迷ってるの」
「しかし、俺も有給取るし、ハルヒだって皆と会うのは久しぶりだろ? ……そんなにコハルが心配か?」
と言う俺の質問に対し、言語による回答を寄越す事無く、苦笑を浮かべながら、両手で握っている湯飲みに可愛らしく口を付け、コクコクと喉を潤すハルヒの横顔を見詰めつつ俺も苦笑を浮かべていた。

 子供達を寝かし付け、「俺達夫婦もいい加減寝るか?」って段階になって、ハルヒから相談したい事があると言われた俺は———当然の事ながら快諾———ソファに腰掛ける妻の隣に腰を下ろし、それを親身になって聞いていたのだが、その内容はと言うと、数週間前にちょろんとハルヒが零していた大学時代のゼミの同窓会参加に関してだった。
 実の所、俺とハルヒは学部が違ったため、俺はそのゼミ関連には全く縁が無い。
 だが、今でも都合を付けては年一回の割合で顔を合わせ近況を報告し合うのが恒例となっている程、ハルヒにとって得難い大学時代の友人達である事は理解していたし、何よりも去年は直前になってコハルが熱を出し急遽出席を取り止めていた事もあり、「今年こそは」と妻が思っていたとしても無理からぬ事ではあった。
 そんな訳で、俺は諸手を挙げて同窓会への出席への賛意を表明したのだが、そこはハルヒも母親である、子供達の事が心配で仕方が無いらしい。
 キョン太は「ママについていくー」と大はしゃぎなのでスルーするとして、問題なのはその姉であるコハルの主張にあった。
 何時もなら「キョン太の面倒を見るのは、あたしの役目なんだからね!!」と保母さん的甲斐甲斐しさを発揮し何くれと世話を焼きたがるコハルなのだが、今回に限っては、何故か「絶対に行きたくない」と言い張り、その主張を頑として曲げないのである。
 コハル自身にその理由を聞いても、

「わかんないけどコハルは家に居ないといけないの。じゃないとダメなんだからね」

と言う理解し難い返答が返ってくるだけで、如何な両親とは言え本人すらはっきりと把握していない事を理解出来る筈も無く、俺もハルヒも手を焼いていた訳であった。
 その辺りは母親に似たのか、一旦自己主張した事は余程の事が無い限り撤回しないコハルである。
 故に俺はコハル説得を諦め、その代案として上司に理由を話しどうにか有給を取っていてだ、
「若し万が一にコハルが体調を崩したとしても、自分の勤務先に駆け込むさ」
と愛妻に告げたのだが、何か他に理由でも有るのか、即断即決を旨とするハルヒにしては珍しい事に、今一煮え切らない。
「うん、そーなんだけどさ……でも」
 確かにコハルの振る舞いには小首を傾げたくなる要素満杯で、正直に言えば、俺も心配である事は否定出来ない。
 だが、その反面、激動の高校時代を生き抜いた俺の第六感が告げていたのである。

「何も心配は要らない……って言うか、寧ろ勇往邁進しちまえ、俺よ」

 その得体の知れないくせに妙に人を安寧させてくれる安堵感に促された俺は、不安気なハルヒをそっと抱き締めていた。
 
 そう、今までこの感覚に従って後悔した事は無い。多分、今後もそうなんだろうさ。
 
 そんな思いを込めて、俺は愛妻を割れ物を扱う様にそっと抱き締めた。
 当然ながらハルヒも抵抗はしない。
 そして、両手の中で大人しくしている愛妻の耳元で、俺は優しく自信満々に囁いた。
 ここでハルヒを縛り付けている鎖を解いて妻の背中を押してやるのも、ゴホン、夫の務めってヤツだろ?
「ハルヒは家事に子育てにと頑張り過ぎな位良く遣ってる。それを俺はこの世で一番理解しているし、ホントに幾ら感謝しても切りが無い位だぜ」
「…………」
「だからな、ハルヒ、偶には生き抜きも必要だぞ? あー、まぁ、何だ、コハルの事は俺に任せてくれないか?」
と決意を込めて告げると、安心したと言いた気にハルヒの身体からフッと力が抜ける気配。
 それを察知した俺は一挙勇躍、切り札とも言うべき言葉をその形のイイ耳にそっと告げた。

「それとも……団長様にとって雑用は信頼するに能わざる程度の詰まらない男か?」
「……ううん」
「なら、何も心配するな。俺が何とかする」
「キョン……うん、判ったわ。あたし、行って来るわ」
「あぁ、友人としこたま語り合って来てくれ」
「……」

 小さく、しかし、満足気に頷きつつハルヒが静かに顔を上げる。
 将に傾国の美女と呼ぶに相応しい美貌が眼前に存在した。
 その極上の宝石の如き瞳が潤んでいる。
 見詰め合う事暫し……2人の呼吸が徐々にシンクロしていき、それに伴って身も心も感覚も同化して行く感覚。
 俺達を包む周囲の雰囲気も、互いが互いを欲する甘ったるい物に変化していった。
 それを悟ったのか、ハルヒが恥ずかし気にスッと交わっていた視線を逸らしつつ、しかし、何かを告げるが如く、俺の背中にスルリと腕を回し抱きついてくる。
 途端、俺の鼻腔はハルヒの甘美な体臭に侵食された。
 何と言う官能的な香り。
 クラリ……。
 世界が揺れる。
 それを知覚した瞬間———理性も何も有ったモンじゃない———居ても立っても居られ無くなった俺。
 思わずハルヒの柔らかい身体をギュッと抱き締めるや否や、愛妻の柳腰を堪能しつつ、その可憐な唇を己のそれで塞ごうと試み、しかし、俺はその蠱惑的行動を実行に移す事が出来なかった。

*****

 何故なら……。
 何故ならば……。
 リビングに置きっ放しにしていたスマホが———まるでこの雰囲気を木っ端微塵にする心算なのか———絶妙のタイミングで着信音を軽やかに奏で出したからだ。
 しかも、その音楽はSOS団所属の男限定で設定しているヤツであり、って事は掛けて来たのが誰かってのは丸判りで、俺の脳内でソイツの名前が連呼されるに及び、大脳に掛かっていた桃色の霞が雲散霧消してくれやがる。
 んでもって、俺が理性を取り戻した事を敏感に察知したハルヒはハルヒで、自らの行為を客観視したのか、慌てて俺から離れ「コホン」と可愛く咳をする始末で、その表情を窺うと……“その気”はすっかり失せたらしく、はっはっは、折角のイイ雰囲気が台無しだ。

「あの野郎……」

 俺が半分以上本気で殺意を覚えているにも係わらず、スマホは軽快な洋楽を流し続ける。

Highway to the Danger Zone
 危険領域へのハイウェイ
Gonna take you
 俺はお前を連れて行くぜ
Right into the Danger Zone
 危険領域へ向けて一直線さ

 夫婦水入らずの貴重な時間にそぐわない明るい曲調が部屋の中を乱舞する中、
「こ、古泉君……こんな時間に、何の用なのかしらね?」
と気まずい間を取り持つ様にハルヒは殊更明るく問い掛け、俺は「憮然」と言う文字以外で表現出来ない表情を浮かべたまま、スマホに手を伸ばした。

 無粋極まりないイケメン男に、開口一番、嫌味の1つでも告げてやろうと心に誓いながらな。
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  1. 2000/01/01(土) 00:00:00|
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