女神様の絵本箱

「涼宮ハルヒの憂鬱」の二次創作小説ブログです♪ 基本甘々ハルキョンキョンハルメインです(^▽^)/ 先ずはSSリストよりどうぞなのです

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そして、夢見る少女は大人の階段を昇る……⑥(大人キョン君視点)

そして、夢見る少女は大人の階段を昇る……


・粗筋:過去に跳んだキョン君は……思いもよらぬ人物との“再会”を果たす事になります。

*****

「続きを読む」からは ……

 大人キョン君視点⑥:
【……そう、全てはお前の奇天烈自己紹介から始まったのさ(やれやれ、これが呪わしき職業病って奴か?)】


……になりまーす(^▽^)/


*****

 周囲を見渡し人気が無いのを確認してから、俺は徐に一歩を踏み出した。

 実際問題として……今の俺には、達成すべき目的はあっても、目指すべき目的地が無い。
 恐ろしい事に迷子コハルへと辿り着くための手掛かりは、別れ際に朝比奈さんから頂いた「歌」と言う一言だけであった。
 「長門さんならば」……とお思いの方も多かろうが、———いや、俺も一瞬だけ淡い期待を抱いた口だが———宇宙人っ娘曰く、収集した過去情報を部外者に開示公表するには、何やら規則変更に伴って多大な事務処理が必要になったらしく、関係者との調整だけで数時間は掛かるんだそうだ。
 「それは何処の市役所の話だ?」と条件反射的に突っ込みそうになるのを我慢していると、そんな雰囲気を察したのか、それとも自責の念に駆られでもしたのか、済まなそうにションボリ俯く長門さんなんだが、まぁ、なんと言うか……あー、こちとら曲がりなりにも、あの事件以来読書好きっ子に出来るだけ負担を掛けまいと誓っている身なんでな、だから寸毫たりとも気にする事は無いぞ、長門?

 とまぁ、何だかんだと言っても、既に独り過去に来てしまっていると言う世知辛い現実に対応するため、長門との過去の遣り取りを頭の片隅に追いやりながら、その代わりに朝比奈さんの台詞を思い出しつつ、
「歌を追って下さい……って言ってたな」
と小さく呟くと同時に俺が小首を傾げたのは、遅まきながら素朴な疑問がムックリと首を擡げたからである。

 ……良く考えたら、「歌を追う」って、一体どういうこった?
 確かにコハルは———ハルヒの影響もあって———歌う事が大好きな子だがなぁ……まさか見も知らぬ場所に居るにも係わらず、暢気に大声で歌ってるとでも言うのだろうか?

 耳元で囁かれた時には、「アドバイスを有難う御座います」とか感動していた筈なのだが、イザ現地に来てみると、ははっ、曖昧過ぎて取っ掛かりにすらならず、将に……、

『口頭で目的地を指示され、「任せろ!!」とばかりに勇躍出航した古びた帆船が、水平線しか視認出来ない大海原のど真ん中に到達した瞬間、念のためにと船内調査を試みた結果、羅針盤が故障していた上に海図すら準備しておらず、「そんな馬鹿なっ!?」と船長以下全乗組員が恐慌状態に陥った直後、突如として発生した激しい暴風雨に巻き込まれ悪戦苦闘中』

とでも例えたくなる程の絶望的境遇だと言え、普通なら周章狼狽しパニっくてるところだろうが、そんな状況にも係わらず、何故か俺は特に慌てる事も無く終始冷静であったのだが、それはSOS団メンバーへの信頼感の成せる業であると言えるだろう。
 何となれば、現時点で全く意味不明で手掛かりにすらなっていない「歌」と言う単語ではあるが、それが某かの比喩であれ暗喩であれ、朝比奈さんが無意味な事をする筈も無く、って事は「歌」がコハルへと至る道標である事に変わりは無いだろうし、更に、この時間軸で未来人組織が俺に何かをさせたいのか判らないが、それを失敗されて困るのは彼らの方であり、いや、そうなると、俺もコハルを見付け出せない事になるので、困ると言えば困るのだが、まぁ、異時間軸に無力な一般人を放り出しておいて、後は知らん振りって事は無いだろうさ。
 ……無いですよね、朝比奈さん?

 ゴホン。
 とまぁ、上記の様なポジティブシンキング的思考を試みた結果、過去の事例を鑑みるに事はそう難しい筈も無く、何時もの通り感じたままに行動すれば良いと思われ、この様な事態に陥った際、自分自身の直感に従って失敗した記憶も皆無な上に、止めとばかりに古泉と長門から齎された事前情報のお陰も有り、実の所、俺の感じるべき重圧は相当に軽くなっていたのである。

 今回の件で、やはり持つべきは頼れる友人であり仲間だと痛感したね、俺は。

*****

 古泉からの情報、それは要約すると「コハルが1人っきりではないと思われる」と言う物だった。

 “その場の勢いに任せて、1人家を飛び出し、有り得ない事に自力で時を越えてしまった女の子が独りではない”

ってのも不可解な現象の筈なのだが、それはそれ、SOS団に所属してからこっち、余りにも奇妙奇天烈な体験を経験し過ぎた弊害か、疑う事も無くあっさりと納得しかかっている己自身に憐憫の情を抱かざるを得ない。
 とは言え、それが事実であろうが妄想であろうが、掟破りの常識破りである事には違いは無く、更に可愛い我が子がキーパーソンだともなれば、もっと慌てふためいてもいい筈なのだが、何を隠そう、古泉達の指摘により判明した、
“ハルヒ鉄壁秘密予防策”
のお陰で、俺は冷静さを失う事無く事態に対処出来たと言って良いだろう。
 その事実により、俺の魂の中で深くがっしりと根を張っているハルヒに対する畏敬の念が更に強まったと断言しつつ、本気の本気で一言だけ言わせてくれ。

 ハルヒ、お前、やっぱりスゲェよ……。

*****

「渡橋泰水。覚えていらっしゃいますか?」
「ヤスミ……か、豪く懐かしい名前だな。で、ハルヒ分身元気っ娘ヤスミがどうしたってんだ、まさかこの慌しい時に昔話か?」
「残念ながら一瞬だけでしたので、満腔の自信を以って断言出来る訳ではないのですが……」
「やれやれ、聞きたくは無いが言ってみろ。……まぁ、何だ、慎重なお前が仮にでも口にするんだ、それなりに確証があるんだろ?」
 顔を顰めぶっきら棒に言い放つ俺の態度の何に反応しているのやら、古泉はモナリザじみた表現し辛い微笑を浮かべつつも、しかし、口調を変える事無く発言を続けた。
「実はタイムループ直前のコハルさんの傍らに、彼女と良く似た———何とも説明し辛いのですが———存在感やオーラと言った物を感知したので、或いはと……」
と意味深に口篭る古泉の表情を窺いつつ、俺は脳裏に浮かんだイメージを無意識の内に言葉に変えていく。
「……それは、ハルヒの奴が予知能力じみた力を発揮し、我が子の為に昔懐かしのヤスミを呼び出したと言う事か? 又、あの事件の時の様に?」
「恐らく。ですが、涼宮さんなら可能、と言うよりも、寧ろ率先して実行するとは思いませんか? あの仲間思い、いえ、家族思いの涼宮さんなら」
「…………」
 敬虔な信徒が信仰する女神を絶賛賞賛するが如き古泉の熱の篭った台詞に対し、同意する事を保留すべく俺は無言を貫きながら、しかし、内心では「確かにハルヒならば……」と納得してもいた。
そして、その思考の流れを自覚した瞬間、何時の間にやら、古泉の意見を“確定した事実”だと認識している自分自身に思わず苦笑しつつ、確認の意味を込め、俺は頼れる人物に声を掛ける。
「長門?」
 万能宇宙人っ子は質問される事を予期していたのか、間髪入れず反応してくれ、「そう」と長門らしく簡潔明瞭に一言。
 そして、その答えを半ば予想していた俺も続けて質問を発した。
「って事は……つまり?」
「古泉一樹の指摘は正しい。渡橋泰水は貴方の長女と以前から認識があったと推測される」
「何、以前からだと?」
「そう。今回に於いても事件発生と同時に渡橋泰水は玄関先に出現し、貴方の長女の傍らに保護者の如く寄り添った。そして、その後の時間跳躍にも追従している」
 「やれやれ……マジでマジなんだな?」と言う俺の最終確認に対し、長門は再び「そう」と小さく頷く。
 長門さんの淡々とした返事を耳にすると同時に、俺の脳裏には愛娘コハルと元気っ子ヤスミが楽しげに遊んでいる姿が浮かび上がった。
 まるで仲の良い本当の姉妹の如く戯れ笑顔を浮かべる2人の様子は、
「パパは何も心配する必要は無いんだからね?」
「ですですそうですそうなんですっ。先輩っ、心配無用なのです!!」
と訴え掛けている様で、俺は素直にホンワカしつつも「やれやれ」と首を振り振り、
「何年ぶりかに分身を作り出しちまう程、俺を信用出来なかったのかね、団長様は」
と非難めいた事を嘯きながら、心にたゆたっていた焦燥感と言う名の濃霧が晴れ渡って行く感覚に感動を覚えても居た。

 コハルは1人っきりではない。
 ヤスミがコハルの傍に居てくれている。
 ハルヒ=ヤスミと考えると、それはつまり、無意識無自覚とは言え、ハルヒが事態を認識してくれているって事になり、ぶっちゃけ、ハルヒが俺達を温かく見守ってくれているに等しい訳で……。

 それだけ……。
 たったそれだけの事で、その事実だけで、何故かこの事件はハッピーエンド以外のエンディングを想像出来なくなった俺であった。
 きっと、俺もハルヒもコハルもキョン太も、いや、長門に古泉に朝比奈さん、そして、俺達に係わりのある人全てが満面の笑顔で明日を迎えているに違いない。
「…………」
 幸せの極地とでも表現出来るその光景をイメージし、不覚にもグッと来ちまいながら、同時に俺は昔交わした会話を思い出してもいた。

「ねぇ、キョン?」
「ん? 何だ?」
「子供達を色んな危険から護ってあげるのって、あたし達夫婦2人の役目よね?」
「当たり前だろ? まぁ、何だ、万が一ハルヒが子供達の傍に居ない時は、俺が責任を持って保護しておくさ。安心しろ」
「ふふふ、頼りにしているわよ、キョン」

 その発言通り、無意識とは言えハルヒの奴は———護衛と言うかお目付け役と言うかそんな存在を幼い娘の身近に置いておいた訳であり———、兎に角、コハルを1人っきりにしなかったと言える訳で、それを意訳すると、「後は任せたわよ、キョン?」って事なんだろ、団長様?
 だがな、思い返してくれ。
 俺が一旦口にした事で遵守しなかった事があるか?
 無いだろ、ハルヒ?
 だから、安心して任せてくれよ。
 況してや、過去からコハルを連れ戻せるのは、世界広しと雖も、父親でも有るこの俺を於いて他に無いんだからな。

*****

「ふぅぅ……」
 俺は頭を振り振り大きく溜息を吐き、過去の記憶が作り出す仮想世界から、夕焼けに染め上げられている現実世界へと帰還した。
 ハルヒを筆頭に古泉や長門に朝比奈さん……SOS団の仲間が全力でフォローをしてくれている事実を再認識した結果、俺の使命感はいや増しに増していく。
「さて、行くか……」
と小さく決意表明をしてから、「歌を追う」ために、それが何処からか聞こえてこないかどうか耳を澄ましつつ、俺はゆっくりと歩を進めた。
 日本の夏の日暮れらしく蜩の鳴き声が物悲しく響く夕焼けの中、俺は住宅街を抜けたその先にある夙川を中継地点に選択。
 夙川を遡り銀水橋、そして、最終的には北高へ。
 勿論、そんな変則的なコースを選択したのは、特段、意識した訳でも意味があっての事でもない。
 「所謂、気紛れって奴だ」……と思ったさ、この時はな。
 だが、「俺の勘も捨てたモンじゃないな」と自画自賛するまで、それ程の時間を必要とはしなかった。

 そう……有りがちではあるが「まるで運命に導かれるが如く」「磁石のS極とN極が引かれるが如く」とでも表現出来る出会いが俺を待っていたのだ。

*****

 ゆっくり寛ぎながら散歩する風情で歩きつつ、実は周囲に気を配り細心の注意を払って「歌」が聞こえてこないかと、俺は耳を欹てていた。
 んでもって、俺が注意を払うべき対象には、コハルやヤスミは勿論の事、それ以外にもこの時代の人間———アノ藤原風に判り易く言うと「過去人」って事になる———も含まれているってのが、作戦難易度を上げてくれる。
何故なら、先の作戦会議中の証言により、高校時代の古泉や朝比奈さんが、“この俺”と出合った事は無いと判明していたからである。
 事実、俺も周囲の人間から“この俺”を髣髴させる人物の話題を聞いた事は無い。
 そして、何やら守秘義務のある長門さんはと言うと、当時、“この俺”の存在を感知しつつも、某かの救援要請は皆無であった……とそれとなく雰囲気で語ってくれ、って事はだ、俺がこの時代のSOS団メンバーを含む他の人間と出会わないってのが、所謂「規定事項」なんだろうさ。

「やれやれ、これが呪わしき職業病って奴か? ……ん?」

 指示を受けた訳でもないのに規定事項を気にしている己の境遇に対し、思わず苦笑を浮かべてしまった俺が、何処からとも無く漂ってくる微かな歌声を捉えたのはそんな時だった。
 
*****

 さて、物語を進める前に、1つ明確にしておきたい事があるんだが聞いてくれるだろうか?
 現時点で俺の脳裏を占めているキーワード、「歌」に関しての事である。
 そして、それから連想された事についてだ……。

 あー、何と言うか、唐突ではあるが、ハルヒが美声の持ち主である事に関して異論は無いと思う。
 ならば、その歌声を最も耳にしているのは誰かと言うと、それは間違いなく俺であろうと断言しよう。
 結婚してから、いや、その前の同棲時代から事ある毎に耳にしてきたハルヒの美声にどれだけ心癒された事か……掃除や調理の際にハルヒが何気無く口遊むのを心待ちにしているのは、何もコハルやキョン太だけではないのさ。
 そうなのだ、歌手ハルヒのこの世で最も熱烈なファンは間違い無く俺であり、子供達には悪いが、例え大人気無いと言われようとコレだけは譲る心算は無い。

 更に「ハルヒの歌声の虜になったのは何時の事だ?」と問われれば、俺は胸を張って「高校一年の文化祭の時さ」と答える事に些かも躊躇いを覚えない。

 あの時、偶然が幾つも重なった結果、軽音楽部に臨時参加しボーカルを張ったハルヒを俺は観衆の1人として眺めていたっけ。
 そして、舞台の上でスポットライトを浴びながら、一心不乱に歌い上げるハルヒはその圧倒的な存在感で周囲を惹き付け、聞き手たる俺はと言うと———まるで妖怪セイレーンの歌の虜にされた船員の如く———忘我状態でその美声に聞き惚れていたのだ。
 全身全霊を注ぎ込み音吐朗々と歌唱するその姿は見る者全てを魅了し、ハルヒの情熱的な美声はカラオケとは比較にならない程の高揚感と感動を俺達に与えてくれた。
 それらに引き込まれ、全盛期のビートルズのライブを髣髴させる程の盛り上がりを見せる会場。
 それはその場にいる人間全員にとって、将に至福の時だった。
 ……その光景、そして、それに付随する五感と情動の全てを、10年近くの時が過ぎ去った今でさえも、まるで昨日の様に思い出せる俺である。

 だから……。
 だからこそ……。

 耳に届いた微かな歌声の主を、俺は一瞬で判別した。
 瞬時に感動し高揚する俺。
 身体を言い知れぬ電撃が奔り回る中、無意識に俺はその歌い手の名前を口にする。

 数多の思いを込め、声を震わせ、「ハルヒ……」と。

*****

 その愛しい人の名前を呟いた直後の事である。
 微かに聞こえる歌声の主を直に視認したいと言う欲求に促されでもしたのか、俺の脚は我知らず徐々に速度を上げていった。
 徒歩から競歩へ、競歩からジョギング、そして、駆け足へと。
 声の主に近付いている証左として、それに伴い歌声が鮮明さを増していき、と同時に、その歌詞も明瞭に聞こえてくるようになる。

Why she had to go
 何故あの人は行ってしまったのだろうか?
I don't know she wouldn't say
 私には判らない、だって、あの人は何も言ってくれなかったから。
I said something wrong
 何か気に障る事を言ったしまったのだろうか?
Now I long for yesterday
 だからこそ、今、私は熱望する。(幸せだった)昨日に戻る事を。

「……Yesterday、か」
 それは———大抵の人が耳にした事のあるであろう———嘗て世界中を熱狂の渦に叩き込んだUKバンドの名曲だった。
 その朗々と歌い上げる素晴らしい歌唱力から、歌い手はハルヒであるとの確信を深めつつ、それ以上にその歌声に込められている感情が、俺の心を激しく揺さぶってくれた。

 それを鮮やかに彩っていたモノ……それは狂おしいまでの悲憤であり、聞く者全てを涙させかねない悲嘆でもあった。

 それは、悲しい思いの丈をコレでもかと込めた———付き合いの長い俺ですら記憶に無い程の———悲歌であった。

 将に意気阻喪中と表現せざるを得ないその声調を耳にしたお陰で、俺の胸は張り裂けんばかりの激痛に襲われた。
 それは、俺の脚を止めると同時に、問答無用で自問自答する事を強要してくれる。

 一体何故ハルヒは悲歌慷慨しているのか? 原因は何だ? 切っ掛けは何だ? それにだ、これだけハルヒが激しく慟哭しているってのに……SOS団の連中は、いや、この時代の俺は何処で油を売って遣っていやがる!? ハルヒを慰めなきゃいかんだろうが!! 嘆き悲しむ団長を放っておくとは何事だ!?

 様々な疑念や強烈な憤怒が体内で混ざり合う中、だが、それよりも何よりも、俺は本気で戦慄していた。

 何故なら、これだけハルヒが嘆き悲しんでいるにも係わらず、この件についての記載が俺の記憶中枢に無いのだ……。
 原因も経過も結果も……俺は知らない覚えが無い。ハルヒや他のメンバーから聞いた事も無い。

 「そんな馬鹿な!?」と愕然としつつも、同時に俺は嘆き悲しんでいるハルヒの現状を推測、瞬時に危機感に包まれる。
 途端に心配で心配で堪らなくなった。
 即座に居ても立っても居られなくなる。
 一気に激烈な焦燥感に身体が苛まれた。

 取り合えず俺の記憶とかは脇に置いておこう。ぶっちゃけ、元の時間軸に帰ってから朝比奈さんや長門辺りに聞けば、即座に判明するだろうさ。
 それよりも、ハルヒだ!!
 天衣無縫なハルヒがこれ程悲しげな声を上げるからには、相当な理由がある筈だが、しかし、誇り高い団長様が人前で簡単に悲憤慷慨する筈が無い。
 って事は、周囲にハルヒの顔馴染みは存在しないと断言出来る訳で、詰まりは……ハルヒはずっとこのままの状態と言う事か? 
 ……ちょっと待て。
 おいおい、これ程の悲しみを抱えたままのハルヒを放置しておくだって? 
 出来る訳無いだろ!?
 いやいや待て待て、冷静になれ、俺。
 ならば何故俺はこのタイミングでこの場にいるのだ? 
 これは、その悲哀を俺が解消してやるべきだって事じゃないのか?
 そうだな……多分、俺だけだ、恐らくこの俺だけが、今のハルヒを慰めてやれるって事じゃないか? 
 いや、少なくともその手伝いはすべきだろ、違うか、俺よ?

 ……そうか、そうなんだな、詰まり、俺はハルヒに会うべきなんだ!!

 刹那の瞬間に辿り着いたその回答は、SOS団雑用の使命感をピンポイントで貫いた。
 思い立ったが吉日とばかりに、俺は即行動に移す。
「ハルヒッ、今行くぞ!!」
と声に出しつつ、強烈な責任感的何かに背中を押された俺は、短距離走者の様に猛ダッシュを敢行した。
 そして、その速度を維持したまま、ハルヒの姿を求めながら夕空に響くその悲しげな歌声を辿って、俺は右に左にと角を曲がり路地を駆け抜ける。
 
 文字通り……ハルヒを、いや、「歌」を追い求めて。

 何時の間にやら、俺は純粋にハルヒに会いたいと、いや、未来の我が妻に会う事を至上命題にしているらしく、それに伴って、当然の如く、脳裏からは『規定事項』やら『禁則事項』と言った未来人関連の重要単語は消し飛び、先刻までこの時代の人物と遭遇しない様にと細心の注意を払っていたのが嘘の様だ。
 更に、父親としてはだ、本来なら迷子の愛娘の捜索を優先すべきなのだろうが、あちらにはヤスミが寄り添ってくれているし、まぁ、何だ、コハル……済まないが、今は悲しみに呉れているママを先に慰めさせてくれないか? 
 何と言っていいのやら、説明し辛いんだがな、パパの勘がそう告げているんだよ、「それが最善」だと……それが終わったら、直ぐにお前を探しに行くからさ。

*****

 泣斬馬謖の心境のまま愛娘に謝罪しつつ、脇目も振らない全力疾走を続け路地を疾走する事1分少々。
 突然住宅街が途切れ、しかし、路地はそのまま真っ直ぐに伸び、雑木林に囲まれ寂れた雰囲気の小さな児童公園へと続いていく。
 そして、公園を囲む木々の間から懐かしい夙川の遊歩道が確認出来た。
 だが、某かの感慨を抱く間も無く、全力疾走状態を保持したまま、公園入り口に設置されている車両止めを避けつつ人気の無い園内に突入、更に其処を一気に突き抜け、川岸沿いに造成されている遊歩道に飛び込む俺。
 歌の発生地点目掛けて、文字通り一目散であった。
 遊歩道に到達し、眼下に夙川の川面を見渡せる位置で俺は急停車する。
 予想通り周囲に人気は無かった。
 だが、どうやらハルヒ独演会を鑑賞していたらしく、豪く大人しかった鳩やら雀やら鴨やらが、突然走り込んで来た不逞な輩に驚いた体で、我先にと羽ばたき大空へと逃げ出し、それに釣られてセミ達も大騒ぎで木々の間を移動し始めた。
 川岸一帯は一気に喧騒に包まれる。
 だが、騒々しい周囲を一顧だにせず、切れる息を整える事も無く、目標としていた人物を、懐かしい北高のセーラー夏服に身を包んでいる女子高生を、即座に俺は発見した。
「…………」
 件の人物は素足で夙川のど真ん中、その緩やかな流れの中に堂々と佇んでいた。
 川底に埋め込まれたコンクリブロックの影響なのか、其処は流れが急でもなく、又、それ程深く無い場所らしい。
 踝の上辺りまで水に浸した状態で、俺に背を向け周囲を憚らずに朗々と歌唱する女子高生の表情を窺う事が出来ない。
 だが、その声は勿論の事、頭に着けられているトレードマークのリボンカチューシャに、姿格好&雰囲気存在感と言った有りとあらゆる情報が告げてくれる。

 その女子高生は間違い無く……将来の我が妻、才色兼備と天上天下唯我独尊っぷりで有名なSOS団団長涼宮ハルヒ、その人であると。

*****

 それを認識した瞬間、懐かしさの余り凄まじい歓喜の波動に俺は包み込まれた。
 情けない事に激しい情動の余り目が潤んだ様で、視界がボンヤリと滲み鼻の奥がツンッと痛む。
「ハルヒ……」
と言う掠れ気味な独言と同時に、その女子高生は岸壁で発生した喧騒に反応、歌う事を止めて「一体何事!?」と言った風情で勢い良く背後を、いや、俺の方を振り返った。
 そして、次の瞬間、互いが互いを認識する。
 2人の距離は3m程。
 特に遮る物は存在せず、女の子は川の中から俺を見上げ、俺は岸壁から女子高生を見下ろす格好だ。
「…………」
「…………」
 無言で互いを見詰める俺とハルヒ。

 だが、高校生ハルヒと久方ぶりに顔を会わせたにも係わらず、俺は先程感じた喜色に染まった懐古の情が即座に消え去るのを感じ取る。
 そして、それに取って代わったのが驚愕と言う名の情動であった。
「…………」
 色々と長い付き合いだ、歌声を聞いた時からハルヒが悲嘆に呉れているのは予想していたさ。
 だが、実際に接してその表情を、いや、目元を濡らし頬を伝うその雫を認識した瞬間、現在過去未来と言った時の区割りを超えて、原因が判別していない筈なのに、何故か俺は凄まじいまでの罪悪感に心と身体を切り刻まれたのである。
 俺は歯を食い縛りそれに耐え忍びつつ、見間違いかもしれないとばかりに何度か瞬きを繰り返した後、恐る恐るハルヒの顔を再度見詰め直した。
「…………」
 だが、その美しい水滴が消え去る事は無く、やはり事実は事実でしかないらしい。
 それを愕然黙然と受け止めながら、俺はその澄んだ雫を、ハルヒの頬を流れ落ちていくそれを、呆然と眺める事しか出来なかった。

 将に驚天動地、SOS団団長涼宮ハルヒは……大粒の涙で静かに頬を濡らしていたのだ。
 ……そう、そうなのだ。
 ハルヒは悲歌慷慨しながら、本当に慟哭していたのだ。

 それは、その事実は、凄まじいショックを俺に与えてくれた。

 何故ならば……。
 何故かと言うと……、それは、俺が、付き合いの長い俺が、初めて、そう、初めて目の当たりにした、ハルヒの……涼宮ハルヒの、絶望的なまでの悲嘆に呉れた、本気の涙、だったからだ。

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  1. 2013/09/22(日) 22:39:59|
  2.  そして、夢見る少女は大人の階段を昇る……。
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  4. | コメント:0
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