女神様の絵本箱

「涼宮ハルヒの憂鬱」の二次創作小説ブログです♪ 基本甘々ハルキョンキョンハルメインです(^▽^)/ 先ずはSSリストよりどうぞなのです

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SOS団は狙われてるんだからね!!B(古泉君視点)

SOS団は狙われてるんだからね!!


・粗筋:キョン君達が居ない時の異能者三人ってこんな感じなんじゃないかなぁ……。


*****


「続きを読む」からは ……

 ちょっぴり切ない副団長編 B:【それこそが最高に好きなんですよ】

……になりまーす(^▽^)/




*****

 これまでですか……。
 涼宮さん、申し訳有りません。これまでのようです。副団長としての責務を果たす事が出来そうにありません……。

と無言で謝罪をしていると、唐突に涼宮さんの極上笑顔が脳裏一杯に蘇った。
 彼に、彼だけに見せる笑顔だった。
 でも、それでも……僕の大好きな笑顔だった。

「!?」

 その笑顔が瞬時に泣き顔に変わった。
 見る者全てを奈落の底に落としそうな凄絶な悲哀を感じさせる泣き顔……。
 号泣だった。

 何故泣いているのです!? 誰ですか、貴方を泣かせたのは!?
 
 その僕の絶叫を受け涼宮さんが泣き腫らした瞳を僕へ向けた。
 恨めしげに僕を見詰める涼宮さん。
 その視線が突き刺さった瞬間、僕は悟る。
 ……どうやら、涼宮さんを泣かせているのは僕らしいと。
 僕の無様な姿が涼宮さんを悲嘆に暮れさせているらしいと。
 そう直感的に悟った直後の事だった。
 
 このままでは涼宮さんの笑顔を2度と見れないと言う絶望感が、魂に悲鳴を上げさせ……。
 このままでは涼宮さんに泣き顔を浮かべさせてしまうと言う罪悪感が、理性を粉々に砕き……。
 ……そして、その瞬間、原初的な感情がごちゃ混ぜとなったかと思うと爆発拡散し全身を一気に包み込んだ。
 指先どころか毛先までそれが到達した直後、突如、僕の身体は淡く赤い光に包まれる。
 僕にとっては身体の一部と言っても過言ではない柔らかい赤光だった。
 閉鎖空間では見慣れた異能から生み出される赤い光。
 このような状況にも係わらず僕は微笑んだ。
 何故能力を現実世界で使えるかも疑わずに。

*****

 直後、僕の胸部からギィンと嫌な金属音が鳴り響いたかと思うと、僕の直上付近の天井に、半ばから折れたコンバットナイフが回転しながらドスッと刺さった。
 男が折れたナイフを呆然と見詰める。そして一言「バカナ……」と呟いた。その世の中全てが信じられなくなったと言いた気に、男はナイフと僕の顔を交互に見る。
 その視線を受け止めつつ僕は静かに語り掛けた。

「申し訳ないのですが……涼宮さんを護るためなら、僕は奇跡すら起こせるのですよ」

 そして、痛みに耐えつつ右手を動かし掌を上に向けた。
 意識をそこに集中する。
 力が一気に凝縮し、次の瞬間、ハンドボール程度のユラユラと回転する炎の球体がボッと出現した。
 カマドウマの時よりも大きい球体だった。
 現実世界で、しかもこの体調で作り出したにしては上出来だと思う。

 男は折れたナイフを握り締めたまま、僕が作り出した赤い球体を恐怖を込めて睨み付ける。
 そして、その表情を保ったまま後方へと飛び退いた。
 僕はその様子を眺めつつ、ゆっくりと壁に手を付いて立ち上がる。
 全身の至る所から激痛が奔るがそれを無視して。
 最後の力を振り絞って……。

 しかし、次の瞬間、体表を覆っていた赤い光が瞬時に球体へと変化し僕を包み込んだ。
 僕は自然と赤い光に包まれフワリと空中に浮遊する。人が息をする様に歩行する様に意識する事無く。
 僕は床から10cm程で停止した。

「…………」
 男はその様子を強張った顔のまま見詰めていた。恐れの篭る小さな声で「神よ……」と呟いたらしいが、僕には届かない。
 ゆっくりと男へ向き直り無感動に男の顔を視線で撫でた瞬間———恐怖が理性を上回ったらしい———意味を成さない絶叫がその口から迸った。
 男は折れたナイフを投げ捨て、ヒップホルスターから拳銃を抜き放ち銃口を僕へと向ける。
 素晴らしい速度だった。
 将に目にも留まらない速さ。
 拳銃は使い込まれたコルトガバメントだった。
 銃口が幾度も火を噴き銃弾が僕へと襲い掛かる。
 しかし……。
 赤い球体の表層でギィンガィンと硬質ガラスを叩く様な耳に響く音が発生し、全ての弾丸を苦も無く弾き飛ばした。
 僕は微動だにしない。驚きもしない。
 男は呆然としつつ、しかし、素早くマガジンチェンジを試みる。
 大量の冷や汗を流しながら。
 男の中で今まで培った常識が根底から崩れているに違いない。
 僕はそれを人事の様に眺めつつ、掌の上で漂う赤光の球弾を無造作に振りかぶった。
 たったそれだけの事で全身を激痛に貫かれる。
 僕は奥歯を噛み締め必死でソレに耐え、どうにか球弾を男目掛けて放り出した。
 ソレは僕の手を離れた瞬間、一気に加速し男へと襲い掛かって行く。
 赤い流星かと見紛うばかりだ。
 男はそれを絶望的な表情で確認しながら、しかし、マガジンチェンジを試み続けた。
 どうやら逃げ出すと言う選択肢を思い付かなかった様だ。

「当たりますね、これは……」

と直撃する事を確信した瞬間———緊張の糸が切れたらしい———僕の神経回路はブツリと音を立てて千切れ飛んだ。
 マガジンチェンジを終えた男が、迫り来る球弾に銃口を向ける光景を最後に……その視界が闇に染まる。

 赤い光が消滅し僕は床へと落下した。

*****

 此処は更衣室だ。
 本来なら教師以外の入室は禁じられているのだが、そこは機関工作員の特権とでも考えて頂きたい。
「やはり、少々痛みますか……」
 僕は襤褸切れと化した制服を、僕専用ロッカーに隠してある新品と交換した。
 Yシャツに左手を通す際、応急処置を施された左肩に鈍い痛みが奔った。思わず顔を顰めつつ、薬が効いてくればもう少しマシに成るだろうと楽観的に考える事にする。

 あの後、男との死闘の最中に気を失っていた僕を救助してくれたのは、異変を察知し現場に急行した機関の特殊部隊の隊員だった。
 
 携帯が破壊された瞬間、緊急警報が指揮車に届いた事。
 作戦責任者が即座に即応部隊に出動を命じた事。
 事態把握と変事対応を目的に校内に潜入した事。
 涼宮さん達に気付かれる恐れがあるため少数のみでの行動である事。
 
 僕はそれらの情報を当の本人達から伝えられていた。
 その最中にも、応急処置としてモルヒネを始め各種薬品を投与され、止めに機関で試作されたらしいストッパーなる怪しげなジェルを左肩に塗布して貰う。

「本当にイイのか? これは、確かに痛みは遮断してくれるし再生効果を高めてくれはするが、半日程度経つと酷い副作用が……」
「構いませんよ」
 僕の身を案じてくれているらしい救護担当員に、僕は笑顔で簡潔明瞭に答えた。
「……こいつは、撤退する事が叶わない様な、戦い続けなければ生き残れない過酷な戦場向きの薬だ。しかも、その場合ですら、使用する事を躊躇う類の……」
「撤退出来ない過酷な戦場ですか……それは此処も同じですね」
と僕は微笑みながら答えた。
 「何?」とその人は呆気に取られ小さく呟く。
 しかし、僕は詳しく説明する事を避けた。
 決して面倒だからとか煩雑だからと言う訳ではない。
 ここで僕が負傷退場した暁に、涼宮さんがどの様な行動を起こすのか、完全に理解して貰えないと思ったからだ。
 きっと涼宮さんはこのイベントを中止してでも、僕を探しに行こうとするだろう。
 その原因を探し出そうとするに違いない。
 彼女が「古泉君を怪我させたのは何処の誰!?」と怒りと共に疑問を感じ、絶対に見付け出すとでも誓ってしまえば、紆余曲折の結果、機関の存在が公になるのは間違いない。

 僕は確信を持って断言する。

「…………」
 ……これは決して自惚れて言っている訳ではない。
 僕に限らず、例えば彼は当然として、怪我をしたのが朝比奈さんや長門さんであっても、涼宮さんは血相を変えて犯人探しをするに違いない。
 仲間の危機を放っておける涼宮さんではないのだから。
 しかも、護れなかった自分を滅茶苦茶責め続けながら。
 心の中で号泣しつつ。
 それを真に理解しているのはSOS団に所属している僕達だけだ。
 そして、団長にそんな思いと決断をさせない様にと願っているのも僕達だけなのだ。
 だから、僕は此処から逃げ出す訳には行かなかった。
 涼宮さんに心配を掛けないために。
 何時もの如く笑って貰える様に。
 それだけのために……そう、世界が云々等と言った御大層な御題目は必要が無いのだ、今の僕にとっては。
 SOS団副団長として如何に行動するべきなのか? それが最重要なのだ。

 制服を着替え終わり恐る恐る左肩を回してみる。
 一瞬だけ鋭い痛みが奔るがそれ程気になる訳ではなかった。ストッパーなるジェルは順調に浸透している様だ。
 それに比例して僕の身体は副作用から産まれる悪影響に冒されている筈だが、この後訪れるソレの事は考えない様にする。
 このイベントさえ無事に乗り切ってしまえば、後は野となれ山となれ……これが僕の偽らざる心境であった。

 因みに顔に付いていた切り傷や擦り傷は、ファンデーションを始め様々な手段を用いて薄くしている。
 「男の癖に化粧品か?」と彼に知られたら嫌味の1つでも口にされそうだった。
 しかし、傷を残しておくと勘の鋭い涼宮さんに見咎められ、追及される恐れがあると僕は判断した。

「あら? 古泉君、その顔の傷、どーしたの?」
「いえ、少々転んでしまいまして……」
「古泉君にしては珍しいじゃない。うーん、確か部室に応急セットがあったわよね? ……うん、付いて来なさい、古泉君、手当てしてあげるわ」
「は? あ、いえ、大した傷では……」
「駄目よ。全く、みくるちゃんと言い古泉君と言い、何でそー遠慮するの? こーゆー事は団長に任せておけばいいんだからね!! さっ、行くわよ!!」

と言いながら僕の左手を何時ぞやの様にムンズと掴む涼宮さん。
 僕は左肩に奔った痛みで顔を顰め呻き声を上げ、更にソレを涼宮さんに見咎められて追求され……。

 ほらね、何やら泥縄式に真実まで辿り着かれそうではないですか?

 高々顔の傷1つでここまで戦々恐々としなければならないとは……「流石は涼宮さんです」としか言いようが無い。

*****

「本当に、顔に目立つ打ち身やら痣が無かったのは不幸中の幸いでした……」
 僕はロッカー備え付けの小さな鏡で自分の顔を確認し、その点だけはホッと一安心する。
 その代わり背中や太腿は酷い有様になっていて、若しかすると、今晩は痛みの余り寝付けないのではないかと心配になった。

 僕は頭を振って先々への不安を追い払う。
 兎にも角にも、このイベントを無事に終わらせ涼宮さんに満足して貰わなければ。
 と言う訳で、着替えが終わり、様々な不安を押し退け僕が向かった先は先程の教室だった。
 僕は未だ代えの携帯を受領していない。故に現段階での状況を把握しておこうと考えたからだ。
 多分、機関人員により静寂を保ちつつ、最速で後始末がされている最中の筈だ。
 弾痕に血痕、割れたガラスに破砕された壁。
 如何な機関がこの手の作業に精通しているとは言っても、中々厳しい状況であった。涼宮さん達が何時訪れるのか判らないと言う状況にも、神経を磨り減らしているだろう。
と人事の様に考えている僕にしても、急いで防衛訓練に復帰しないと、どの様な処罰が下されるのか判らない。
 又、早期に復帰する事で涼宮さんの注意を引き付けられるかもしれないとの思いもあった。

*****

 更衣室を出て忍び足で階段を登る。
 右手に例の教室から拾い上げて来たエアガンを握り締めつつ。奇跡的に割れる事無く原形を保っていたシューティンググラスを掛けつつ。
 内服した痛み止めのお陰か、思った程苦にならず身体を動かせた。これなら、皆に悟られないで過ごせそうだ……長門さんには明々白々かもしれないが、多分、口を噤んでいてくれるに違いないと期待しておこう。

*****
 
 階段を登り切り2階の廊下に着いた。
 何とはなしにエアガンを持ち替え、右手の掌に意識を集中してみる。

「…………」
 当然と言わんばかりに、何も起こらない。
 それもその筈、あれは閉鎖空間限定の能力の筈だった。
 現実世界で遣えた等と言う話を聞いた事はない。
 この件を上層部に報告すべきか? と自問した瞬間、話さざるを得ない事に気が付いた。
 あの男の存在。
 あれだけの手練を僕1人で撃退したと報告した際、どうしてもその事を話さなければならないだろう。
 ……根掘り葉掘り質問をされる自分を想像し、

「……痛み云々以前に、これは寝ている時間はなさそうです」

と苦笑しつつ呟く僕であった。
 彼であったら「やれやれ」とでも言っているところだ。
 その件の男は全身酷い火傷を負ってはいるが、どうにか命を取り留めそうだと聞かされていた。
 今後はその身を後方処理課に委ねられ、厳しく尋問されるに違いない。
 生死を賭けて戦った2人が仲良く聞き取り調査を受けている状況に僕が微笑んだ直後、階上でカチャンと言う小さな金属音が響いた。
 実戦の後遺症で過敏になっているのかも……と疑いつつも、僕はそちらへと身体を振り向かせ……絶句した。

*****

 その僕の視界に1人の女性の上半身が仕切り壁越しに映る。
 ちょうど上部階から階段にその身を降ろしたところだった。
 小柄な身体。
 セミロング。
 北高セーラー服。
 僕と同学年である事を示す青いラインの入った上履きを履いている筈だ。
 トレードマークでもあるオレンジリボンカチューシャ……の代わりにミリタリーバンダナを鉢巻の様に巻いている。
 (一部違うところもあるが)普段通りのその格好に、必要も無いのにゴツイ給弾ベルトを袈裟懸けに掛けているのが酷くミスマッチだった。
 しかし、僕はそれを微笑ましいモノに感じた。
 バンダナといい、給弾ベルトといい、何事も先ずは形から入る彼女らしいですねと。限りなく場違いだとは、自分でも判ってはいるが……。
 気負うでもなく衒うでもなく、泰然自若と言う表現に相応しい振る舞い。
 女帝の如き貫禄。
 強い意志を感じさせる瞳は何時も通り光り輝いていた。
 その視線を僕に固定しゆっくりと階段を降り切る彼女。
 静かに踊り場を横切るその顔は窓から差し込む明るい夏の日差しに照らされて……。

 天女の如く……綺麗だった。
 妖精を髣髴とさせるように……可憐だった。
 天使かと見紛う程……華麗だった。
 僕にとって将に女神と言う表現が相応しい存在。

 そして、ワインレッドのシューティンググラスが整った顔立ちを更に一際際立たせていた。
 不意打ちだった。
 突然の事で、咄嗟に行動出来なかった。
 あれだけ再会する事を望んでいたにも係わらず、情けない事にその姿を認識した瞬間、僕は身体の自由を失っていた。
 銃を持ち上げる事も足を動かす事も、いや、呼吸する事すら出来なかい。

 人の世に降臨した気高い美の女神。

 その女神に魂の全てを魅了され、心を奪われた哀れな男が僕だった。
 御伽噺に幾つもある在り来たりな話が、此処、現代の北高で再現される。

 彼女が踊り場の縁までゆっくりと時間を掛けて歩き切った。
 そのままクルッと身体の向きを変え僕の正面に立つ。
 僕は黙然と見下ろされた。
 その視線を受け止めた僕は呆然とその美しい立ち姿を見詰めるだけ。
 動く事も声を掛ける事も出来ないまま。

「…………」
 彼女の表情の中に、一瞬だけ悲しげな色が流れたのは気のせいだろうか? 
 彼女はその華奢とも言える身体に不釣合いな機関銃を小脇に抱えている。
 頭の中でリストアップ。あれは……M60。あんな重機関銃を何処から?とボンヤリ考える僕。
 あぁ、確か……ベトナム帰還兵を題材にしたDVDを観たと言っていましたね。
 そして、重量を感じさせないスムーズな動きでその銃口がゆっくりと持ち上がる。
 それが僕へと照準していくにも係わらず、僕はその魅力的な立ち姿に見蕩れていた。

「あ……」
 銃口が小さく左右にぶれて微調整。
 完全にピタリと僕を捉える。
 銃口が微動だにしないのは、流石と言っていいのだろうか?
 一直線で胸に狙いを定められたにも係わらず、それでも、僕は動けなかった。
 何時もの天真爛漫さが影を潜め彼女は何故か無表情。
 その無表情が僕にとっては非常に辛かった。
 悲しくて心が切り裂かれそうになる。
 脳裏にアノ号泣する涼宮さんのイメージが蘇った。
 左肩が熱い。
 思わず「もっと頑張りますから、笑顔で居てください」と懇願してしまいそうになる。

「…………」
 彼女の白魚の如き指がゆっくりとトリガーに掛かり、そして、静かにそれを引き絞っていく。
 あくまで無表情のまま。
 僕は目を閉じその瞬間を待った。
 身体の力を抜いて。

 やっぱり僕には……。

 そして、次の瞬間。

*****

「バーン!!」

と彼女の口から元気一杯の破裂音が聞こえた。
 僕は目を開き彼女を視界に捉える。

 彼女……我らがSOS団団長である涼宮さん。

 気が付けば、その美しく整った顔の中に彼女らしい不敵な笑みを浮かべ、でも何処と無く不機嫌な表情のまま不満げに呟く。
「もぅ、駄目じゃない、古泉君っ。不審者を前にして、そんなに固まっちゃ!!」
「……あ、あぁ、済みません。涼宮さん」
 僕は一瞬口篭り、しかし、どうにか我を取り戻して謝罪する。
 冷静になれ、古泉一樹。
 涼宮さんはM60を小脇に抱えたまま軽快に階段を降りてきた。その飛び跳ねる歩調は何時もの涼宮さんのものだ。
 僕はそれに気が付き内心ホッとする。
「うーん、古泉君なら、しっかり任務を果たしてくれるって、期待したんだけど?」
「申し訳有りません、ご期待に添えなくて……どうやら、僕には、この手の事は不向きなようです」
 僕の謝罪を難しい顔をして聞いていた涼宮さんは、でも、ニッコリと微笑んでくれた。その突然の笑顔に、心の臓がドキリと一跳ね。
 本気でドギマギする僕。
 あれだけ観たいと望んでいたにも係わらず、本物の威力は絶大だった。

 ……貴方の笑顔は、僕にとって危険過ぎます。

「まぁ、いいわ。よく考えたら、女の子に銃を向ける古泉君って想像出来ないし……うん、やっぱり古泉君はね、フェミニストじゃないとね!!」
 何とも返答し辛い事を気取る事無く元気に言い放つ所は涼宮さんらしい。
 僕はその魅力的な笑顔から視線を逸らし話題を変える。意味も無くベレッタを弄りつつ問い掛けた。
「それで、涼宮さん? 僕が最初の犠牲者ですか?」
「ううん、古泉君が3人目。有希は部室でずっと本読んでたし、みくるちゃんは、開始早々階段で転んでベソ掻いてたし……全く、皆弛んでるわ!! こんな事で、SOS団を暴漢から守れるとでも思ってるのかしらね?」
 プンスカと怒る彼女の台詞から仲間の現状を推測する。
 残っているSOS団親衛隊はどうやら彼だけらしい。
 予想通りといえば予想通り。彼女が「訓練しましょ!!」と言い出した時からの決定事項と言ってもいいだろう。
「……成る程。だからですね、悲鳴や銃撃音が聞こえないと思いました」
「聞いてよ古泉君っ、そんなんだからさ、まだ1回も引き金引いてないのよ!? 盛大豪快にBB弾ばら撒きたいのにっ」
 涼宮さんはM60をブンブン振り回し不満げだった。その表情豊かな美しい顔と重機関銃を交互に眺めつつ、ふと感じた疑問を脳裏で反芻する。
 機関で準備したエアガンはM16カービンタイプのM4だった筈だ。一体何処からM60何てデカブツを調達したのだろう?
 何故か、フツフツと湧き上がる不安と共に、僕はその疑問をぶつけてみる事にする。

「涼宮さん? 確か涼宮さんはM16を訓練で使われる筈では?」
「あぁ……これの事かしら?」

と涼宮さんは軽々とM60をグルングルン振り回す。本物であれば10Kg以上はある重量もエアガンならその半分以下になっている筈だ。

「え、えっとね……うーんと、そのM16だっけ? そ、それがね、故障したのか、う、動かなくなっちゃったから、部室で有希に直してって頼んだら……」

 何故か痞え痞え返答する涼宮さんはそこで言葉を区切った。
 何かを思い返しているらしい涼宮さんに、僕は無意識のうちに「……頼んだら?」と聞き返していた。
 涼宮さんは力強く頷くと早口で言葉を続ける。

「……有希ったら自分のエアガン分解して、その部品をあたしのに流用して直してくれたのっ。なんだか、気が付いたら外見まで変わって、でも、凄く軽いのよ!!」

 ……ちょっと、長門さん? 貴方、何をしているのですか? 

 軽い眩暈と頭痛を感じ目を閉じた僕に涼宮さんの嬉しそうな声が届く。
「有希が自慢げに言ってたの。えっと、何だか色々と性能を宇宙最高レベルに上げたって。実はよく判ってないんだけど、あの有希の自慢げな顔を見てたら、まぁ、いいかなって」

 ……長門さん? 本気で、貴方、何を考えてるのですか?

 直接涼宮さんの口から宇宙的能力の発露を告げられた僕は、ギリギリと万力で頭を締め上げられた様な壮絶極まりない頭痛を感じてしまった。
 それに敢えて目を瞑り、僕が恐る恐る涼宮さんに向き直ると同時に、涼宮さんは笑顔で告げた。

「でもね、そのお陰でSOS団の危機は回避されたの!!」
「…………」

 仰る意味が理解出来ないのですが……とは言えず、僕はニコニコと笑みを浮かべた。
 涼宮さん自身は違和感を覚えていないらしいが、万が一を考え、このM60は人知れず回収して処分しなければと心に誓いつつ。

 長門さん、お願いですから、仕事を増やさないで頂きたいのですが……。

と僕は心の奥で、無表情な読書好き女子へ苦情を述べていた。
 しかし、口から飛び出たのは涼宮さんへの提案。
「涼宮さん、どうでしょう? 実際に射撃実験をしてみては? 残る人員は彼1人です。彼との対決前に、性能を把握しておくべきかと愚考しますが?」
 彼の名前と、恐らくそれ以上に“対決”と言う単語が彼女の心を動かしたのだと思う。涼宮さんはニンマリと悪戯っ子めいた彼女特有の笑みを浮かべて、元気一杯に拳を突き上げた。

「流石は古泉君っ、そうよね、キョンとの対決、絶対負けられないわ!!」

*****

「副団長として団長を補佐するのは当然の事ですから」
と言いつつ、僕は「災い転じて福となす」との格言通り、この件を利用し時間稼ぎをしようと考えていた。
 このまま涼宮さんに自由に動かれ、例の教室にでも行かれるよりは、涼宮さんの興味の方向性を誘導すべきだと経験から導き出す。
 本来ならば、これは彼の専権事項なのですが……。
と言う思いはあるが、しかし、機関絡みの件で彼の手を煩わせるのも気が引ける。

 彼女を連れて裏の体育用具倉庫まで移動した。
 どれだけ涼宮さんの興味を引っ張れるか、彼と違い僕には全く自信が無いのだが、しかし、あの教室に行かせる訳には……。
 腕時計を確認。
 あれから10分程経過している。
 完全復旧作業は夜を徹して行われるとは聞いているが、応急処置はどうなのだろう? どれ位で終わるのか、僕には見当が付かない。
 機関専用携帯が手元に無い事が捂しかった。
 そんな感じで心配事を抱えている僕の前方を、やっと、エアガンを撃てると浮き立つ彼女が嬉しそうに鼻歌を歌っていた。
 嬉しそうな涼宮さんを見るのは本当に心が落ち着く。
 ささやかながら幸せを感じる一時だった。
 一瞬だけ心配事が消滅する。

 やはり涼宮さんには、何時も天真爛漫であって欲しいですね……。

と言う呟きが聞こえた訳でもないだろうが、涼宮さんがクルンと僕に向き直った。そして「ねぇ、古泉君?」と問い掛けてくる涼宮さん。

「え、あ、はい、……何でしょうか?」
「何か、心配事でもあるのかしら?」
「!?」

 行き成りの直球ど真ん中だった。
 僕は咄嗟に返答出来ず口篭る。
 そんな僕をじっと見詰めたかと思うと、涼宮さんはニッコリ笑みを浮かべ、

「若し良かったら、あたしが相談に乗ってあげるわよ?」

と提案してきた。
 一瞬左肩の切り傷がズキリと痛む。

 相談したくても出来ない事がこの世には有りまして……。

とは言えず、
「あぁ、申し訳有りません。少しバイト先でミスをした事を思い出してしまいまして……」
 我ながら上手い言い訳だと感心しつつ笑顔を浮かべる。
 そんな僕を涼宮さんはじっと見詰め、何かを納得した様に頷いたかと思うと元気に宣言をする。
「古泉君が何を悩んでいるのか、あたしには判らないけど……でも、大丈夫!! 何時も頑張っている古泉君を神様が見捨てたりする訳無いんだからっ」
「……有難う御座います。その一言だけで気が楽になりました、本当に」
と本気で謝意を告げると、涼宮さんも嬉しそうに言い放つ。
「うん、宜しい!! ……でも本当に辛かったら相談してね? SOS団挙げて助けてあげるからさ」
 「はい。大変心強いです」と心の底から自然と本音が漏れた。
 それを聞き、涼宮さんは更に笑顔を深くする。

「だから……あんまり頑張り過ぎない事。少しはあたし達に甘えなきゃ駄目なんだからね!!」

*****

 焼却炉傍にあった1m×1m程度の大きさの厚いベニア板を用具倉庫壁際に立て掛けた。
 そして、3m程離れている涼宮さんに微笑み掛ける。
 油性マーカーでターゲットサークルを書いてみたのは、単なる悪戯心の為せる業だ。

「涼宮さん、どうぞ。準備が出来ました」
「ありがと古泉君っ。えっと、持ち上げて、よいしょっと!! …………。……あれ? 弾が出ないわ? 故障かしら?」

 暫く待っていたが涼宮さんも女の子。
 どうやら、この手の扱いは苦手らしく悪戦苦闘状態だった。
 正直、その困惑している姿を場違いにも愛らしいと感じてしまった僕。
 僕は自然と浮かぶ笑みを自分でも柔らかいものに感じつつ、涼宮さんの傍に歩み寄る。
 内心、恐れ多くも涼宮さんと2人っきりと言う事実にドギマギしながら。

「もう!! どーして言う事聞いてくれないのよ!?」
「あぁ、涼宮さん、宜しいですか? セフティレバーをですね、こうして……」

 僕は何気無く彼女が抱えるM60に手を伸ばし、セフティレバーを弄ろうとしたその時、僕の指がそれを抱えている涼宮さんの指に触れた。
 柔らかい感触。
 指先から電流が走ったかと錯覚する程の衝撃を感じ、僕は慌てて手を引き戻す。
 指先を火傷したとしても、これ程の速度は出せないと断言出来るスピードだった。
 若しかすると、あの男の抜き撃ち速度を凌駕していたかもしれない。
 一気に身体中の血液が顔に集まっていく感覚が新鮮。
 多分、小学校6年生以来の感覚だ。

 す、涼宮さんの手に触れてしまった……。

 心臓が頼んでも居ないのにドッドッと激しく鼓動し、自分が高揚していくのが自覚出来た。
 増加した血流のお陰であちらこちらの傷が痛む。
 そんな僕を涼宮さんは、キョトンと眺めて目をパチクリ。呆気に取られたその表情が愛くるしい。

「……どしたの、古泉君?」

 心底不思議に思っているその口調が反対に僕を落ち着かせてくれた。
 フゥゥと小さく鋭く息を吐く。
 心臓よ、鎮まれ……。
 酷く自意識過剰な反応だったと内心反省しつつ、
「あぁ、申し訳有りません。ちょっと……宜しいですか?」
と出来るだけ表面上は平静を保つ。
 機関で鍛えられた克己心を総動員。
 自分の想いを悟られない様に……極力その整った顔から視線を外し、M60を凝視して取り扱いのレクチャーを施した。

*****

「それじゃあ、いっくわよー!! そぉれっ」
 涼宮さんらしい明るい掛け声と共に引き金が引かれ、M60はヴヴーンと微かな低い唸り声じみた低重音を発した。
 それはホンの1m離れただけでも聞き取れないだろうと断言出来る程度に微細な音だった。確かに消音に関しては完璧と言ってもいい。
 僕が内心感心していると、その直後、通常のエアガンでは有り得ない量のBB弾がベニア板に雨霰と着弾した。
 ドドドと凄まじい轟音を響かせ、描かれていたターゲットサークルの中心にBB弾は集中的に着弾。
 一気にベニアを貫通した。
「……え?」
 呆気に取られて見守る僕の目の前で、涼宮さんが嬉しそうな笑い声を上げて銃口を上下左右に振る。
「あはは!! これ、楽しー♪」
 ドゴドゴと嫌な音を立ててベニア全体にBB弾が当たっていく。
 見る見るうちにベニアが穴だらけになっていく様は壮観でもあった。
 通常のBB弾程度の威力では有り得ない破壊力。
 通常のエアガンでは有り得ない発射弾数。

 あぁ、流石は長門さん謹製のエアガンです……。一家に一台は欲しい業物だと思いませんか、皆さん? 
 ……銃刀法違反? いえ、永世中立国ではありますが陸軍強国のスイスではですね、各家庭に常備されているのですよ、自動小銃が。
 日本もそれに倣えば言いだけの事です。

 的外れで夢の様な事を考え呆然としていた僕を尻目に、涼宮さんは嬉しそうに引き金を引きっ放しだった。
「うわぁぁ!! 本っ気でクセになっちゃいそーだわっ♪」
 その心底愉しげな笑顔から僕が視線を逸らすと同時に、ベニア板はモノの見事に粉々になって砕け散った。
 僕はそれを呆然と認識する事しか出来なかった。
「…………」

 ……ちょっと、長門さん、これ、ホントに笑えないですよ? 
 1回腹を割って話し合いますか? 
 僕は今、一晩掛けてでも議論したい気分です……。

「きっ、気持ちいい!! ……快っ感!!」
 そんな僕の気分を勿論知る由も無い涼宮さんは、引き金から指を離し嬉しそうにM60に頬擦りしている。
 見るからに上機嫌だ。
 何かを言わないと思いつつ、でも、僕はその笑顔に見蕩れ言葉を失う。
 彼以外には滅多に見せる事のない極上笑顔。
 その事実は心の最も深い箇所にズキリと鋭い痛みを感じさせてくれた。
「ぬっふっふ……これでキョンの奴も蜂の巣よっ、首洗って待ってなさい、キョン!!」
と拳を突き上げ宣言すると同時に、涼宮さんは「古泉君は部室で待機していて!!」と言い捨て、笑顔のまま素晴らしい速さで校舎へと消えた。
 声を掛ける暇すら与えられずに、僕は呆然と彼女の走り去った方角を眺める。
 あの決断の速さと行動力、流石は涼宮さんですね。
 諦観気味の溜息を吐き、粉々になったベニアを拾い集めていく。
 白い粉が付着しているのはどうやらBB弾の成れの果てのようであった。

 ……いや、ホントに大丈夫ですよね、彼は?

 僕は無言で焼却炉に残骸を放り込み、部室へと向かうため身体の向きを変えた。
 一抹の不安を覚えたにせよ、既に事態は僕の手を離れた事を悟っていたから。念のために報告をと携帯を引っ張り出そうとし、ソレも叶わない事に気が付く。
「…………」
   僕は嘆息し……「人事を尽くして天命を待つ。成る様に成れだ」と完全に傍観者になる事を決意した。

*****

 部室棟の階段をゆっくりと上がりつつ、先程の涼宮さんの笑顔を思い返す。
 ホントに素敵な笑顔でした。
 あの極上笑顔を毎日見られる人は幸せなんでしょうね……。

 今週一杯、このイベントのために東奔西走していた僕は、事有る毎に涼宮さんに報告を届けていた。その必要も無い筈なのに。
 エアガンの準備が出来ました。業者と折り合いを付ける事に成功しました……等々。
 その度に涼宮さんが浮かべてくれる笑顔。それを目にしたいがためだけに。
 僕はそれに密やかな慶びを感じていたのだが、ある時、

「最近、ハルヒと結構仲がいいんじゃないか、古泉?」

と彼に素っ気無く突っ込まれた。
 内心では酷く動揺する僕。
 彼の常ならぬ強い視線が僕を突き刺し心臓を抉った。
 何故か「お前の“気持ち”は判ってるぞ」と言われている気がしてしまう視線だった。情けない事に、
「そうですか? 貴方の気のせいではないでしょうか?」
と切り返すのが精一杯だった事を覚えている。
 そして次の日、僕は涼宮さんに提案した。
 訓練の方法は彼と相談して決められたらどうですか?と。
「えっ? キョ、キョンと?」
「えぇ。実は彼も乗り気になってると聞き及んでいますので、団長自ら声を掛けられればより一層……」
「ま、まぁ、古泉君が、そこまで言うなら、キョ、キョンと相談してあげてもいいわよ?」
 照れてソッポを向く涼宮さんの初々しい事……。
 その美しい横顔に朱が差すのを確認した瞬間、ドキリと心が揺れた。
 思わず見蕩れそうになり目をキツク瞑る。
 深呼吸。
 
 ダメだ……古泉一樹。
 その感情はダメだと判ってる筈だ。
 取り返しが付かなくなる前に押さえ込め。
 ……僕は副団長。
 団長を補佐するのがその主要な役目だ。


 心が時めくのを無理矢理押さえ、僕は何時もの立ち位置に戻る事を優先する。
 涼宮さんと僕……ではなく団長と副団長へと。
 何時もの笑顔を浮かべられたか自信は無い。
 しかし、僕はどうにか笑顔を浮かべ涼宮さんに語り掛けていた。

「団員のモチベーション維持にまで心を砕かれるとは、流石は涼宮さんです。……準備の方は副団長である僕にお任せ下さい」

*****

 頭を振ってそんな過去の記憶を消し去り部室の扉をノックすると、柔らかい声で「どうぞ」と返事が聞こえた。
 「失礼します」と頭を下げて部室へと入室。
 部室の中には涼宮さんの証言通り長門さんと朝比奈さんが待機している。
 長門さんは通常通り窓際で読書。
 メイド服の朝比奈さんはお茶とお菓子の準備に余念が無い。
 ……フッと気を抜いてしまう何時も通りの風景。
 居心地の良い空間。
 実は涼宮さんと彼の掛け合い漫才が存在しない部室と言うのも、とても静かでまた格別なのだ。

「古泉君、お帰りなさい。……古泉君もやっつけられちゃったんですかぁ?」
 朝比奈さんが僕の顔を見るや否や、ニッコリ微笑んで手早く急須にお湯を注いでお茶の準備。
 そして、僕専用の湯飲みに緑茶を入れてくれる。
 見蕩れてしまう程、優雅で無駄の無い動作だった。
 僕に湯飲みを差し出しつつ、柔らかい笑みを浮かべる朝比奈さん。
 僕はお礼を述べそれを受け取った。

「えぇ、流石は涼宮さん。あっさりと見付かって撃たれてしまいました」
「やっぱり古泉君……」

とそこで朝比奈さんは口篭り自分の湯飲みに口を付ける。
 視線は僕に合わせたままだ。
 上目遣いの朝比奈さんは魅力度30%増しですと、彼なら言うだろうなと関係ない事を考えたせいか、僕は朝比奈さんがお茶と一緒に飲み込んだ思いを汲み取ることが出来なかった。

「……済みません、朝比奈さん。何が、やっぱりなのでしょう?」
「あ!! あの、御免なさい!! 悪い意味じゃないの……えっと、古泉君はきっと涼宮さんに銃口を向けられないだろうなぁって」
「…………」

 僕は無言でお茶が入っている湯飲みへと視線を落とした。
 その通りですと言えばいいのか、いえ、そう言う訳では有りませんと言えば良いのか……答えようが無い事だったから。
 短い沈黙が流れた後、朝比奈さんはそんな僕の気持ちを察してくれたらしい。
 そっと話題を変えてくれた。
「えっと……皆やっつけられちゃったから、後はキョン君だけですねぇ」
 僕もその細やかな気遣いに感謝しつつ、話題に乗っかる事にする。
「涼宮さん、彼との直接対決だって喜び勇んでましたよ」
 僕がザッと状況を説明すると、静かに聴いていた朝比奈さんがニコリと微笑んでポツリと呟く。
「何だか、その時の嬉しそうな涼宮さんが目に浮かびます」
「……朝比奈さんが思い描いている通りの笑顔だったと断言してもいいですよ?」
 そして2人してクスクスと笑いあう。
 涼宮さんらしいと言う思いを共有しつつ。
 その屈託の無い笑顔が僕にある事を思い出させた。

 ペーパーナイフ。

 一旦は未来人組織の策謀かとも疑いはしたが、今更、蒸し返しても何かが変わる訳ではない。
 それに、朝比奈さんは何も知らされていない筈だ、何時もの様に……。
 ならば僕の胸のうちに仕舞っておこうと思った。
 あれのお陰で命拾いしたのは紛れも無い事実だから……。
 だからと言って、「有難う御座います」とお礼を言うのも些か筋違いかな? と内心小首を傾げていると、涼宮さんが「みくるちゃんは怪我をしていた」と言っていた事を思い出す。

「あぁ、朝比奈さん? そう言えばですね、怪我の具合は?」
「あ、涼宮さんから聞きました? 恥ずかしいなぁ……でも、ホンの掠り傷。涼宮さんに手当てもして貰ったし」
「そうですか、それなら安心ですね」

 僕は余り詳しく聞く事はせず「本当に気を付けて下さいね」と声を掛けて、そのまま朝比奈さんの反対側に移動しパイプ椅子に座った。
 頂きますと断りを入れてからお茶を一気に飲み干す。
 ふぅ……乾いた身体に染み込む日本茶。将に甘露。
 湯飲みを机に置くか置かないかのタイミングで、朝比奈さんがソッと2杯目を注いでくれるのに感謝しつつ、僕は長門さんに声を掛ける。
 読書中悪いとは思うけど……M60の件を聞いておかないと。
「あぁ、長門さん? 読書中に申し訳ないのですが……少々宜しいでしょうか?」
 長門さんは僕の呼び掛けに本から顔を上げて視線を僕へと固定した。
 何時も通りの無表情。
 でも、以前と異なりキチンと反応してくれるのが嬉しい。
「何?」
「実は、涼宮さんの所持していたエアガンの事で……」
 ジッと僕を見詰める長門さんに、僕は先程の射撃実験の様子を事細かに説明した。
 説明が進むにつれて、何故か長門さんじゃなく朝比奈さんが顔を青くしていく。

「そ、それ、危ないんじゃ? キョ、キョン君……大丈夫かなぁ?」
「えぇ。僕もそう感じたので、長門さんの真意を伺いたくて」
「……私は涼宮ハルヒの要望に答えただけ」

とは長門さんの返答だった。
 その後、考え考えポツリポツリと語る長門さんの説明を纏めると、どうやら涼宮さんが「重い・扱い辛い・デザインが今一・どうせ使うなら超高性能なのがいい」と言い出した事が発端らしい。
 長門さんが作業する横で、こうだったらいいなぁ・ああだったらいいなぁと要望が追加され……出来上がったのが例の超M60になるらしい。

 僕と朝比奈さんが危惧する危険性を、何故か長門さんは問題視してないようだった。
「長門さんはどうして……心配してないんですか? キョン君、そんな凄いので撃たれたら大怪我しちゃいますよ?」
 朝比奈さんの当然の疑問に僕も頷き長門さんを注視した。
 その視線に答えるかのように一言ポツリ。
「私の能力が涼宮ハルヒの願望を凌駕する事はない」
 長門さんの淡々とした台詞が僕の精神に染み込んで行く。
 ……涼宮さんの願望を凌駕出来ない? それはどう言う事だろう?
 暫し考え込み……突然、僕は理由も無く回答に辿り着いた。
 彼が怪我する事を涼宮さんが望むだろうか? そんな筈は無い、それは有り得ない……つまり危険ではない。
 そう言う事か。
「成る程。涼宮さんが望む筈が無い、彼が危険な目に合う事を……と言う訳ですね?」
「そう」
 その長門さんの返答を打ち消すタイミングで、中庭から男女の掛け合い漫才が聞こえてきた。
 確かめるまでも無い、彼と涼宮さんだ。
「待ちなさいっ、キョン!!」
「待てと言われて待つ馬鹿が何処に居る!!」
 部室の中が一瞬でフワッとした温かい雰囲気に包まれた。
 僕も朝比奈さんも笑顔を浮かべて立ち上がり、窓際から中庭を見下ろす。
 長門さんは座ったままで首を捻り、でも、視線を向ける方向は僕達と同じ。
 
 確認すると、逃げる彼を涼宮さんが追い掛ける格好だ。
 「待ちなさい!!」と叫んで、涼宮さんが立ち止まった。
 M60の銃口を彼の背中に向ける。
 一瞬先程の砕け散るベニア板の姿が脳裏に浮かぶが、実際に銃口からポスンポスンと飛び出たのは……ヘロヘロと山なりに飛んで行く少数のBB弾だった。
 しかも有らぬ方向に飛んでいってしまっている。
 あの時の量速度精度と比較すると、そのどれをとっても月と鼈。それどころか元々の性能以下ではなかろうか?

「あーんっ、何でさっきからきちんと飛んでいかないのよ!? キョンを蜂の巣に出来ないじゃない!!」 

 中庭に響く絶叫に僕は思わず苦笑を浮かべてしまった。
 長門さんもコクリと頷くのが視界の隅に映る。
 彼が中庭の中央に聳え立つ大木の陰に隠れ挑戦的に言い放つ。
 追い掛け回されたためだろう、呼吸が荒い。

「ゼェゼェ……蜂の巣? ゼェゼェ……こんな遊び如きで、そんな目に、フゥゥ……合わされて、たまるかっての!!」
「なっ!? 遊びって何よ!? この重要な第1回SOS団危機管理超演習を言うに事欠いて遊びですってぇ!? ……ちょっとそこに正座しなさい、キョン!! 団長自ら説教してあげるんだからっ」
「冗談じゃない」
「だから、逃げるなっこのバカキョン!!」

 涼宮さんに追い掛けられながら彼がフト視線を上げた。
 視線が合う。
 僕は無意識の内に激励の意味を込め右手を上げて挨拶をする。
 だが、どうやらそれが彼のお気に召さなかったらしい。
「こ、古泉っ!! お前、見てないで、た、助けろっての!! 仲間だろうがっ」
 苦しげな絶叫が中庭に響き、そして、それを上回る音量で団長命令。
「助けちゃダメよ、古泉君!! 1度、キョンにはしっかりと身体に教えておかないといけないんだからっ。甘やかしちゃダメなんだからね!!」
 涼宮さんの予想通りの反応に僕もテンプレで返す。
 まぁ、お約束ですから……。
 肩を竦めつつ一言ボソリ。

「申し訳ありません。お助けしたいのは山々なんですが……団長命令ですので」
「古泉ぃぃ!! 後で覚えてろぉぉぉ!!」

 漫才を織り交ぜながら、大木の周りをグルグル回り何時終わるとも知れぬ鬼ごっこをしていた2人が、何事かを言い合いながらその舞台を校舎の中へと移動させていった。

*****

 2人が校舎へと姿を消すと、周囲は一気に静かになった。

 本当に仲が良くて微笑ましいですね。  
 本当に……、
    ……羨ましいです、彼が。

 知らず知らずの内に笑みを浮かべていたらしい。
 朝比奈さんが何故か悲しげに問い掛けてきた。

「ホントに、あの2人を見詰める古泉君の視線って優しいですよね?」
「……え?」
「それでいて、何処か悲しげ……」

 悲しげ? そんな馬鹿な。
 僕は涼宮さんが、いえ、あの2人が幸せであれば……何も望まない。
 心に浮かんだ想いをそのまま口にする。

「悲しげ……ですか? 失礼ですが、朝比奈さんの勘違いでは?」
「…………」
「僕は涼宮さんがアノ笑顔で過ごしてくれるなら、他には何も望みませんから」

 朝比奈さんの問い掛ける様な視線から逃れるために、僕は彼らが走りこんだ校舎へと視線を移動させた。
「本当に、それでっ……」
 我慢出来ないとばかりに朝比奈さんが何か言い掛けるが、僕は機先を制するタイミングでポツリと呟く。
「彼と笑い合っている涼宮さん、本当に楽しげですよね?」
「…………」
「そうです。朝比奈さんの仰る通り、僕は好きなんですよ……」
「え!?」
「……彼と一緒にいる時に、涼宮さんが浮かべる幸せそうな微笑を見るのが」

 ここで初めて僕は朝比奈さんを見た。
 僕は微笑み、様々な思いや感情を込めて反対に問い掛ける。

「……朝比奈さんもそうでは有りませんか?」

 僕の視線から逃れる様に今度は朝比奈さんが中庭に顔を向けた。
 どうやら僕の伝えたい意図を正確に読み取ってくれたらしく、悲しげな表情を益々悲しげにして朝比奈さんは返答。
「わたしは何時か還らないといけないから。で、でも……」

 その“でも”の後の呟きは本当にか細く、僕の耳には届かなかった。
 多分、聞かせてはいけないと判断してくれたらしく、只、その悲しげな雰囲気のみが伝わる。
 その肌理細やかな心遣い、流石は朝比奈さんだ。
 僕は朝比奈さんが何を云わんとしてるのか直感的に悟りつつ、しかし、それを否定して見せた。
 否定せざるを得ない事だったから。
 忘れていた左肩の痛みが増した気がした。

「朝比奈さん? 僕はですね、本当に……涼宮さんが彼に向ける笑顔、それこそが最高に好きなんですよ」
「古泉君……」
「何時でも浮かべていて欲しいと心の底から願っていますよ。そのためでしたら、僕は鬼にも悪魔にもなる覚悟があります。勿論……」

 小首を傾げその先を無言で促す朝比奈さんに、「自分の想いを殺す事だって」と僕は胸の内で呟きつつ笑顔を向けたその瞬間、
「涼宮ハルヒが彼を捕獲した」
と長門さんが視線は本に落としたままで淡々と呟く。
 僕と朝比奈さんが思わず長門さんへと視線を移動させると同時に、更なる情報提供。
「両者とも大きな怪我はしていない」
「……と言う事は、擦り傷位は創ってるかもしれませんね」
と朝比奈さんが今までの雰囲気を変えるようにちょっと苦笑気味に呟き、救急箱の準備に取り掛かる。
 僕もその流れに乗って両手を広げ大袈裟に嘆いて見せた。

「残念ながら……この貴重極まりない静謐空間を堪能出来るのも、あと僅かと言う事です」

 僕の偽悪的な台詞に、朝比奈さんと長門さんの双方ともが頷いてくれた。
「でも、キョン君と涼宮さんが居ないSOS団って、ちょっと静か過ぎますよね……」
 長机に救急箱の中身を広げつつ朝比奈さんがポツリ。
 長門さんもコクリ。
 そして僕は苦笑。
 何時の間にやら、そんな思いまでも共有してしまっている僕達。
 この関係が末永く続くと良いなと本当に思ってしまう。
 10年後、20年後にお酒でも酌み交わし、あの時は良かったねと語り合えれば最高だとも思う。

 あぁ、でも、それじゃあ、きっと涼宮さんに叱られるな……。


「それはダメよ、古泉君!! あの時が最高なんじゃないの。これからが最高なんだからねっ……違うわね、最高にするのよ!!」


 僕達の耳に楽しげな男女の掛け合い漫才が遠くから届く。
 最高に素敵な関係。
 互いが何人にも換え難い存在であると知覚している男女。
 互いを無意識に必要としている補完関係。

 僕が……それを頭ではなく心で納得出来る日は何時になるのだろう? 
 いや、そもそもそんな日が来る事が有り得るのだろうか?
 重苦しい考えを振り払い僕は心の中で囁く。
 左肩の傷を無意識に撫でながら。

「涼宮さん、何時までも天真爛漫な笑顔を……僕にとってそれが最高の宝物ですから。例え、例えそれが彼のためのものであっても」


【Das Ende……】
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  1. 2000/01/01(土) 00:00:00|
  2.  SOS団は狙われてるんだからね!!
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<SOS団は狙われてるんだからね!!①(ハルハル視点) | ホーム | SOS団は狙われてるんだからね!!A(古泉君視点)>>

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