女神様の絵本箱

「涼宮ハルヒの憂鬱」の二次創作小説ブログです♪ 基本甘々ハルキョンキョンハルメインです(^▽^)/ 先ずはSSリストよりどうぞなのです

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そして、夢見る少女は大人の階段を昇る……④(大人キョン君視点)

そして、夢見る少女は大人の階段を昇る……


・粗筋:そして、事件は起こってしまうのです……。

*****

「続きを読む」からは ……

 大人キョン君視点④:
【……そう、全てはお前の奇天烈自己紹介から始まったのさ(こんな時間に何処に行く心算なんだ、コハル!?)】


……になりまーす(^▽^)/



*****

 そして、俺の思惑通り音読一回であっさりと夢の世界へと旅立ってくれたコハルさんなのだが、日暮れ時になり———約束通り古泉達が到着したらしく———呼び鈴が「リンゴーン」と鳴るや否や、反応宜しくパッチリと目を覚ましたかと思うと、一気に活動を再開、
「きゃっほーい、来たぁぁ!!」
と叫びつつ横になってたソファから飛び起き、疾風怒濤を体現しようとでも考えたのか、父親を放置して玄関に突撃を敢行する。
 父親すら「何と言う目覚めの良さだ?」と感心してしまう程の寝起きの素晴らしさは、将にハルヒ直系の証であると誰もが認めるところであり、そして、必ず対比されるのが俺の非常識なまでの低血圧ぶりであるのだが、それはさて置き、俺が愛娘の後を追って玄関まで足を運んでみると、何時の間にやらコハルは門扉の外まで飛び出し、公道のど真ん中で団員1人1人に抱き付き、満面の笑顔で「いらっしゃーい。待ってたんだよー」と歓待していた。
 この子が産まれてからこっち、数ヶ月に一回の割合で顔を合わせているお陰か、コハルにとってSOS団団員は家族同然の存在と言っても過言ではなく、嬉しい事に古泉達もコハルを我が子の様に可愛がってくれているとなると、俺が苦言を呈する余地等皆無に等しく、玄関先のポーチで楽しげに近況報告をし合うコハルと朝比奈さん・長門を俺は無言で見詰めた。
「堪らないな……」
 返す返すも残念な事に我が妻と息子が不在と言う文字通り完璧な状態では無いにも係わらず、それはマジで感涙に咽び泣きそうに成る程幸せを絵画に描いた様な光景であり、見慣れているとは言え、余りの多幸感に身震いする俺なのであった。
 だが、俺の心が感動に打ち震えているのに、古泉のヤツはその辺りの機微を全く気にする事無く、忍者を髣髴とさせる脚捌きでススッと音も無く近寄って来やがった。
 忌々しい事にだ、見るからに女の子好きしそうな爽やか好青年人畜無害的笑顔を浮かべてな。

 畜生……相も変わらずのイケメンっぷりじゃないか、古泉?

「どうも。本日はお招き頂き有難う御座います」
「……誰も招いちゃいねぇよ。だがまぁ、お前らが来てくれたお陰で、ハルヒが安心して同窓会に行けたのも事実出しな、そこは感謝している」
「我々もお会いしたかったんですが、次回に期待と言ったところでしょうか?」
「次は絶対に参加するんだからねっ……とハルヒも言ってたからな、団長様の折角の要望だ、遣り繰りして都合を合わせようぜ」
 仲間内の私的会合だってのに、———まるで、これから得意先への重要な商談に赴くが如く———ビシッと高級スーツ&ネクタイ姿の古泉に、俺は無言で室内へ入る様促しつつ、和気藹々と語り合っている残りの面子へ「そんな所で立ち話もなんでしょうから、どうぞ」と声を掛けた。
「あっ、そうだよー。有希ちゃんもみくるちゃんも入って入って!!」
 満面の笑みで2人の手を握り締め、敷地内にグイグイと引っ張り込もうとするコハルと、それを微笑ましそうに受け入れてくれる朝比奈さんに長門。
「ご、御免なさい、キョン君……えと、お邪魔します。あ、有難うねコハルちゃん」
「招待多謝」
 そんな感じで三者三様の反応を示しつつ、どうにか玄関に全員が入ったのを確認してから俺は玄関ドアを閉めた。
 大はしゃぎのコハルが朝比奈さんの手を握ったままリビングへと走り込む中、流れ的に殿になった長門が靴を脱いでいる所へ小声でひっそりと頼み事をする俺。
「あ、そうだ、長門……客に対して依頼する事じゃないかも知れなんだが」
 靴を脱ぐ作業を止めヒョイッと顔を上げた長門は、殆ど表情を変えずに「何?」と囁いた。
「済まんが、今日の夕飯な、コハルが長門特製カレーを食べたいって言うんだが……甘えて悪いが、お願い出来るか?」
 心底恐縮しながら頼み込む俺をジッと見詰めていた長門さんなのだが、———耳聡くその依頼を聴いていたらしい———コハルがタイミング良くリビングからヒョッコリ顔を覗かせ、
「あ、有希ちゃん!? コハルね、有希ちゃんのカレーが食べたいのっ」
と元気一杯に告げると、口元を微かに綻ばせ即座に「了解した」と快諾してくれた。
「済まないな、長門」
「いい。私もカレーを食べたいと思っていた」
「やったぁぁ!! コハル、有希ちゃんのカレー、大好きっ」
 そんな感じで天真爛漫を絵に描いた様なコハルの歓声を耳にした大人達が、申し合わせたかの様に微笑を浮かべたのは言うまでもない。

*****

 そして、少々早い夕飯として長門特製カレーを平らげ全員が満足げな溜息を漏らしてから、既に小一時間程が経過、外は薄暗さを増し確実に夜の侵食を受けつつあった。
 飲酒に関してアレコレと小言を言うハルヒが居ないこの状況である、「奇貨居くべし」とばかりに早速リビングでチビチビと国産高級ウィスキー“白●”で口を湿らしつつ、俺と古泉は他愛も無い世間話に花を咲かせ、その隣で長門は時折スナックに手を出し出し黙々と分厚い洋書を読み耽り、朝比奈さんはと言えば、キャッキャッと纏わり付くコハルの相手をしながら、手際良くキッチンでお手製のツマミを作ってくれている。
「…………」
 各個人が自由気侭に楽しんでいるこの独特の雰囲気、高校時代からの特段変わらぬSOS団そのものであったのだが、しかし、やはりと言うか何と言うか、何処と無く“何かが足りない感”を覚えてしまい、俺は無意識の内にポツリと漏らしていた。
「上手くは言えんが、ハルヒが居ない俺達の会合ってのは、何と言うか、今一シックリ来ないもんだな……これが往年の奇天烈対策会議ってんなら話は別なんだが」
「ふふ、今も昔も涼宮さんあってのSOS団ですからね、それも仕方が無いのかもしれません。有るべき存在が不在である時、人は不安に苛まれるものですから」
「……それはそうと、ハルヒ本人が居なくても“涼宮さん”って呼び方はそのままか、古泉?」
 俺が少々呆れ口調で問い掛けると、古泉はグラスからウィスキーを一気に煽ると同時にヒョイっと肩を竦めて見せ、相も変わらず妙な所で器用なヤツである。
「正直に申し上げれば、奥様の旧姓を旦那様の前で口にするのは憚られるのですが、何せ団長目命令ですので……」
と苦笑交じりに弁明する古泉の言う通り、俺達の結婚式直後に開催されたSOS団だけの三次会に於いて、上機嫌のハルヒさんは言い放っていたのであった。

「確かにあたしはキョンと結婚するんだけどさ、でもね、先ずはその前にSOS団団長なんだし、このメンバーで集まる時は今まで通りに呼んでね? オッホン、これ、団長命令なんだから!! ……えっと、いいわよね、キョン?」

 結婚相手に対し曲がりなりにも確認を取る所が成長の証と言えるかも知れんが、まぁ、それはそれとして、俺がその問い掛けに何と答えたかと言うと、何と言うか、団長様が超新星爆発を髣髴させる様な光り輝く極上笑顔で仰ってる事を雑用如きがどうにか出来る筈も無く、それに見蕩れつつ「そんな関係があってもイインじゃね?」的SOS団じみた発想も有り、そんな訳で、結婚したにも係わらず、団内でのハルヒさんは未だに旧姓のまま“涼宮ハルヒ”なのであった。
 「高校時代からその忠義ぶりは変わらないな、お前」と口にした俺なのだが、褒めているのか呆れているのか今一はっきりしないのは何故だろう?と疑問に感じつつも、己自身はっきりしない事に思い煩っていても仕方がなかろうあるまい……そう考えた俺は———ホスト的気遣いと共に気分転換を兼ね———ボトルを軽く持ち上げつつ、読書中の長門へと声を掛けた。
「長門? お代わりはいるか?」
「…………」
 高校時代と同じ様にゆっくりと本から顔を上げ、長門は澄んだ瞳を俺に向けるや否や、コクンと微かに頷いた。
 疾うの昔に空いていたグラスに氷を放り込んでから、そっとウィスキーを注ぎ、そして、俺はさり気無く問い掛ける。
「どうだ最近は? その……妙な事は起こってないか?」
「平和」
 これまた何時も通りの素っ気無い一言なのだが、しかし、長門大明神のお墨付きは、今も昔も俺の心に平穏を齎すのである。例えハルヒと結婚してから一度も妙な出来事に巻き込まれていないとしてもだ。
 そんな精神的穏やかさに促されたのか、俺は無性に皆で再度の乾杯をしたくなり、台所で作業中の朝比奈さんに声を掛けた。
「そちらは落ち着きましたか、朝比奈さん?」
「あ、キョン君……もう少しでポトフが出来ますよー」
「やれやれ、パパはせっかちなんだから。もう少しだから、待ってて」
 何をしているのやら、朝比奈さんの周りでウロチョロしているコハルは、まるで自分の手柄の様にエッヘンと胸を張り、その姿を笑いを噛み殺して見ていた古泉が「本当にコハルさんは涼宮さんそっくりですね」と感想を口にし、それを否定出来る材料をゴマ粒程も持ち合わせていない俺は両手を上げて賛意を示す。
「全くだ。ああやって小言を言われると、ハルヒが2人居るんじゃなかろうか?……って思う時もあるぞ?」
「ふふ、責任感溢れる所は貴方の血を引いていると、僕なんかは思いますが?」
「責任感が強い? 俺が? やれやれ……それもハルヒの特徴じゃないか?」
 そんな俺の怪訝そうな返答を耳にした古泉が起こした行動はと言うと、俺のグラスにウィスキーをドバドバ並々と注ぐ事だった。

 おいおい、それなりに高い酒なんだぜ? もう少し敬意を持ってだな……。

 雑に扱われ憤激しているであろうウィスキーに代わって、俺は非難めいた視線を古泉に突き刺したんだが、それを平然と跳ね返しつつ副団長は爽やかに宣った。
「その様な韜晦をされるようでは、まだまだ酔いが足りないようですね。これは少々強めにお作りしなければ……」
「……強めも何もそんなに注ぎやがって、氷すら入れる余地が無いじゃないか」
「なら、一気にお飲みになれば宜しいかと」
等と慣れた様子でウィンクを投げ掛けつつシレッと言い放つ古泉なのだが、やれやれ、言いたくはないが、昔のお前はもう少し可愛げがあったんだがなぁ……後、男にウィンクされても嬉かねぇぞ?
 何故だか文句を言う気力すら湧かず、俺は「やれやれ」と首を振り振り唇をグラスに近付け、可哀想な事に安酒チックな扱いを受けている高級ウィスキーを———行儀悪くて済まんな———派手な音を立てて啜り上げた。

*****

 とまぁ、この辺りまではハルヒが不在だとは言っても、友人達と集まり酒を飲み交わしつつ、己の近況を語り合う平々凡々且つ平和なSOS団の集まりだった。
 古泉や長門に朝比奈さんも普段と変わらず……特に朝比奈さんが隠し事を苦手とするのは昔ながらであり、(娘と言うよりも)歳の離れた妹と接する風情でコハルと無邪気に戯れているその微笑ましいお姿からは、マジで何も妙な気配を感じ取る事は無かったのである。
 
 故にだ、俺は何の心構えもしておらず、いやいや、この状態で“事件”が起こる何ざ誰が想像する?

 そんなホンワカとした雰囲気を一変させる様な事態に遭遇し周章狼狽したとしても、この世の誰が俺を責めれるというのだろう?
 そう言い訳をしたくなる程の唐突さで、“ソレ”は発生した。

*****

 古泉の仕出かしてくれた“ウィスキーを縁ギリギリまで注ぐ”と言うお茶目な悪戯のせいで、それをどうにか飲み干す時分には、気分良くほろ酔い加減であった俺なのだが、しかし、それは呂律が回らなくなる程でもなく、後日ハルヒから小言を貰わない位にはきちんとホスト役をこなしていた。
 そんな中「おや? ……味が薄くなりましたか?」等と恐ろしい事を言い出し、何時の間にやら手酌でツーフィンガー&ストレートにしてやがった古泉さんのため、———こいつがこんな事を言い出すのは、“マジで理性が消え去る五秒前”だと、幾多の経験則で知り抜いている俺だからこその気遣いである。感謝しろよ、古泉?———チェイサー代わりのミネラルウォーターを求めて台所に向かっていた時の事だった。

 その時、俺が注意を払っていたのは、スターリングラードで赤軍に多重包囲されたドイツ第六軍の如く、対酒精戦闘に於いて必敗的戦況に追い込まれている我らが副団長殿の様子だった。
 「何故に古泉如きを心配せねばいかんのか?」と憤激していたせいだろうか? このマッタリとした雰囲気に似合わない魂消る様な絶叫が突如響き渡る事になるとは予想だに出来ず、いやいや、これを予知出来る奴が居たら、そいつは正真正銘のエスパーか未来人だと認めてやるし、珍妙な存在としてハルヒに紹介してやってもいい。
 そして更に付け加えると、あー、コメントし辛い事に、周囲を驚愕させた声の主は、誰あろう、我が愛娘であった訳で……。

*****

「えぇ!? うっそー、パパとママ、喧嘩した事あるの!? 信じられない!!」

 向かっていた台所から叩き付けられたのは、コハルの悲嘆に染まり切った声だったのだが、———それに物理的影響でも有ったのだろうか?———俺の脚はピタリと動きを止めた。
 リビングに残って何やらイギリスの古典的名著に関する会話を交わしていた古泉と長門もそれを打ち切り、「何事か?」と反射的に顔を向けたようである。

 そして、その全ての視線が集中した先には、何やら興奮した様子のコハルの姿。

 恐らく他愛無い会話の途中で行き成り激昂したらしいコハルに対して、朝比奈さんはオロオロしながら何事かを弁明し出した。
 慌て気味にしゃがみ込みコハルと目線を合わせている朝比奈さんのお姿が、その動揺っぷりを感じさせてくれる。

「あ、え、でも、そのすっごく昔の事でね、今の事じゃないのよ、コハルちゃん。パパ達が高校卒業するちょっと前の話で……」
「そんなのダメ!! 何時もパパとママはね、ずっとずっと仲良くしなきゃダメなんだからねっ」

 「う、うん、そうなんだけど……」と小声で言いながら、困惑した表情を浮かべたまま、救いを求める様に朝比奈さんは俺を振り返り、だが、その縋る様な眼差しに反応するよりも早く、コハルが血相を変えてテッテッテと父親の元に駆け寄って来た。
 そして、思わず俺が腰を引けてしまう程に鋭い眼差しで父親を見上げたまま激しい口調で詰問するコハル。
「ちょっと、パパ!? どーして喧嘩なんかしたの!? ママにちゃんと謝った!? 原因は何!?」
「え? ……あ、いや、まぁ、落ち着けコハル?」
 事情がさっぱり判らない俺が返せた言葉は、情けない事にたったそれだけだったのだが、それで興奮したコハルが納得する筈も無い。
「ホントにやれやれだわ!! 全くもうパパッたらっ、誤魔化そうたってそーはいかないんだからねっ。コハルの質問に答えて!! すっごく重要な事なんだからっ」
「い、いやぁ、誤魔化す心算は……」
 言葉を詰まらせ冷や汗を掻き掻き、俺は慌てて記憶中枢をひっくり返す。

 俺が高校時代にハルヒと喧嘩した? 一年の時の映画撮影の話か? いや、あれは互いに何と無くだが水に流した感があるし……ん? 朝比奈さんは何て言った? 高校卒業直前だと? ……そんな時期に喧嘩したか?

 とまぁ、そんな感じで愛娘の剣幕にタジタジとなりながら、コハルをプンスカさせている“喧嘩”とやらを、必死に思い出そうと悪戦苦闘中の俺だったのだが、だからこそ、全く気が付く事が出来なかった。

 この一連の流れの中でしゃがみ込んだままだった朝比奈さんが、———何に思い当たったのかさっぱり判らないのだが———その美貌を真っ青に染め上げていたのを。
 その雰囲気が一瞬にして張り詰めた物に変化したのを。
 口元を両手で覆い身体を微かに震わせていたのを。

 そう、それは、それら全てが告げていたのだ……「これは規定事項である」と。

*****

 そして、俺はと言うと、済まん、当事者の筈なのだが、さっぱり状況に付いていけていなかった。

 酔いのせいかどうか、俺が全く思い出せない過去の喧嘩の事でプリプリしていたコハルは———曖昧な対応を繰り返す父親に業を煮やしたらしい———プン剥れたまま腰に手を当てて踏ん反り返り、ズビシッと俺を指差し元気良く宣言してくれる。
「もぅ、そんなんじゃママが悲しむじゃない!! ……いいわ、コハルがどーにかしてあげるっ」
「す、済まん……な、何? 何だって、コハル?」
 緩急織り交ぜたコハルの突拍子も無い各種言動に対し、素で呆気に取られ続けていた俺が漸う切れ切れに漏らした台詞がこれであった。

 俺達の高校時代の喧嘩とやらに、コハルさんが何をどうする心算なのか、さっぱり見当も付かん……。

 まるで往年のハルヒさんを連想させる一般人には理解し難い独自理論の飛躍展開であり、普遍的一般人たる父親をめがっさ困惑させた後、コハルはクルンと身を翻しテッテッテと台所に駆け込んだ。
 そして、「やれやれだわ」とか「全く世話が焼けるんだから」とか「パパのバカ」とかブツブツ呟きつつ、冷蔵庫や何やらをガサゴソ漁るコハルは、良くは判らんが、某かの準備をしているらしい。
「…………」
 状況の変化に付いていけずアングリと口を開けていた俺は、頭を掻き掻き恐る恐るコハルに問い掛ける。
「あのー、えとですね、コハルちゃん?」
「ききゅーそんぼーのときだから後にして!! いいわね、パパ!?」
「……は、はい」
 父親の威厳も何もあったもんじゃない、此方を一顧だにしない愛娘の剣幕に気圧された俺はマジで呆然としたまま我が子の行動を見守り、そして、程無くしてコハルは可愛らしい愛用の小さな手提げ袋にペットボトルやお菓子を詰め込み終わると、満足気に頷く事一回、それを片手にテッテケとキッチンを飛び出し廊下へと消えて行き、その後姿を俺は首を捻って見送っていた。いや、違うな……見送るしかなかったと言うべきか?

*****

「…………」
 荒れ狂うコハル台風が過ぎ去った後、静寂を取り戻したキッチンで俺は立ち尽くしていたのだが、何時までも時を浪費している訳にも行かず、状況把握のため、もう一方の当事者たる朝比奈さんを捜し求めたのも当然だろう。

 コハルがあの調子なのである、朝比奈さんに聞く以外に真っ当な方策があるだろうか? 
 俺はそう諸君に問い掛けたい。

 んで、その朝比奈さんはと言うと、何故か怯えた兎の様に身を竦めながら真っ青な顔をされていてだ、その動揺っぷりが何やら俺の保護欲を擽ってくれるのだが……あー、一応誤解の無い様に断っておくが、俺がこの世で愛している女性は只1人ハルヒだけだし、ならば、朝比奈さんへの想いは何かと言うとだ、決して浮気心等では無く、ゴホン、純粋なる敬愛心の発露であると断言させて頂こう。

 えー、俺は何に対して弁明しているのか判らんし、まぁ、何だ、話が盛大に逸れたので元に戻す。

「……朝比奈さん、顔色悪いですけど、大丈夫ですか? それに一体コハルとどんな会話を? ……若しかして、あの子、何か失礼な事を言いましたか?」
とまぁそんな感じで、愛娘が何でプンスカしているのか知るため、俺は朝比奈さんに優しく尋ねたのだが、件の女性はその問い掛けに反応する事無く、コハルが出て行った扉を凝視したままポツリと漏らした。

「こ、これ……き、規定事項……嘘、わ、わたしがトリガーなの?」
「!?」

 その微かな呟きは、俺の酔いを醒まさせてくれるのに絶大な効果を発揮してくれると共に、文字通り絶句をも齎してくれた。
「…………」

 規定事項。

 朝比奈さんの口から飛び出たその単語は、俺の思考能力と魂を同時に凍り付かせてくれた。

 規定事項。

 それを耳にしたのは何年ぶりの事だろう……。

 規定事項。

 俺にとって聞き慣れてはいるが、しかし、所帯持ちとなり一家の主として家族の平穏を護る立場となった今の境遇では、決して聞きたいとは思わない単語の筆頭格であった。
 
 何故なら、それは、確実にこの騒動が、未来人的事件へと連なる事象であると、はっきりくっきりデカデカと実印を押されたに等しいからである。
 これから激動の高校時代を髣髴させる出来事が、確実に発生すると言われたに等しいからである。

 そう、この単語を認識した瞬間を以って、平凡で平穏な時は終わりを告げていたのだ。
 それを俺はこれから身を以って思い知る事になる。
 あの姦しかった高校時代の様に……。

*****

「ちょっ、朝比奈さん!? き、規定事項? ……何ですか、一体何が?」

 相手がマイエンジェルである事をすっかり忘れて、血相を変えながら詰め寄り掛けた俺なのだが、しかし、慌てた様にドアから意識を引き剥がした朝比奈さんの美貌が此方を向いた瞬間、その勢いが即座に霧散した。
 何故なら、その美しく大きな瞳の中に、怯えた様な後悔している様な何とも表現し辛い暗い輝きを認めてしまったからであり、更に付け加えるならば、それと同時に、俺が会得しちまっている予知能力的危機感が激しく警鐘を鳴らしてくれたからである。

 ぶっちゃけて言うと、その複合攻撃を受けて無意識の内に俺は怯えたのだ。

 何? 何故、怯えたのか? ……だと?
 その理由は単純明快だ。

 未来人たる朝比奈さんの口から、
「これは所謂規定事項で、わたし達が関与する時空的事件です。勿論、コハルちゃんも重要人物です」
と説明されるのが怖かったのである、我ながら情けない事にな。
 父親としては、
「コハルやキョン太には普通人類として平凡な生活を送って欲しい」
と考えていた訳で、だからこそ、その想いがガラガラと音を立てて崩れ落ちるのを許容出来なかったのである、忌々しい事にな。

 だが、運命を司る何かは、
“朝比奈さんに何と問い掛けるべきか?”
と思案する暇も俺に与える心算は無いらしい、まるで俺の思考を妨げる様なタイミングで、「ガチャッ」と殊の外大きな音を立てて廊下とキッチンを隔てているドアが開いたのだ。
「!?」
 俺は兎も角、朝比奈さんや古泉達も反射的にそちらに顔を向ける中、コハルがひょっこりと顔だけをドアの影から出した。
 何時の間にやらお気に入りの麦藁帽子を被って戻って来たようなのだが、我が子ながらその愛らしい姿が豪く印象的であり、いやいやそう言う問題じゃなく、ちょっと待ちなさい、コハル? そんなん被って一体何をする心算だ?
 「規定事項」と言う意味深な単語のお陰で相当混乱していたらしい、俺の発声器官は機能を停止していてだ、咄嗟に声を掛ける事が出来なかったのだが、しかし、そんな父親の困惑ぶりもなんのその、愛娘はニッコリと微笑んで、
「じゃあね、パパ、コハルがしっかりと仲直りさせてくるからね!!」
と元気一杯に言い放って顔を引っ込め、皆の返事を聞く前に勢い良く「バタン」とドアを閉めてくれた。
「…………」
 俺の混乱した頭を更にシェイクするが如きコハルの発言。

 じゃあね?……だと? 
 仲直り……だと? 
 いやいや、コハルは、マジで一体何をする気だ? 
 さっぱり意味が判らん。

 コレでもかと困惑した状態ではあったが、可愛い我が子が何やら不穏な行動を取ろうとしているのだ、父親が無意識の内にその姿を追うのは当然だと思うのだが、だが、再び俺の脚は一歩踏み出した状態で停止する羽目になり、ええいっ、何でこうも横槍が入るのだろうか?
 とは言え、それも仕方が無い事であると大きく頷いてしまう俺であった。
 何故かと言うとだ……、

「ま、待って!! キョン君っ、お願い!!」

と背後から朝比奈さんに呼び止められたからであり、そして、それは今まで聞いた事も無い程強く鋭く切羽詰った口調であった事に起因するからである。
 そのお陰かどうか、“コハルを、愛娘を追い駆けなければ”と言う父親的本能的欲求すら掻き消され、思わず朝比奈さんを振り返っていた俺。 
 そんな俺を縋る様な表情のまま朝比奈さんは正面から見詰めていた。
「……朝比奈さん?」
 しかし、呼び止めた割には朝比奈さんは———躊躇った様に幾度も口を開いては閉じると言う動作を繰り返し———何故か言葉を継ごうとしない。
「…………」
 重苦しい沈黙が室内を満たす中、躊躇している心情を端的に示している朝比奈さんの口元を見遣りながら俺は思案した。

 コハルを追い駆けるべきか? それとも、朝比奈さんを促すべきか?

 意味も無くコハルが締め切ったドアと沈黙を守る朝比奈さんの間で視線を往復させつつ、無意識の内にその二択の答えを求め意識を彷徨わせていた俺だったのだが、次の瞬間、頼んでも居ないのに更なるショックが襲い掛かって来やがり、畜生、この此方の都合を少しも斟酌せず次から次へとイベントが続発し翻弄される雰囲気、うむ、マジで懐かしの激動ハチャメチャ高校時代の様である。

*****

 それが発生した出来事の正確な時系列は覚えていない。
 若しかすると、色々と前後しているかも知れず、はたまた、同時に起こった事かもしれない。
 だが、今となってはどうでもイイ事のようにも思える俺であった。

*****

 その時。

 玄関からコハルの「行って来まーす!!」と言う元気な挨拶が俺の耳に届いてきた。
 ソレを認識すると同時に、勿論、俺大慌て。
 外を確認するまでも無く、現時点で既に街灯が大活躍している夕餉の時間。
 小学校にすら進学していない幼いコハルが1人で出歩いてイイ時間ではない、と言うよりも、いやいや、成人するまでお父さんは許しませんよ、こんな時間の外出を。
 そんな思いの篭った制止の声が自然と上がった。

「い、行って来ます!? ちょ、コハル、待ちなさいっ。こんな時間に何処に行く心算なんだ、コハル!?」

 そうドア越しにコハル目掛けて狼狽え叫びつつ、咄嗟に身を翻そうとした俺だったのだが、団員達が示した予想外の反応を目にした瞬間……それに意識の全てを拘束された。
 
 いや、違うな。
 予想外ではなく……それは過去に観た記憶がある反応で、それが記憶中枢を嫌な形で刺激してくれたからだと言い直すべきだろう。
 俺は自然と高校時代を振り返った。
 瞬時に該当する当時の記憶に辿り着く。

 ……あれは確か、SOS団が結成されたばかりの時分、ハルヒに無理矢理駆り出された野球大会だったか? 
 あの時は、試合に負けそうになり不機嫌になった団長様が閉鎖空間を発生させたんだよな。
 そして、それを異能者達が察知した瞬間、単なる野球大会が非日常的事件へと変貌、一気に場が緊張したっけ?

 今もそうだった。
 あの時と同様に団員達の反応で俺は悟ってしまったのだ。
 現時点で普遍的一般的で無い……奇妙奇天烈な出来事が起こったと。

 だが勿論———特に連中の事を気に掛けていた訳じゃなく———俺にとっては愛娘の動向が一番の気掛かりであったと断言してもイイ。
 しかし、恐るべき偶然に因って視界の中には異能力者全員の姿が納まっていてだ、だからこそ、団員の言動を余す事無く認識出来た訳なんだが、しかしそれ故に高校時代以来鍛え上げられた非日常対応能力が活動を再開してくれ、やれやれ、それが良かったのか悪かったのか……。

*****

 その時。
 俺と朝比奈さんとコハルの遣り取りの一部始終を、珍しく困惑した表情を浮かべながら観察していた古泉さんなのだが、———突如としてそれを打ち消す何かが発生したらしい———これまた見た事も無い程驚愕しつつ、そのお陰で酔いも醒めたのか、勢い良く庭先に顔を向けると同時に呆然と言葉を発した。

「こ、この感覚……まさか、涼宮さん!?」

*****

 その時。
 古泉の意味不明な呟きと同時に、玄関前での妙な会話を俺の耳が偶然にも捉えていた。

「……ミちゃんも一緒に来る?」
「はいっ。あたしも行きたい行きます行きましょうっ……是非是非是非!!」
「やれやれ、じゃあ、迷子にならないように、ちゃんと付いて来ないといけないんだからねっ」
「フフ、任せて下さいなのですよっ」

 ……おいおい、何だこの会話は?
 片方はコハルだとして、もう一方は一体誰だ? 
 女の子だってのだけは判るんだが? 
 それに何処かで聞いた事のある話し方……コハルの友達か? 

ってな感じで、把握出来ない事象が増加し、俺の理性の混沌状態を加速させてくれる。

*****

 その時。
 長門さんは本から目を離し俺をジッと見詰めていたのだが、何か気になる気配でも感じたのか、小首を傾げつつスッと顔を動かし庭先に視線を泳がせた。   
 「長門にも今の妙な会話が聞こえたのだろうか?」と俺がボンヤリ思考した瞬間、微かに眉を顰めたかと思うと、元文芸部部長は感情を込めずに一言だけ事実を口にする。

「現時空間よりの跳躍を確認」

*****

 その時。
 朝比奈さんは大きな瞳に涙を溜めつつ、口元を押さえて俺とコハルに謝罪した。
 視線を逸らしつつ俯きつつ。
「ご、御免ね、キョン君、コハルちゃん。知らなかったとは言え、まさかわたしが……規定事項のトリガーだったなんて……」

*****

 以上がコハルがキッチンを飛び出してから、恐らくモノの一分も経たない内に発生した事象の全てであった。

 その時。
 ご覧の通り短時間の内に幾多の現象が連続して発生し絡み合い、俺はそれを把握するだけで手一杯だった。
 分析したり判断したり決断したりする暇何ざ皆無で、ぶっちゃけ状況に翻弄され続け、何ら行動する事が出来なかったのだ。
 あの高1の冬に起こった“世界こむら返り事件”の時ですら、即座に行動した俺がである。
 
 そして、呆然と立ち竦む俺が手に入れたのは……、

「大切な愛娘が何か奇妙な事件に巻き込まれたらしい」

と言う推測だけで、悲しい事にそれだけが現時点での唯一の成果であった。
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宇奈月悠里

Author:宇奈月悠里
ハルキョン&キョンハル大好き人間です!!

アイコンは敬愛するだんちさんから拝借させて頂いておりますっ。

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