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女神様の絵本箱

「涼宮ハルヒの憂鬱」の二次創作小説ブログです♪ 基本甘々ハルキョンキョンハルメインです(^▽^)/ 先ずはSSリストよりどうぞなのです

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SOS団は狙われてるんだからね!!F(有希ちゃん視点)

SOS団は狙われてるんだからね!!


・粗筋:有希ちゃん……お疲れ様。いや、ホントに。


*****


「続きを読む」からは ……

 ほんのり過激な文芸部部長編 F:【……私は涼宮ハルヒの要望に答えただけ】

……になりまーす(^▽^)/



*****

 想定外の事象。
 生死の狭間を漂っていた筈のペンギンが、行き成り予備動作もなく跳ね起きたのだ。
「ギョギョギョッ、ひ、秘儀死んだフリだどぉ~!!」
と大声で吼え、口を大きく開き鮮血と共に液体状の何かをゲバァと大量に吐き出す。
 私目掛けて。
「!?」
 不意を突かれた私は、咄嗟に左腕で顔を守る事しか出来なかった。
 対応出来た自律性球体型防御障壁も一つに過ぎなかった。
 乳白色のそれに包み込まれる球体。
 私の左腕にもそれは飛び散った。
 次の瞬間、その球体障壁との連結が寸断され、直後、機能を停止したそれが廊下へと落下する。
 しかし、私はそれに驚愕する事が出来なかった。
 何故なら、乳白色のドロリとした液体を大量に受け止めた左腕が、瞬時に痺れ感覚を消失したからである。
 ゾワリと背筋を不快な何かが駆け抜けた。
 去年の雪山で負荷に打ち負けた際に感じた脱力感。
 あれの再来だった。
「う……」
 私の口から呻き声が漏れた。
 辛うじて、右掌表層を漂う崩壊因子を再度体内に引き戻す。
 次いで粘液塗れのカーディガンを脱ぎ捨てた。

 パリン……。

 ガラスが砕け散る澄んだ音が廊下に響いた。
 脱力感に抵抗しそちらへと意識を向ける……先程廊下に墜落した自律性球体型防御障壁を、乳白色の液体毎ペンギンが啄ばんでいた。
 球体障壁が繊細なガラス細工の如く砕け散る。

 ……乙級の防御力を持つ障壁を、いとも簡単に破壊!?

 一瞬、現状を認識出来ずに意識に空白が生じた。
 戦いの最中に迂闊。
 ペンギンはそれを餌の如く嚥下すると同時に「クェェェ」と絶叫。
 鋭く身体を回転させ私へと向き直りつつ、その巨大な羽根を勢い良く叩き付けてきた。
 視界の左上方から空気を切り裂き迫る羽根。
 跪いた体勢に痺れる左腕。
 身体を侵食する脱力感。
 何より障壁を破壊された事実と、それに伴う驚愕が私の反射行動を阻害。
 
 ……回避不可能。
 打撃を和らげるため右に身体を捻る。
 直撃。
 凄まじい衝撃。
 私は左肩に羽根を叩き付けられ吹き飛ばされた。
 激痛。
 階段を半ばまで転がり昇る。
 不覚にも受身すら取れなかった。

「ギョギョギョ!! やっと娘っ子を殴れたどぉ~。」
 勝ち誇るペンギンを余所に、私は口腔内に広がる血液を飲み込んだ。
 立ち上がらなくては……反射的に身体に命令を下す。
 両腕を付き上半身を起こそうと試みる。
 しかし、直後に感じた左肩の凄まじい激痛に堪えきれず、私は階段に突っ伏した。
「!?」
 左腕が上がらない……走査。
 左肩が脱臼。
 左鎖骨が複雑骨折。
 修復……不可能。
 他の因子の使用阻害要因となる。
 戦闘継続中にそれは無謀。
 脳天を突き抜け呼吸を妨げるこの激痛に耐え、私は痛覚神経を遮断。
 余り得策とは言えない対処法ではあるが、判断力の低下・行動阻害率を鑑みる限り、止むを得ない処置と言えるだろう。
 全身を流れ落ちる冷たい汗。
 激痛のため強制再起動が掛かるところだったらしく、電測照準器が機能停止。
 再度設定している余裕はない。
 右手で身体を支え辛うじて立ち上がり、中腰のまま階下へと身体を向けた。
 目の前に獣人の巨体。
 ペンギンは右羽根をそのまま私へと突き付けた。
 鋭い羽根の切っ先が勢い良く私に迫る。
 反応が一瞬遅れた。
 その切っ先が左上腕部に突き刺さり鮮血が飛び散る。
 獣人が「刺さったどぉ~」と嬉しげな声を上げつつ身体を右回転で捻った。
 私は腕を刺されたまま振り回される。
 痛覚神経を遮断していて正解だったようだ。
「くっ……」
 私の腕が羽根から抜け身体が投げ出された。
 左腕が一層打撃を受ける。
 上腕部分の大半を切り裂かれた。
 更に出血が増加する。
 非常に思わしくない状況だった。
 そのまま階下へと飛ばされた。
 廊下の壁が目前に迫る。
 辛うじて身体を捻り頭からの激突は回避。
 両脚で着地し壁を蹴り飛ばす。
 廊下の隅へと着地するが、均衡が保てず無様にも片膝を付いてしまった。
 出血が激し過ぎる。
 左半身は血塗れになっていた。
 このままでは体内に蓄積されている貴重な改変因子も流出しかねない。
 遮音力場を維持する必要性を鑑み、止むを得ず残り僅かな改変因子を必要最低限使用し応急止血。今回も修復作業は行わない。
 ペンギンが意気揚々と階段を降りてくる。あれだけの深傷が既に塞がり掛けていた。自律性球体型防御障壁を嚥下吸収する事で、改変因子を取り込んだからであろうか? 縦しんば、それが正しいとすると非常に芳しくない状況だった。
「オイラ何だか燃えてきたんだどぉ~!! こんなに体調がいい事は初めてだどぉ~。……さっぎのガラス玉食べたがらだどぉ~?」
 小首を傾げるペンギンの台詞を聞く限り私の推論は正しいらしい。
 自律性球体型防御障壁を回収するべき。
 私は立ち上がりつつ、対光学兵器用反射防御膜の収納及び帰還命令を発令。
 球体障壁が空中を飛翔し私へと迫る中、ペンギンが餌を見付けたハイエナの如く嬉しそうな濁声を上げた。
「オイラ、また、それを食べるんだどぉ~!!」
 羽根をバタつかせ嘴の中でモゴモゴと何かを転がした。
 先程の乳白色の液体を準備しているらしい。
 使用させるべきではない。
 私はペンギンを牽制する為、低い体勢でその足元に走り込んだ。
 しかし、想定以上に動きが鈍い。
 左腕の負傷が予想以上に影響しているらしい。
 この状態での接近戦は危険を孕んではいるが、回避に専念しつつ回収する事を優先。
 回収後即座に離脱する事で危険度を低下させる事は可能であると思われた。
 直後、ペンギンは先程の乳白色の粘液を嘴からドバッと放出した。
 それは投網の様に空中に拡散する。
 但し、狙いは自律性球体型防御障壁ではなく私だった。

*****

「ギョギョ~、娘っ子の行動は全てお見通しだどぉ~。特製ペンギンミルクを喰らうがいいどぉ~!!」
「!?」
 
 裏を掻かれた!?

 あれを大量に浴びる事は私の行動力の大幅低下に直結すると推定される。
 非常に危険。
 停止を試みる。
 間に合わない。
 自律性球体型防御障壁の一つが内部指令に従い緊急行動。
 それが私の右脇腹に衝突。
 衝撃で私は壁際まで飛ばされた。
 咄嗟に前転受身を取る。
 片膝立ちのまま振り返ると、その球体障壁は私の身代わりとなって乳白色の粘液を大量に浴び廊下に落下、一瞬で機能を停止した。
 それを横目に唯一の生き残りが私の右掌に帰還。
 開放。
 体内に収納。
 ペンギンは床に落ちた自律性球体型防御障壁に目もくれず、私へと猛然と走り寄ってきた。
 設定値よりも素早い動き。
 最悪私の速度を上回っている可能性も否定出来なかった。
 しかし、事此処に至っては、私には撤退と言う選択肢は残されていない。
 私は立ち上がった。

 要迎撃……。

*****

 チッ……。

 頬をペンギンの羽根が掠った。
 捌き切れず身体に触れられる事が多くなってきている。
 壁際に追い込まれていた。
 獣人の羽根が上下左右自由自在に動き、私を突き刺し切り刻み叩き潰そうと迫る中、私は辛うじて右手でそれを捌き受け流し続けた。左手が使用出来ない事が非常に悟しい。
 ペンギンが羽根を振り回しつつ大声で怒鳴る。
「ギョエェ~。さっきから攻撃が当たらないどぉ~!! イライラするどぉ~」
「…………」
 しかし、ペンギンの攻撃を受動的に捌くしか手段が無い私にも余裕は皆無。
 先程から改変因子の変換作業を進めているが、何故か遅々として進まない。
 このままでは右手を覆っている防御力場が崩壊する。
 右手の機能不全は敗北と同義。
 苛立ったようにペンギンが「ギョェェ」と叫んで、両羽根を同時に振るった。
 外から中へ挟み込むように。
 まるで巨大な鋏。 
 今までに無い攻撃方法。
 隙が大きい。
 これを回避し反撃を……。
 咄嗟にしゃがむ。
 頭上で轟音を立てて羽根が通り過ぎた。
 羽根が交差する。
 私はそれを寸前で回避。
 変換出来ずに保持していた崩壊因子を直接叩き込むべく伸び上がった。
 右手の防護因子を回収しつつ鷲手に構え腰溜め。
 代わりに崩壊因子を掌に集中させる。
 この状態での崩壊因子が有効であるかどうか演算を試みる。
 結果は五分五分。
 余り率の良い賭けではないが、それでも私は自らが出来る事に全力を尽くそうと考えていた。
 ペンギンの身体が惰性であろう、前方に倒れ込もうとしている。
 空中に浮かぶ巨体。
 好機!! 空中ならば回避不能。
 右手をその腹部目掛けて突き出した。
 その命中直前……。
 ペンギンの巨体が空中で軽やかに捻られた。
 伸身前方宙返り二回捻り!? 
 右手が空を切る。
 崩壊因子が空中に飛散。
 直後、私の頭上からペンギンの巨体が落下してきた。踏み付ける心算らしい。
 私も前転での回避を試みる。

 ドッシーンッ!!

 先程まで私が居た位置にペンギンが着地する。
 タイルが砕け散り校舎が揺れた。
 直後、ペンギンが俊敏な動きで背後へ向けて左羽根を振り回す。
 前転未完了。
 回避不可能。
 防護力場展開。
 間に合わない。
 右足首に衝撃。
 前転による縦方向の回転に、横からの衝撃が加わり軌道が捻じ曲がる。
 吹き飛ばされた。
 受身を取れない。
 廊下端の壁に背面から激突。
 肺の空気が全て搾り出された。
「ッ!!」
 スルスルと床に滑り落ちた。
 廊下に尻餅を付く。
 現時点での強制再起動は歓迎しない。
 意識を保つ様努力すべき。
 違和感。
 右足を視認。
 足首が有り得ない方向へと曲がっていた。
 痛覚は感じないが、冷汗や痙攣から判断するに生体端末に相当悪影響が出ているらしい。
 頭部も負傷したのか、右前頭部から相当量の出血を確認。
 右目の視界を塞が無い様に手で拭う。
 ペンギンの濁声が廊下に響く。
 遮音力場がなければ半径五百mには響き渡るであろう大声であった。

「さぁ、娘ッ子、これが最後だどぉ~? オイラに勝てない事が判ったどぉ~? アマゾ●を呼び出せば許してやるんだどぉ~!?」

 元気一杯に羽ばたきピョンピョン跳ね回るペンギンに対し、私は壁に右手を突きどうにか立ち上がる。
 怪我を修正している余裕が無い。

「……勝てないと確定した訳ではない。……私は依然として立ち上がっている。……貴方の勝ち名乗りは早急であると断言する」
 ふら付く身体を支える私の脳裏に、涼宮ハルヒの宣言が木霊した。

「その悪の脅威に打ち勝ってこそ、正義の味方だって胸を張れるんだからっ」

 そう、団長は打ち勝てと言った。
 団長命令は絶対……故に私は負けられない。例えこの身が朽ち果てようとも。
 私を睨み付け地団駄踏みつつペンギンが叫んだ。

「諦めの悪い娘ッ子だどぉ~!! だっだら、オイラの必殺技でケリを付けてやるんだどぉ~。いっくどぉ~必殺ゴールデンローリングサンダーペンギンスペシャルアタックだどぉ~!!」
「…………」

 何という美的感覚の欠片も感じられない名前。
 この様な低俗な技名を付ける輩に負けたくは無い。
 私は新たな闘志が燃え上がるのを自覚した。

*****

 ゴールデンローリングサンダーペンギンスペシャルアタック——長い上に低俗過ぎる。不愉快。故にこれからは簡便に“技”と呼称する事にする——この技は端的に言えば、前転を数回反復する事で加速した後の体当たりだった。
 しかし、この単純な技への的確な対処法が今の私には存在しない。
 前転中は腹部等の弱点が隠され、更にその回転により生半可な攻撃は弾かれる。
 この時点で回避してもペンギンは床を踏み切り方向転換。
 その際、獣人の脚力が加わり速度及び打撃力が上昇する。
 そして、十分に回転を実施した後の体当たりはより速度が速く、回避した後に反撃を加える余裕がない。
 しかも厄介な事に回避に成功したとしても、それで攻撃終了とならないのだ。
 ペンギンは十分な速度が付いたまま前傾姿勢で空中を飛翔。
 壁に激突する直前で身体を前転捻り。
 そこに着地し蹴り飛ばす事で更なる加速。
 その速度を利用した頭突きと羽根による切り裂きが、回避直後で体勢を崩した私への追撃になるのだ。
 これが最も厄介な事な攻撃だった。
 現に私はその追撃を二度受けている。

 被害は甚大だった。

 羽根により背中を斜めに大きく切り裂かれ、私の下半身は鮮血に染まっている。
 幸いな事に骨や内臓への被害は軽微。
 しかし、辛うじて改変因子を消費し止血している状態だった。
 そして先程、頭部を掠めた頭突きの影響で右目の機能を失い、更に思念体との接続が絶たれていた。
 思念体との接続が絶たれる事など、可能性としては限りなく零に近い事象であった。
 
 私が完全に機能停止しない限りは……。

「ゴフッ……」
 私の口から赤暗色で粘度の高い血液が吐き出された。
 ……色から判断するに内部の止血が十全に機能していないらしい。
 右目や左耳等機能の六割近くが停止し、遮音力場を保持出来ている事が奇跡であった。
 貯蔵されている改変因子も極僅か。
 しかも、その改変因子も変換機能が停止しているため、攻性因子や防護因子に変換出来ない。
 宝の持ち腐れであった。
 それでも、私は無事な右手を使用し身体を支えつつ立ち上がった。
 機能を保持している左目を用いて獣人を捉える。
 ボンヤリとした視界の中で、ペンギンがズビシと私を羽根差し宣言した。

「ギョギョギョ~!! 娘っ子もよく頑張ったどぉ~。辛そうだから今直ぐ楽にしてやるどぉ~。アマゾ●も倒すから、娘っ子も寂しくはないどぉ~……ではいくどぉ~全力だどぉ~。ハイパーゴールデンローリングサンダーペンギンスペシャルビューティフルアタックだどぉ~!!」

「…………」
 打つ手が残されていなかった。
 全身に及ぶ打撃の影響で身体能力に雲泥の差が付いている。
 私が右手のみ無傷と言う機能停止寸前状態なのに対し、獣人の傷は修復され十二分に余力を残していた。
 私は幾度も強制再起動を要求され、その全てを拒絶している状態なのだ。
 血塗れのまま右足を引き摺り、壁に右手を突いて微かに移動する。
 獣人の正面を避けるために。
 その右手に微かな違和感。
 ふと気が付く。
 私が右手で触っているのは廊下終点の壁。
 どこでもド●の出口だった。
 右手の感触はその改変因子の残滓。
 周囲を見渡す。
 壁のあちらこちらに、あの技による傷跡が残されていた。
 追撃のために壁を蹴り飛ばした時の足跡。
 殆どが同じ高さ。

 脳裏に対抗策が浮かんだ。

 しかし、とても作戦と言える代物ではない。
 寧ろ博打に近い。
 しかも思念体の許可無しの行動。
 だが、今の私には、其れしか対抗手段が無いのも事実だった。

*****

 覚悟を決める。

 簡易的に演算。
 思い描いている作業を終了させるのに必要な時間と、あの技が出されるまでの所要時間を比較。
 残念ながら圧倒的に後者の方が短い。
 しかし、私はその事実を把握しつつも、体内に残された改変因子の全てを右掌に集中。
 その掌を周囲に残されているペンギンの足跡と同じ高さの壁へと触れさせた。
 ペンギンを左目で捕らえつつ、高速言語をもって暗証符号を唱える。

 将に背水の陣。

 しかし、SOS団団員は決して諦めてはいけないのだ……。

*****

 ペンギンがピョンピョンとジャンプしつつ羽根をバタバタ。
 あの体勢は技を出す前兆……。
 そして、ペンギンの濁声が響き渡った。

「何をブツブツ言ってるだどぉ~? まぁいいんだどぉ~これで娘ッ子も最後だどぉ~。いっくど~ハイパーゴールデンローリングサンダーペンギンスペシャルビューティフルアタックなんだどぉ!!」

 ……聞くに堪えない名称は脇に置いておくとしても、芳しくない状況であった。
 どう楽観的に演算しても時間が足らない。
 それでも私の口は高速言語を唱え続ける。
 最悪の場合、獣人と同時に自らをも跳ばしてしまう覚悟だった。
 事後は喜緑江美里に託そう……と決意して。
 そして、ペンギンが技を繰り出そうとした瞬間の事だった。

 キーンコーンカーンーコーン……。

 聞き慣れた鐘の音が大音量で響き渡った。
 遮音力場が張り巡らされたこの空間内に聞こえる筈の無い鐘の音。
 ペンギンが蹈鞴を踏み明らかに戸惑う。
「ギョ!? う、五月蝿いどぉ~!! な、何の音だどぉ~?」
 私には判る。
 これは正午を告げる鐘の音だ。
 そして訓練開始の合図。
 但し、力場の中まで侵入された原因までは判らない。
 そして、鐘の音が鳴り終わり、その余韻が消滅し周囲に静寂が戻った瞬間、鐘の音を上回る大音量。

「でも、万が一あんたが出てきたって絶対負けないわよ? だって、あたしは常勝不敗の無敵団長なんだからね!!」

 涼宮ハルヒの元気な声だった。
 満面の笑みでズビシと指を突き付けている姿が目に浮かぶようだ。

 あぁ……団長からの激励であろうか? 
 心が落ち着く。
 そして、枯渇していた筈の改変因子が、体内で急激に増加していく不思議な感覚。

 翻ってペンギンはどうか? 
 無理も無い事ではあるが、突如響き渡った涼宮ハルヒの勝利宣言に、激しく動揺していた。
「だ、誰だどぉ~? む、無敵? ……ギョギョ? まさか、アマゾ●は女だったんだどぉ~!? ギョェェ、初めて知ったどぉ~。益々会いたくなったんだどぉ~!!」

「…………」
 訂正する。
 動揺している訳ではなく、大興奮しているらしい。
 やはり獣人の思考形態は理解し辛い事この上ない。
 私は周囲の状況を殊更無視し暗証符号を唱え続けた。
 涼宮ハルヒの勝利宣言のお陰で、どうにか間に合いそうであった。
 後は改変時期さえ合わせる事が出来れば……。
 その直後、ペンギンが「いっくどぉ~。早くアマゾ●に会うんだどぉ!!」と気合を入れて技を発動させた。

*****

 ペンギンが高速前転中に大声で叫ぶ。
 興奮状態は続いているらしい。

「早くアマゾ●に会いたいんだどぉ~!! 娘っ子、ハイパーゴールデンローリングサンダーペンギンスペシャルビューティフルアタックからは逃れられないんだどぉ!!」

「そう」
 私は高速で転がってくる獣人を視界に収めつつ、最後の暗証符号を唱え終わる。
 しかし、私は右手を壁に添えたまま動かない。
 改変作業もまだ開始しない。
 直前まで耐えなければ……。
 失敗出来ない。
 獣人に悟られてはならない。
 これが私に残された最後の手段と言っても過言ではないのだから。

「ギョギョギョ!? 怖くて逃げられないんだどぉ~?」

「…………」
 回転しつつ迫るペンギンの巨体には相当の迫力がある。
 しかし、私は冷静にその時を待った。
 壁を蹴らせなければ意味を成さない。
 右手に力が篭る。
 獣人の行動をしっかりと捉え分析。
 いつ飛び込んでくる?と私が思考した直後、ペンギンが最後の一回転。
 私の目の前で前転を解除し頭から突撃。

「喰らうがいいどぉ~!!」
 ……これを寸前で回避しなければ。   

 時間が凝縮された。
 全ての動きが遅延される。
 ペンギンの巨体が素晴らしい速度で、しかし、ゆっくりと迫る。

 ここ!!

 回避開始。
 右足を引き摺りつつ、身体を前方へと投げ出す。
 前転受身。
 右手が壁から離れる瞬間、遅延式改変作業が開始される。
 転がり避ける私の頭上を獣人の巨体が飛翔していった。

「ギョ~!! 甘いんだどぉ~娘ッ子!! オイラ天才だから娘ッ子の行動は全てお見通しなんだどぉ~!!」
 ペンギンが大声で吼え宙返りしつつ身体を捻る。
 水泳の切り替えしに似た動作。
 獣人と視線が交わる。
 ハッキリとペンギンが嘲笑を浮かべるのを知覚した。
 勝利の笑みといってもいい。
 壁に脚を着地させる寸前で、ペンギンは大声で絶叫した。

「これで終わりだどぉ!!」
「……そう」

 ペンギンの脚が壁に着地する寸前、私は壁に墨汁を連想させる黒染みが滲むのを視認。
 早くも無く遅くも無く完璧。
 ペンギンの脚がピタリ、その蠢く黒染みへと納まり……そのまま一気に吸い込まれていく。

「ギョ!? な何だどぉ~!? 一体何がっ」

と言い残しペンギンの巨体が、染みの中にズボリと吸い込まれていった。
 一瞬の出来事。
 獣人が吸い込まれた黒染みの内部から、「ギョエェェェ……アマゾ●に会いたいどぉ」と言う悲鳴が一瞬だけ聞こえた。

*****

 次元移動法。

 周囲は一気に静寂に包まれた。
 死闘に相応しくない呆気ない幕切れ。
 私は廊下にうつ伏せに倒れ臥したまま、首を捻ってその光景を眺めていた。
 驚愕し大きく見開いたペンギンの瞳が印象的だった。
 身体を起こす。
 一方通行設定ではあるが早急に次元を閉じるべき。
 設定が正常に成されていれば、ペンギンは火星軌道に跳ばされている筈である。
 しかし、それは然して重要ではない。
 身体を引き摺り獣人が消えた黒い染みへとにじり寄った。
 右手を伸ばし触れる。
 暗証符号を唱え、壁を通常状態へ。

 次元移動法……完了。

*****

 幾度も再起動を要請されるが完全に無視。
 体内全ての改変因子を消費して、戦場の如き惨状を晒していた周辺環境を修復する。
 キラキラと光り輝く細かい粒が中空を漂い、周辺の情景が無事な姿へと変換されていく。
 暫くして周辺の状態は戦闘以前へと復帰した。

「…………」
 それを見届けた私は、壁に凭れ掛かりズルズルと廊下へ腰砕け。
 このまま待機状態へと移行したい。
 この脱力感から開放されたい。
 休息欲求が強烈に体内に渦を巻く。
 生体端末の完全なる修復を試みるには、改変因子が足らないと言う絶望的状況。
 施した処置は簡便な止血のみ。
 部室への帰還さえ叶えば、対応策を講じる事が出来るのだが……。
 部室には緊急時対応用に改変因子を貯蔵してある。
 その空中に漂っている因子を取り込む事が出来れば……。
 しかし、その部室に移動する事すら、今の私には不可能事であった。

「…………」
 投げ出していた脚にコツンと何かが当たった。
 視線を移動。
 霞む視界に、干からびた乳白色の粘液に包まれた球体が飛び込んできた。
 ……ペンギンに撃墜された球体防壁。
 私は震える右腕を伸ばしそれに触れた。
 機能を停止しているが、因子そのものに不具合がある訳ではなかった。
 右掌に載せる。
 開放。
 改変因子を体内へと吸収した。
 残量を検査。
 至近距離の次元移動なら起動させられるだけの残量だ。
 時間が無い。
 私は本日三度目となる次元移動を試みた。

*****

 部室へと到達。
 正確に言えば、清掃用具入れの中に私は辿り着く。
 掃除用具と共に中から転がり出た。
 大きく深呼吸。
 体内に空中を漂う改変因子が勢い良く吸収されていく。
 部室内に常時浮遊させている改変因子が私の中へとなだれ込んで来た。
 傍から眺めれば、光り輝く奔流が私の身体に吸収されて行くが如く見えたに違いない。
 光に包まれる私の身体。
 その光が一瞬だけ部室に満ちた。
 直後、それは私に全て吸収される。
 生体端末の修復活動が自動的に開始された。
 部室内に貯蔵されている改変因子を全て消費すれば、八割近く回復可能と推定される。
 掃除用具を片し、丁寧に次元移動を完了させる。
 蹌踉めきつつ窓際に移動。
 私専用の椅子へと崩れ落ちた。
 ゆっくりと姿勢を正す。
 改変因子を吸収消費しつつ、傷や不具合を自動的に復旧。
 目を閉じ身体を弛緩させた。
 身体の隅々まで暖かく清廉な流体が行き渡る心地良い感覚。
 適温の温泉にじっくりと浸かっている感覚と言えば、理解しやすいかもしれない。
 私は此処で延々と引き伸ばしてきた再起動を試みる事にした。
 何時までも、思念体との情報結合を断裂状態のまま放置しておくのは得策ではない。
 必要処理時間は推定三十秒。


 その間、私は…闇に……沈む。


*****

 再起動。
 思念体との結合も無事修復。
 更に各部位の検査を開始。
 結果判定。どうやら自動修復は順調のようだ。
 現時点でも通常観測に限れば、支障は無いと言えた。
 観測対象・地点・精度等再入力を進めつつ、思念体に先の改変内容及びその結果を仮提出。
 正式な報告は一両日中に提出する旨上申し了承を得た。
 これで今回の事件は決着を見たと言っても過言ではない。
 先ずは一安心である。
 私は椅子に寄り掛かり、意味も無く部室内を見回した。
 本日の成果はこの心安らぐ平和な空間。
 何時もの部室である。
 今回は何時も以上に感慨深い改変修復作業となった。
 再度見回していると朝比奈みくる愛用の急須に興味を引かれた。
 「何故?」と自問し掛けて私は瞬時に回答を得る。
 先の戦闘のせいであろう、酷く喉が渇いていた。
 朝比奈みくるの淹れてくれるお茶を希望したい所だが、改変因子を使用するのは無粋と判断し、止むを得ず自分で淹れる事にする。
「…………」
 ゆっくりと立ち上がり、トテトテと移動。
 ポットを始めとする茶入れ道具一式を借用しようとして、私は戸惑った。
 準備されている茶葉は日本茶ではなく紅茶。
 ……紅茶を入れた事は無い。
 日本茶と同じ淹れ方でいいのだろうか? 
 私が茶葉をジッと見詰めていると、観測再設定終了の合図が脳裏に響き、その直後……、

 バタンッ!!

と激しい音を立てて扉が開かれた。と同時に部室に元気一杯な声が響く。
「あっれー? 有希? ……何やってるのよ?」

 ピッ。
 直後、言わずもがなの観測結果が速報として伝えられた。

「涼宮ハルヒが部室に入室」
「…………」
 私は涼宮ハルヒの怪訝そうな顔を見詰める事しか出来なかった。

*****

 涼宮ハルヒが最初に部室を訪れてから、早三十分が経過していた。
 彼女が入室する度に嵐が巻き起こり、退室する度に凪が訪れた部室。
 現時点では凪状態、非常に穏やかな空間を取り戻している。

「ホントによかったぁ、涼宮さん……元気になってくれましたぁ」
 朝比奈みくるがお茶会の片付けを行いつつポツリと呟く。
 本日の反省から格闘技術に精通する必要性を痛感、合気道に関しての解説書を読み進めていた私は、その呟きを耳にしてゆっくりと顔を上げた。
 朝比奈みくるは愉しげな表情を浮かべ、紅茶の準備をしている。
 私には真似の出来ない舞踏の如き熟練した流れる様な所作。
 そして、その表情……正直羨ましいと思う。
 その視線に気が付いたのだろう、朝比奈みくるは私の湯飲みに紅茶を注ぎつつ、何故か戸惑う。
 幾度も口篭り視線が泳ぐ。
 私は本に手を挟み、パタンと閉じて「何?」と尋ねた。
 それでも、困った様に躊躇う朝比奈みくるをジッと見詰める。

「長門さん……あの、その、ちょっと聞いても良いですか?」
 その視線に負けた様に朝比奈みくるは私に尋ねてきた。あくまで謙虚に控えめに。
 私は再度「何?」と返答する。

「き、気のせいならいいんですけど、さっきですね、えっと、長門さん……若しかして何か異変でもありました?」
「何故?」
「あ、いえ、その、何となく、そんな気が」
「…………」

 先程涼宮ハルヒに、同じ類の質問を受けていた私は黙り込んでしまった。
 あらゆる知識・経験を総動員、全力で涼宮ハルヒの説得を試み……辛うじて納得させる事に成功したのは僅か二十分前。
 私にとって涼宮ハルヒはペンギンとは比較にならない程の強敵であった。
 あの悪夢が脳裏を過ぎる。
 朝比奈みくるは涼宮ハルヒとは別の意味で要注意人物だった。
 私は先程の経験を活かし、朝比奈みくるの疑念を晴らすべく口を開いた。
 同じ過ちは繰り返さない……通常と変わらない口調を心掛ける。


「そのような事象は無い。全然無い。全く無い。全て気のせい。その疑念は速やかに忘却するべき」


 私の柔らかい説明により、朝比奈みくるは想定以上にあっさりと納得してくれた。
 青白い顔で必死に頷いていたのも、目に涙が浮かんでいたのも、視神経の過誤だと断言しておく。
 その朝比奈みくるの淹れてくれた紅茶を1口だけ口に含む。
 芳しく非常に美味。
 心が落ち着いていくのが認識出来た。
 非常に高い鎮静効果。
 しかし、私は湯飲みの中で揺れる液体を眺めながら、先程涼宮ハルヒの淹れてくれた紅茶を思い出していた。
 団長の仲間を想い遣る気持ちの篭った紅茶。
 身体が温まると共に、一気に内部修復作業が進むと言う副次効果付き。
 「涼宮ハルヒ特製紅茶なんだから!!」と、朗らかに言い切る涼宮ハルヒの笑顔は光り輝いていた。
 自然、私は紅茶の準備を進める朝比奈みくるへと語り掛ける。
「朝比奈みくる。お願いしたい事が有る」
 不意を突かれたのか、朝比奈みくるは作業の手を休めキョトンとした表情で、「な、何でしょうか?」と問い返してきた。
「紅茶の美味しい淹れ方を伝授して貰いたい」
「……はい? 紅茶の淹れ方、ですか?」
 私はコクリと頷き朝比奈みくるをジッと見詰めた。
 先程と同じ徹は踏まない。
 改変事実に直結する恐れもある。
 伝達内容を慎重に吟味。
 そして涼宮ハルヒに対し、お礼として紅茶を淹れ返したい旨のみを説明する。
 その説明が終わると同時に、何故か朝比奈みくるはキラキラと目を輝かせ大きく頷いた。

「判りました、長門さん!! わたしで良ければお力になりますよ。そうですよねぇ、何か優しい事をされたら、お返ししたくなりますものね。わたし、人に助けられてばかりだから、お役に立てるのって凄く嬉しいんです」
「感謝する」
「いえいえ、でも長門さんなら直ぐに美味しいお茶を淹れれますよ。先ずは……」

*****

 朝比奈みくるから、懇切丁寧に紅茶の淹れ方を伝授して貰い、その手順等を記録保管庫に収納していると、古泉一樹が入室して来た。
 何時もと変わらぬ笑顔。
 しかし、肉体的にはあちらこちら負傷しているらしい。
 更には余り人体に好影響を与えない薬物を使用し、精神活動状態も芳しくないと観測結果が告げている。
 にも係わらず、朝比奈みくると愉しげに会話を交わす古泉一樹。
 その周囲への気配りは流石の一言である。

「…………」
 私は熟考する。
 私の観測体制に不備があった事は否めない事実であり、古泉一樹が負傷した時期や状況が把握出来ていない。
 しかし、古泉一樹が使用している薬物は、確実に強烈な悪影響をその肉体と精神に与えるであろう。
 私ならそれを回避しつつ負傷をも治癒させる事が可能であった。

 それを申し出るべきか? 
 ……否。

 古泉一樹の性格を鑑みるに、拒否される可能性の方が大きかった。
 況してや組織的任務での負傷なら、我々の間で結ばれている紳士協定に抵触する恐れもある。

「…………」
 助力を申し出たいのに、それをすべきではないと理性的に判断する自分。
 心の内面でモヤモヤとした曖昧模糊としたモノが蠢くのを無視して、私は陳氏太極拳の秘伝書に目を通しつつ、二人の会話を聞いていた。
 どうやら涼宮ハルヒの行動に関しての考察を行っているらしい。
 見事両者の見解は一致。
 私も涼宮ハルヒらしいと一言申し添えさせて貰いたい。
 その古泉一樹、パイプ椅子に座り緑茶を飲み干し、私に語り掛けてくる。
 負傷の事や薬物使用の事を寸毫も噯気に出さないまま。

「あぁ、長門さん? 読書中に申し訳ないのですが……少々宜しいでしょうか?」

 ……古泉一樹も質問? 

 本日受けた幾つかの質問を思い返し私は思わず身構えた。
 何を聞かれるのだろう? 
 古泉一樹程明敏な人物を納得させれるだろうか? 
 不安と困惑が交じり合う。
 それでも通常通りに振舞う事に徹する。

「何?」
「実は、涼宮さんの所持していたエアガンの事で……」

 どうやら、古泉一樹の質問は改変に係わる事ではない様だ。
 一安心である。
 その内容は涼宮ハルヒを納得させるために、私が改造した突撃銃に関してだった。
 古泉一樹は先程行っていた射撃実験の様子を事細かに解説。
 朝比奈みくるがオロオロと呟く。

「そ、それ、危ないんじゃ? キョ、キョン君……大丈夫かなぁ?」
「えぇ。僕もそう感じたので、長門さんの真意を伺いたくて」

 私は二人の顔を交互に見詰めつつ、最低限の事実のみを告げる。
「……私は涼宮ハルヒの要望に答えただけ」

 古泉一樹から幾つかの質問を受け、私は内容を推敲しつつ慎重に返答する。
 事実は私の胸の内に仕舞っておくべき。
 涼宮ハルヒとの会話を完全に再現する必要はない。
 雪山の惨劇は回避されたのだ……。

「た、確かに何時もの有希なら、この位チャッチャっと片付けちゃうんだけどさ、でも今は……普通じゃ無いでしょ?」
「そうでは無い。貴方の気のせい。今の私にも可能。簡単。楽勝。瞬殺。もーまんたい」
「……ホ、ホントに? 本当かしら? じゃあ、お願いしちゃおうかな。でも、若し出来なかったら、素直に病院で検査受けてくれる?」
「了解した。正常である事を証明する」

 この部分は省略して、「重い・扱い辛い・デザインが今一・どうせ使うなら超高性能なのがいい」との涼宮ハルヒの要望のみを告げた。
 涼宮ハルヒは思い付くままに変更箇所を指定、私がそれに答えるという手順であった事も付け加える。
 そして、涼宮ハルヒは改造銃を甚く気に入ったらしく、早速これを使って来るわね!!と言い残し部室を飛び出していったのであった。
 強敵涼宮ハルヒの「有希は絶対に具合が悪いに違いないわ」と言う固定観念を払拭出来た事は幸いであると言えよう。
 再度明言する。
 雪山の惨劇は回避されたのだ。
 そう、私は嘘を吐いてはいない。
 限定的な真実のみを伝えているに過ぎない。
 “ツンデレ”でも“韜晦”でもない。
 伝達可能な事実は伝え切ったと判断し口を閉じた直後、朝比奈みくるが質問を投げ掛けてきた。
「長門さんはどうして……心配してないんですか? キョン君、そんな凄いので撃たれたら大怪我しちゃいますよ?」
 心配げな朝比奈みくると古泉一樹の視線。
 私は淡々と答える。
 涼宮ハルヒの性格と能力を考慮すれば、自ずと判る事。
 二人も直ぐに理解してくれる筈。

「私の能力が涼宮ハルヒの願望を凌駕する事はない」
「成る程。涼宮さんが望む筈が無い、彼が危険な目に合う事を……と言う訳ですね?」
「そう」

 私は返答を返しつつ中庭に視線を向けた。
 彼らが中庭に向かったとの観測情報が齎されたからだ。
 直後、彼と涼宮ハルヒの会話が聞こえてきた。

「待ちなさいっ、キョン!!」
「待てと言われて待つ馬鹿が何処に居る!!」

 部室の中の雰囲気が柔らかいものへと一変した。
 古泉一樹と朝比奈みくるも、笑顔を浮かべて窓際から中庭を見下ろす。
 部室にいる団員全ての視線が中庭へと向かった。
 逃げる彼に向けて涼宮ハルヒが「待ちなさい!!」と叫び、例の改造模擬突撃銃を彼の背に向ける。
 瞬間、涼宮ハルヒの体内から改変因子が波動となり噴出した。
 美しい虹色。
 突撃銃がすっぽりと包まれる。
 私が施した各種設定が一瞬で休眠状態へと移行。
 事前に予測された事であっても、涼宮ハルヒらしい改変と言える。
 私は静かに情報収集。
「あーんっ、何でさっきからきちんと飛んでいかないのよ!? キョンを蜂の巣に出来ないじゃない!!」
 その絶叫に古泉一樹が苦笑を浮かべている。
 私は“ツンデレ”の正統的使用法を再び目の当たりにしコクリと頷いた。
 そして、二人は仲良く言い争いながら追跡劇を持続。
 再度校舎へと駆け込んでいった。
 周囲は静寂に包まれる中、私は古流柔術指南書に目を落とし観測体制を持続。

 その直後の事である。

 古泉一樹と朝比奈みくるが議論を開始した。
 内容は彼と涼宮ハルヒの事でもあり、また、本人達の事でもあった。
 意味深な言葉の応酬。
 高ぶる精神。
 韜晦する古泉一樹に朝比奈みくるが疑問を提示していく。
 常に無く明確な回答を求める朝比奈みくる。
 観測。
 かなりの興奮状態である。
 翻って古泉一樹。
 朝比奈みくるに釣られるように、精神的封印が消え去ろうとしていた。
 薬物の影響は大きい様であった。
 人類が本心を発露する事は大きな波紋を呼ぶ事に繋がる筈。
 況してや、古泉一樹の様に強固な克己心で自らを律する人物では、その反動も大きいと予想される。
 直後、涼宮ハルヒが彼を捕獲したとの観測情報が齎された。
 閲覧。
 ……無謀且つ危険な行為。
 しかし、それこそが彼に対する、涼宮ハルヒの想いの何たるかの証左でもある。
 それを理解したからこそ、彼も素直に白旗を挙げたのだろうと推測出来た。

 あの二人が戻ってくる。

 ただそれだけで雰囲気が変わるだろう。

 その思いを込め、古泉一樹と朝比奈みくるの意味深な会話に無理矢理割り込む。

「涼宮ハルヒが彼を捕獲した」
 骨法奥義本を読み進めつつ淡々と呟く。
 二人の会話が停止、視線が私に集中する。
 予測通り。
 更なる情報提供。
「両者とも大きな怪我はしていない」
「……と言う事は擦り傷位は創ってるかもしれませんね」
 朝比奈みくるが「この会話は終わりです」とばかりに、救急箱の準備に取り掛かる。
 古泉一樹も両手を広げ大袈裟に嘆いて見せた。
「残念ながら……この貴重極まりない静謐空間を堪能出来るのも、あと僅かと言う事です」
 全く持ってその通り。
 私は一分たりとも反論する心算も無く頷いた。
 二人の会話が途切れた事も安堵に繋がる。
「でも、キョン君と涼宮さんが居ないSOS団って、ちょっと静か過ぎますよね……」
 救急箱の準備を進めつつ朝比奈みくるがポツリ。
 私は無意識に頷いた。
 あの二人が居てこそのSOS団だと思うからだ。
 観測対象・保護対象と言う無粋な枠を超えて、あの二人と共に過ごす事は非常に心地良い。
 勿論、古泉一樹や朝比奈みくるもSOS団の大切な構成要素である。
 私は奥義本を読み進めつつ、この貴重極まりない絆をこれからも護っていくのだと心に誓っていた。

 例え、どのような犠牲を払っても……。

 決意を新たに固めた私の脳裏に、突如涼宮ハルヒの元気一杯の声が響く。

「何言ってるの、有希ってば? 有希1人を犠牲にして幸せになろうなんて人はSOS団にはいないわよ? それが仲間って奴なんだからねっ。有希も含めて皆で幸せになるのよ? いいえ、あたしが幸せにしちゃうんだからっ。だから、何も心配しないで、あたしに付いて来なさい!!」

 私は一人コクリと小さく頷いた。
 団長命令は絶対。

 しかし……。

 命令遂行のため、SOS団のため、大切な仲間のため、私は人知れず改変修復をこなす。

 今までも、そして、これからも……。

 ……それが皆の幸福に繋がると思うが故に。
 ……仲間を思い遣るのが当然であると信じるが故に。

 何故なら私は……。


【Das Ende……】
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  1. 2000/01/01(土) 00:00:00|
  2.  SOS団は狙われてるんだからね!!
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
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